063 関戸橋
文字数 1,062文字
多摩川は都内にある河川としては大規模で、関戸橋の全長は優に300メートルを超える。鉄筋コンクリート製で、上り3車線、下り2車線の堂々たる造りだ。アスファルトで舗装された橋の上を、乗用車、トラック、ダンプがひっきりなしに往来している。たえず轟音が響きわたり、砂埃が舞い上がる。空気も排気ガス臭い。ようするに交通量の激しい幹線道路そのものの眺めで、橋といっても風情も情緒もなにもない。
騒がしい関戸橋を渡りきると、父が小休止しようと言う。土手を降りて、草の茂った河川敷を下流へむかって歩いていく。300メートルも歩くと、橋上の騒音は聞こえなくなった。川の流れは穏やかだ。河川敷にはところどころに樹々の茂みがあり、黒く影を落としている。日光が強いからコントラストが激しい。緑が風に揺れる。
足元に黒く焦げた石の円陣をいくつか見つけた。釣人が
俺は、河川敷に根を張るプラタナスの木陰に倒れこむように腰をおろした。体中の筋肉が
午後もだいぶ回っていたが、真夏の太陽はいっこうに勢力が衰えない。父がいなくなると、俺は地面にひっくり返った。全身が
大の字になってプラタナスを見上げた。蒼々と生い茂った葉が、陽射しの猛威を和らげてくれている。木洩れ陽が顔にあたる。背中の下草がやわらかい。川面を渡ってくる風が涼しかった。考える力はもうない。太陽があり、樹があって、死んだように横たわる俺がいる。ただ、それだけだった。
気がつくと、