024 護身具ショップ〈アスピーダ〉
文字数 1,043文字
神はみずからの姿に似せて人間を創造したという。だからトレーニングと節制によって鍛えあげ、ストイックに完成された人間の肉体は、神に似て地上で最も美しい芸術品なのだ。しかし、この二人の警官はそれだけの強い意志をもたず、
俺はそのままの歩調で、胸を張って警官たちとすれちがった。一家惨殺の容疑者であるはずの俺に対し、警官たちは何の関心も払わなかった。
犯罪者が職務質問で馬脚をあらわし逮捕されるのは、警官を見て動揺し、あわてた態度をとるからだ。俺のように堂々としていれば、職務質問を受けることはない。
新宿コマ劇場の左横をすりぬけてから左折すると、正面に東急文化会館が現れた。公開中の映画の大看板が正面にかかっている。付近の路地の一本に入っていく。そばのパチンコ屋でがなりたてる客よせアナウンスが、背後から無遠慮に追ってくる。うるさい。
タウンページで住所をメモした雑居ビルを発見した。階段を昇り二階にあがる。俺は階段を昇る際に一切音を立てない。背筋を伸ばし
俺は〈アスピーダ〉と看板のかかった護身具ショップのドアをくぐった。
「いらっしゃいませ」
カウンターの女子店員が営業スマイルで迎えた。20歳くらいだ。丸襟の白いブラウスに、青いベストを着ている。襟元には水玉模様をあしらった赤いスカーフを巻いている。
どういうわけか、女子店員は挨拶をしたまま、放心したように俺の顔を見つめている。俺はひやりとした。
テレビ・ニュースで、肉親殺しの犯人として俺の顔写真が公開されたのか?
それでこの女は俺の顔をまじまじと見ているのか?
さきほどの警官以上に観察眼が鋭いのか?