022『冬のソナタ』大ヒット中!
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次にタウンページ巻末の公共機関のページで、新宿近辺の交番の所在を調べた。できるだけ規模の小さいところがいい。だが本庁と各所轄署の電話番号しか記されておらず、交番については記載がなかった。これは別の方法で探すしかない。
新宿区役所を出た俺は、区役所通りを右折し、靖国通りに出た。通りに沿って西に歩く。歌舞伎町を右に見ながら、東通り、さくら通りと順に交差する。このあたりは軽々しく口にすべきでない稼業の店が多く、しかもそういう店が繁盛するのは夜と相場が決まっているから、まだ陽のある現在は活気にとぼしい。歌舞伎町にしては人間の数も少なく、道幅もせまく、建物も低い。陽の当たらない社会の裏側に特有の、うらぶれた風情がただよう。
東通りから、さくら通りまで行く途中に〈尾張屋書店〉があった。店先のサブナード入口付近に若い男が立っていて、別の若者に何か手渡しているのが見えた。受け取った方は、わき目もふらず足早に去った。
俺は尾張屋書店に入った。レジ前に『冬のソナタ』のポスターが貼られている。柔和なイメージの色白メガネ青年がはにかむように微笑んでいる。昨年から今年にかけてテレビ放送され、中高年女性を中心に大ヒットし、社会現象にさえなっている韓流ドラマだ。もはや現代の日本では気恥ずかしくて見られなくなったナイーブな純愛を、あえて時間をかけて丁寧に描いたことが逆に新鮮で、視聴者から圧倒的に支持される要因となった。ノベライズや写真集など関連書籍が平積みされている。
俺は「新宿区住宅地図」を探した。レジ横の地図コーナーにあった。文庫サイズで1600円だ。住宅地図というのは、どこの地番にどういう建物があって、どういう人間が住んでいるか、建物と住人の具体的な名まで調べて記入してある詳細な地図である。住宅地図調査士という専門家が足で調べる。だから値段もすこし高めである。俺は一冊買い求めてリュックにしまった。後でこの住宅地図を使って、タウンページで所在を確認できなかった交番を探すつもりだ。
尾張屋書店を出ると、さきほどの若い男は、まだサブナード入口付近にいた。何をしているのだろう。
✽平成16年10月30日(木) 亜樹夫の足取り
①西新宿探偵社
②新宿バッティングセンター
③新宿区役所
④尾張屋書店