010 俺は父の両眼を潰した
文字数 1,529文字
俺はその状態で、もう一度、計画に一から検討をくわえた。盲点はないか、無理はないか……。
完璧だった。計画に穴はない。頭の中で考えながらも、俺の体はきわめて正確にボールに反応していた。振り抜いたバットがボールの芯を捉える、したたかな手応えを感じた。打球は宙天めがけて一直線に飛び、「ホームラン」の電光ボードに命中した。ファンファーレが鳴って、ネオンが明滅する。
俺は満足すると、バッティングブースから出た。麻雀や格闘、シューティングなど各種テレビゲームが置かれたゲームコーナーの横を通り、店内奥のトイレに入った。壁面が黒タイルで覆われている。洗面台に向かい、蛇口を勢いよくひねる。飛沫をあげながら顔を洗う。冷たい水が心地よい。汗を洗い流すと、リュックからタオルを出して顔を拭く。
洗面台右に、鏡が設置されていた。鏡に映った自分の顔を見る。拭き残した水滴が、白く
俺はバットの素振りだけでなく、日頃からベンチプレスやスクワットで筋力トレーニングにも励んでいた。
バッティングは全身運動なのだ。重いバットを意のままに振り抜くには、相当な筋力を必要とする。大地に足を踏んばって腰を回転させる際には、下半身の大腿二頭筋と半腱様筋を使うし、バットを振り抜く際には大胸筋、上腕二頭筋など上半身のあらゆる筋肉を総動員する。一流のプロ野球選手は例外なく、みな筋力の発達したすばらしい肉体の持ち主ではないか。俺は身長が186センチあるが、鏡に映った上半身を見てみると、大胸筋や僧帽筋が発達して服の上から見ても胸や肩がたくましく盛りあがり、逆三角形のみごとなシルエットを描いているのがわかる。
人間の肉体というのは、神がこの世に創造した最も美しい芸術品である。ただし、研磨する前のダイアモンド原石がただの
俺は鏡に笑いかけた。鏡の中の俺が自信に満ちた不敵な笑顔を返す。大丈夫だ。おまえはきっとやり遂げるさ。おまえにはやり遂げられる能力と意志がある。安心しろ。
俺は満足し、新宿バッティング・センターを後にした。
小学生のとき父に買ってもらった金属バットは、現在まで大切に使ってきた。俺の宝物だ。日本の武士が刀を単なる人斬りの道具とは見なさず、
そして俺はその金属バットで、父を撲殺した。しかも両眼を
✽平成16年10月30日(木) 亜樹夫の足取り
①西新宿探偵社
②新宿バッティングセンター