062 父の大きな背中
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(画像はイメージです。)
まだ中学一年で体格の劣る俺は、その後ろ姿を憎々しげに見あげた。今は俺のほうがチビだが、いつか追い抜いてやる。今に見ていろ。くそ。負けてたまるか。遅れてなるものか。意地でもついて行くぞ。俺は歯を喰いしばって足を運んだ。
俺の肌は母の優子に似て、
一方、浅黒い父の肌は日焼けに強かった。強烈な陽射しの下でも平然としている。俺は恨めしく思いながら、後につづいた。 太陽の照りつける下を、このまま昼飯も食わせてもらえずに歩きつづけるのかと思っていたら、そんなことはなかった。昼ごろ、ようやく中間地点の調布にたどり着いた。
父はエネルギーがなければ人間は活動できない、飯は人間のエネルギー源だ、いい物を食おうと言って、焼肉屋に入っていった。大規模な郊外型チェーン店だ。ダンプの運転手や工事現場の作業員など、体のでかい大人たちで店は込みあい繁盛していた。彼らはじろりと俺のことを見た。場違いなヤツ、と視線が語っていた。普段の俺なら睨み返すところだが、この日はもはやそんな気力はなかった。
俺は暑さと疲労で、ほとんど食欲がなかった。体中がひりひりと火照る。食事を無理やり口に入れても、おいしくない。人間は極限まで疲労すると、味覚が
父は違った。カルビ、タン、レバー、若鶏スペアリブと次々に注文して、備長木炭で灼けた鉄板の上に載せていく。脂がしたたり、音をたてて木炭を焦がす。香ばしい匂いが立ちこめる。父は焼ける端から、うまいうまいと言って平らげていく。肉だけじゃだめだ、炭水化物は人間にとってガソリンと同じで、こいつが燃焼してパワーになる。そう言って、ライスもどんぶりに山盛りで食べはじめる。
俺が父の
じつを言うと俺は、俺の疲労ぶりを見かねて、父はここで俺を解放してくれるのではないかと秘かに期待していたのだ。
甘かった。父は最後までやるつもりなのだ。そういう男だ。それを知った俺は、味のしない肉と米を機械的に乾いた口の中に運び、辛抱強く噛みつぶし、苦労して飲みこんだ。食べないと体が持たないことが、自分でも分かっていたからだ。
だが、いったい何のために、父はこんな無謀なことを俺に強いるのだ? ぼんやりした頭の中で俺は自問した。父に尋ねても、また怒鳴られるだけだ。
昼食が終わると、炎天下の強行軍は再開された。暑さは最高潮に達していた。無慈悲な夏の太陽が、容赦なく地上を
しかし父はそんな俺にまったく構うことなく、どんどん先に進んでいく。あいかわらず落ち着きはらった背中を俺に見せながら。
こうなったら、こちらも