056 side B
文字数 1,859文字
そうして崎陽は前に立つ丸太の一本を盾にしながら、発射姿勢を椎座に見せずにラウンダルを曲げ撃ちだす。
しかも一発撃つたびに、丸太の間を跳ね動いては踏ん張りとどまって、撃ち出す高さにまでも変化をつけていく。
「うわ、ガチッスかぁ。日本にもそこまでのことをする人がいただなんて、インドやカメルーンのプレイヤー張りッス。狭いようで広かったッスねこの国も」
「……日本人もルーツはアフリカからインドを通って来たはずじゃねっ? なら、オレに似たようなことがやれるのも当然だって」
「まあ、結果どっちも俺が仕留めて、勝ったッスけどねっ」
崎陽の視界には丸太もしっかり映っているが、それを透かすように重ねた合成画像で、椎座の姿も定定 と見えている。
椎座がスクワート‐キャノンの環帯状グリップをスライドさせたわずかな動作も、その有効射程とペイントの飛散角度を知らせる三角形のインディケーターが、細長く変わったことで一目瞭然。
崎陽にとっては、同時更新される各予測数値を確認するまでもない。
その、現時での調節具合で椎座がトリガーを押せば、ペイント粒の弾丸は数が減るものの距離は充分崎陽へ届き、飛ぶ幅も盾にしている丸太よりも少しばかり広くなるため、体が隠しきれていない部分にヒットする可能性もが示される。
崎陽はかっかちめいて両足を丸太から離し、地面へ着地。
素足が受ける衝撃の吸収動作も怠らず、両膝を屈して深深と腰を沈み込ませた。
そのまま身を低くしていれば、椎座との間にも斑散 り立つ短い丸太が遮蔽になってもくれるけれども、椎座から発射されるのはペイント粒。
じっとしていては、絶対に椎座が狙い撃ってくる上、射線上にいるだけで、隙間をすりぬけた粒や、降りかかって来る粒がヒットしかねない。
崎陽は膝を屈め続けて、下りた二本の丸太を中心に右往左往‐前進後退、ちょこまかと躙 り動いて椎座の照準からのがれつつ、ラウンダルも曲がり落ちる軌道で放ちまくった。
とにかく椎座は、ピスタがライトニングセイバーで射出する可能性がある光線を警戒して、左手側を意識しつつ多少ズレ動いてみながらも、立ち並ぶ丸太が死角をつくってくれている現在のポジションからは、大きく踏み出すことができない。
よって崎陽が、ラウンダルを放つ手を休めなければ、マガジン交換にモタつかなければ、ピスタが先に倒されてしまわない限り、椎座の砲撃も防御のまま、攻めへと転じさせずに済む。
この、椎座を釘づけにしておく状態を、いつまで長引かせられるかは崎陽の体力次第。
自明の理であるだけに、崎陽は、低い体勢を維持しながら手足ともフル稼働のテンテコ舞を継続することに早くも辛労さを覚えずにはいられなくなってきていた。
直接椎座と相対 してからは、和加の言葉に耳を貸しつつも、受け答えはほとんど疎慢にしかしていなかった崎陽だが、苦し紛れに、小焦れだしている和加へダメ元で哀訴を試みる。
「悪い和加っ、ピスタがどんなカンジか教えてくれね?」
「知らないわよそんなことっ。ワタシが指示したタイミングで走らなかったから、ここを離れられなくなったんでしょ」
「……ったく女子だなっ、ヘソもツムジも終わってから曲げてくれね?」
「ほらっ、ラウンダルの発射リズムが落ちたわよ、撃つ手を疎かにしないの。次に移動のタイミングがきても全速力で走れるわけ? 裸足にまでなっちゃっててぇ」
崎陽は必死に、手も足も動かすリズムを戻しはするも、一気に増す辛労さから「お願いだ和加、頼むからピスタを見てくれよぉ」と、今度は愁訴になってしまう。
「も~自分でツラくしておきながらぁ」
「いいからっ、ピスタだピスタ」
「……ピスタは眠り込んではいないようね一応。先ほどからほぼ変わらず、崎陽がスニーカーを投げ込んだ近くで何かをゴソゴソやっているみたいだけれど、背中を向けているカメラでしか姿が捉えられないから、それ以上はわからないわ。今スグ攻める気なんて、なさそうなことだけは確かね」
「……どうもなっ。ピスタに動きがあったら教えてくれ必ず。それと、ここを離れるなら左の方に行きたいんだけど、斜め前に生えてる樹の陰とかさ。あの幹の太さならオレの体くらい、丸太と違ってはみ出さずに隠せるんじゃね?」
崎陽は軽く差し仰ぐ。
そうして崎陽の頭上、左側から広がっている葉陰をつくる枝張りを、D‐ヴァイザーのカメラが撮影するアングルへと入れる。
それで、移動したい先の第一候補が、この広場の崎陽から見て左寄りに生える孤樹だということを和加に伝えた。
しかも一発撃つたびに、丸太の間を跳ね動いては踏ん張りとどまって、撃ち出す高さにまでも変化をつけていく。
「うわ、ガチッスかぁ。日本にもそこまでのことをする人がいただなんて、インドやカメルーンのプレイヤー張りッス。狭いようで広かったッスねこの国も」
「……日本人もルーツはアフリカからインドを通って来たはずじゃねっ? なら、オレに似たようなことがやれるのも当然だって」
「まあ、結果どっちも俺が仕留めて、勝ったッスけどねっ」
崎陽の視界には丸太もしっかり映っているが、それを透かすように重ねた合成画像で、椎座の姿も
椎座がスクワート‐キャノンの環帯状グリップをスライドさせたわずかな動作も、その有効射程とペイントの飛散角度を知らせる三角形のインディケーターが、細長く変わったことで一目瞭然。
崎陽にとっては、同時更新される各予測数値を確認するまでもない。
その、現時での調節具合で椎座がトリガーを押せば、ペイント粒の弾丸は数が減るものの距離は充分崎陽へ届き、飛ぶ幅も盾にしている丸太よりも少しばかり広くなるため、体が隠しきれていない部分にヒットする可能性もが示される。
崎陽はかっかちめいて両足を丸太から離し、地面へ着地。
素足が受ける衝撃の吸収動作も怠らず、両膝を屈して深深と腰を沈み込ませた。
そのまま身を低くしていれば、椎座との間にも
じっとしていては、絶対に椎座が狙い撃ってくる上、射線上にいるだけで、隙間をすりぬけた粒や、降りかかって来る粒がヒットしかねない。
崎陽は膝を屈め続けて、下りた二本の丸太を中心に右往左往‐前進後退、ちょこまかと
とにかく椎座は、ピスタがライトニングセイバーで射出する可能性がある光線を警戒して、左手側を意識しつつ多少ズレ動いてみながらも、立ち並ぶ丸太が死角をつくってくれている現在のポジションからは、大きく踏み出すことができない。
よって崎陽が、ラウンダルを放つ手を休めなければ、マガジン交換にモタつかなければ、ピスタが先に倒されてしまわない限り、椎座の砲撃も防御のまま、攻めへと転じさせずに済む。
この、椎座を釘づけにしておく状態を、いつまで長引かせられるかは崎陽の体力次第。
自明の理であるだけに、崎陽は、低い体勢を維持しながら手足ともフル稼働のテンテコ舞を継続することに早くも辛労さを覚えずにはいられなくなってきていた。
直接椎座と
「悪い和加っ、ピスタがどんなカンジか教えてくれね?」
「知らないわよそんなことっ。ワタシが指示したタイミングで走らなかったから、ここを離れられなくなったんでしょ」
「……ったく女子だなっ、ヘソもツムジも終わってから曲げてくれね?」
「ほらっ、ラウンダルの発射リズムが落ちたわよ、撃つ手を疎かにしないの。次に移動のタイミングがきても全速力で走れるわけ? 裸足にまでなっちゃっててぇ」
崎陽は必死に、手も足も動かすリズムを戻しはするも、一気に増す辛労さから「お願いだ和加、頼むからピスタを見てくれよぉ」と、今度は愁訴になってしまう。
「も~自分でツラくしておきながらぁ」
「いいからっ、ピスタだピスタ」
「……ピスタは眠り込んではいないようね一応。先ほどからほぼ変わらず、崎陽がスニーカーを投げ込んだ近くで何かをゴソゴソやっているみたいだけれど、背中を向けているカメラでしか姿が捉えられないから、それ以上はわからないわ。今スグ攻める気なんて、なさそうなことだけは確かね」
「……どうもなっ。ピスタに動きがあったら教えてくれ必ず。それと、ここを離れるなら左の方に行きたいんだけど、斜め前に生えてる樹の陰とかさ。あの幹の太さならオレの体くらい、丸太と違ってはみ出さずに隠せるんじゃね?」
崎陽は軽く差し仰ぐ。
そうして崎陽の頭上、左側から広がっている葉陰をつくる枝張りを、D‐ヴァイザーのカメラが撮影するアングルへと入れる。
それで、移動したい先の第一候補が、この広場の崎陽から見て左寄りに生える孤樹だということを和加に伝えた。