074                      side B

文字数 2,164文字

「だから……和加ならこの程度の愉しさくらい、そこまでしなくても味わえるモノだろが。なのにムリって言うんなら、そっちをオレが何とかするよ。ルールだの戦いだの、決めて管理してるアホをブッ潰してやるっ。それなら鬼一口の一発勝負で済むし、惜しまず一死報(いっしほう)和加で、全身全霊の賭け甲斐もあるってもんだ」

「一死報国をモジったわけねまた……だからムリなの。崎陽にはこの程度のことでも、ワタシたちにはこの上なく特別なことだし、ルールを決めて管理しているのもワタシたちだもの。この戦いを考案して開始した、まだ負けていない最初のヌースたちだけでなく、今や審理も管理も参戦しているヌース全てで行っていると言えるし」

 どうしてもまだ、寝たきりでベッドから動けない和加のイメージが、払拭しきれない崎陽だった。

「ガチかよ、なんてこっただな。……オレが言うのも何だけど、思いどおりに動けないと、毎日毎日ひがな一日ヒマすぎて、極端に突っ走りたくなるのはわかるけどさ。でも同じ立場の連中同士できっちり守ってるルールなら、再案を緊急動議して変えられるんじゃね?」

「それはないわ、ワタシたちには後戻りできない真剣勝負なのよ。みんな、自分が一番優れていると信じているし、厳選したオルターエゴゥとともに勝ち残れるって、まだ疑いも湧きようがない群雄割拠状態なんだもの」

「……その、雄ってのに、オレはそもそもハズレてて群れられもしないんだけどな」

「崎陽は何の日本一でもないと言うけれど、ワタシが日本の男子の中から選びぬいた一人なのよっ、それだって立派な日本一じゃないかしら」

「そりゃどうもっ。まぁ陳腐なオンリーワン理論にすぎなくても、自称IRの女神から告勅(こうちょく)されると気休めにはなるって。けどさぁ、自分を賭けた真剣勝負と嘯く割りに、和加からは必死さや悲壮さが大してカンジられないんだよな」

「そんなの当然でしょ。必死も悲壮も崎陽は大嫌いじゃないのよ、カンジさせるだけマイナスにしかならないし、ワタシは最初から常に真剣なんだもの」

「なぁ和加……まさかとは思うんだけど、実はもう、自棄クソになるしかないくらい体の具合が悪かったりするんじゃないだろな?」

「何よ、またいきなりぃ」

「ガチだって。負けて、今のなけなしの自由が奪われたところで、どうにもならないドン底にいることに変わりはないから、もうどうでもいいとか? フツウそうわっさりのさのさと、諦めを受け容れる覚悟なんかできやしないもんだしさ」

「キャハハッ、まさかぁ。体は動かせないけれど、具合は悪くなんか全然ないし、頂点を目指しているのにドン底にいるわけがないわよ。むしろ逆でしょ、覚悟を決めちゃったから、ワタシはわっさりのさのさしていられるの。必死で悲壮にアピールしたところで、それこそどうにもならないんじゃない?」

「……ガチでか? 動かせないのかよ、マジに体……」

「ホント、随分な大荷物ですね同志崎陽、ワタクシが左手の三つを持ってあげましょう。今日はこれらを買い込むために、ホームセンターへ寄り道したのですか?」 

 だしぬけに崎陽から紙袋を手どって横へ並んだのは、かなり小柄な少女──。

 見慣れないと言うよりも、どこか海外の民族衣装にしか見えない地味派手な制服にも崎陽は度胆をぬかれてしまう。
 とりわけ、胸に並ぶ銃弾を嵌めておけそうな飾りは、ナウシカの飛行服がベースになっていると思えてならない。 

「……誰っ? って言うか返してくれ、雑に扱うとヤバい代物なんだって」

 けれども少女は、ニッコリと上品な笑みを崎陽へ上げてよこす、

「やっぱりヤバい代物でしたか。大丈夫、お話が済んだら返します。こう見えて、これくらいの荷物はしっかり運べますから、安心してください」

「……って、ガチに一体どちらさん?」

「ワタクシ、星林佳歩と申します」

「ホ! って……」臆面もなく面喰ってしまう崎陽だった。

「決して怪しい者ではありません。ですが、名刺を出す方が怪しくなるので控えさせていただきますけれども、鵄立志中等教育学校の生徒で、同志崎陽とは同学年に相当します」

「ガチか~? あんたがJK社長だってのかよ……社員たちはどした? 母ちゃんが留守なのをいいことに、先にウチを押さえたんじゃないだろなっ?」

 思いきり顔が険しくなっている崎陽に、星林佳歩は事もなげな目を向ける。

「そんな無礼なことはしません、今日は本当にお話だけしに来たんです。けれども、そのリアクションだと、ワタクシから自己紹介を続ける必要もないくらい、ワタクシのことは知ってもらえているようですね。話が早そうで助かります」

「……話なら聞くって。単純明快にしてくれればオレも助かる。先に単刀直入に言っとくと、オレはガチでバトりたくない」

「……そうですか。それは本当に助かりますけれども……」

「そのために呑める条件は呑むけど、ムリはムリ。バトるとなれば、勝つまで死ぬ気で死ぬまでやるシチモクレンなアホなんで、オレに関わるだけ損するぞ。社長なら、その辺もしっかりソロバンを弾いてから話を始めてくれよな」 

 崎陽は、和加が怒涛のごとく始めている言いわけと対応策のまくし立てに、意識が遠のきそうになりながらも、星林佳歩の次元を異にした落ち着きに、ガッシリと引き戻される面妖な感覚をも味わわされていた──。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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