011 世界でいちばん悲しい夜
文字数 975文字
寝室にはシングル・ベッドが二つ並んでいて、奥のベッドには父より先に昇天した母・優子が横たわっている。母は撲殺ではなく、窒息死だ。絞められた痕跡として首の回りが赤く
俺は、息絶えたあとも父と母、そして妹の三人を、同じ部屋で静かに眠らせてあげたかったのだ。だから父をこの寝室に運んできた。別室ですでに息絶えている妹も、すぐに運んでくるつもりだ。父の遺体はずっしり重く、長年の苦労が蓄積しているように思われた。
父の遺体を、いつも父が使っていた手前のベッドに安置した。母の遺体も奥のベッドから同じベッドに移動することにした。仲がよく、生前いつも一緒だった父と母。尊敬しあい、助けあっていた父と母。息絶えた今も、できるだけ近くに置いてあげたかった。
俺は母の遺体を担ぎあげた。父と違って驚くほど軽かった。かつては健康で美しかった母が、こんなに
俺は目を疑った。母はまだ44歳なのに、頭の右半分にはほとんど毛髪がない。左半分も疎らで地肌が透けて見えている。半年前、母の髪形が突然変わったのでどうしたのと訊いたら、母は美容院に行ったのよと答えた。俺はそれで納得してしまったのだが、本当は髪が抜けてウイッグを被っていたのだ。そのときの母の寂しそうな哀しそうな様子に気づくべきだった。事態はそこまで深刻だったのだ。そうと知っていれば、もっと孝行をつくすべきだった。
いつも俺に優しかった母さん。なにも気づかないで、ごめんね。
俺はこの母から、どんな小さな生き物にも命があり、それを