5-4 君の本当の気持ちは、どこにあるの?
文字数 2,916文字
それから、一通りショッピングストリートを楽しんだ後、僕はトイレに、木谷くんは夕食をとるお店を決めに一旦別れた。
このデートで改めて分かったことは、木谷くんがいかに僕を好きだと言うこと。どんなに些細なことでも、木谷くんが幸せを噛み締めているんだなって伝わってきて、そんな彼が可愛いと素直に思える。
だけど、じゃあ自分も同じように木谷くんのことを思えるのかと問われると、即答できない自分がいる。
じ、とトイレの鏡で自分の平凡(にしかどう見ても見えない)顔を眺める。
悩みすぎて、眉間の皺がすごい。木谷くんのところに戻る前に直さないと、と思って押してるんだけど、ダメだ、考えが纏まらないせいで全然戻らない。
相変わらず、表情が忙しいね、君は。
その聞き覚えのある中性的な声に、僕はぴしり、と固まった。
鏡をよく見ると、僕の背後に誰かが立っている。
同じくらいの背丈だからか、僕ですっぽり隠れちゃってるけど、ちらりと見えたあのライトグレーの髪と色素の薄い目は……。
ぎぎぎ、とゆっくりと振り返ると、彼――碧人さんは涼しげな表情を崩すことなく、片手を上げて見せた。
思わず絶叫してしまった僕に、碧人さんは丸いフレームの眼鏡(伊達かな?)の向こうの目をじと、とさせた。
全力で否定すると、碧人さんはどうだか、と冷めた眼差しで僕を一瞥して回れ右をした。
そのまま出ていってしまうかと思ったんだけど、僕に背中を向けたまま1歩も動かない。
ごめん。
この前、〈SHIWASU〉で会った時、怒りに任せて君を巻き込んで……ごめんなさい。
出入り口から聞こえてくるショッピングストリートの華やかなBGMにかき消されそうなくらい、小さな声だったけど。
それは初めて聞いた、碧人さんの謝罪だった。
よくみれば、白い耳が赤いし、肩も落ち着きなく揺れている。いつも動揺なんて言葉からかけ離れたような落ち着いた態度なのに。
振り返った碧人さんは、穏やかに笑っている。
微かに頬を赤らめているせいか、いつもにも増して中性的というか、同性に見えないというか……分かっていたことだけど、この人、綺麗だなあ、さすがモデルさんだなあなんて思ってしまった。
不意打ちで聞いてしまった実ちゃんと瞳さんの話に、ずきん、と痛む胸を押さえながら、僕は精一杯笑おうとした。
すると、碧人さんはむっと眉を寄せて、
そう。結局、あれから色々あってね。
その中で、我慢できずにハルにもう1回やり直さないかって言ったんだよ、瞳。しかも僕の目の前でするもんだから、すごーくムカついた。
まあ、ハルが完膚なきまでに振ってくれたから、ざまーみろって思ったよ。
でも、振られた瞳の顔がまたイヤに清々しくてさあ、やっぱりムカついたけど。
なりたいよ。ハルじゃなく、僕だけしか見てなくて、今よりずっと高い場所に立つ瞳の本命にね。
今の瞳じゃ全然ダメだよ。振られてもハルハルってうるさいし、僕に変な罪悪感持ってるし、芸能界での立場だってそんじょそこらの成功しかしてないじゃない。
碧人さんの目は本気だった。軽い口調のように聞こえるけど、言葉のひとつひとつに重みがあって、受け止めるのが大変だ。
碧人さんも、木谷くんと同じだ。本気でたった1人に恋をしている。
碧人さんが再び僕に背中を向ける。
今度こそ、行ってしまうのかな、と思った刹那、そうだ、と彼が小さく呟いた。