032                    side B

文字数 2,262文字

「……まぁ弁解する気はないけど、ガチまいるって。こんなバランスのとれた筋骨隆隆さで、あのバートリよっか二〇センチ近くもデカいのかよぉ」

「この彼もミックスド・レィス、イタリアの血が濃いクォーターだからでしょうね」

「……まったく。オレの外側だけでチャッカリ国際化が進んでいやがったんだな、この国は」

「そうそう、遅ればせながらエリザベート・蕃布・バートリのことは、フィフと愛称で呼んであげて。崎陽はスグ

って言うでしょ、女子にはフツウに失礼なんだからぁ」

「そうやって、女子っぽく話を脱線させてくなよ。女子っぽく収拾がつかなくなったら、調子が狂うも何もあったもんじゃない……って言うか、何でフィフなんだ? 名前に掠ってもいないじゃんかよ」

「そもそもはエリザベート・バートリ五世だから、フィフスのフィフよ」

「五世? とはまた豪勢だな……」

「彼女は、名前を受け継いだエリザベート・バートリ四世である(ひい)お祖母さんだけには可愛がってもらえたから、彼女も一族で唯一好きだったフォワさんと同じように呼ばれるのは嬉しいはずぅ。ワタシがついていて、それくらい索れないと思われるの嫌だし」

「フィフな……あれこれ御大層じみた奴なんで、一応心得ておくけど、あいつに関しては、ヤバげな動きをしていないかだけ教えてくれればいいから」

「……そうなの?」

「ああ。踏み込んだことは、聞けば聞くだけ顔を合わせづらくなりそうなんで。ただでさえ合わせたくないし、オレ自身が気づけてない何かを、一目でごっそりもってかれそうでさ」

「わかったわ。でもフィフとピスタも向かっているの、ワタシたちと同じ帝政義学大のキャンパス内にあるプラクティカルフィールドに」

「……あぁ堕天使どもがダダ洩らした情報でか。けど、向かったところで門前払いじゃね?」

「サヴァゲだけでなく、射たり斬ったり、進化系鬼ごっこや隠れんぼだったりのニュースポーツ施設として、一般にも開放されていて大学の収益にされているから。入場は料金を支払うだけ、顔を合わさないのはムリかも~」

 和加は、口調だけでなく声のトーンからもどことなく愉しげ。

「……やれやれだな。何でワザワザ来るんだか? ピスタの奴は当然セラフィム目当てでも、あいつ、フィフは、オレが協力するに値する戦力かを見定めたいんじゃね?」

「それは顔を合わせて聞いたら? はぐらかされても顔に出るだろうし」

「ウザ~。もう一旦ヤメだ(じゃ)らけるのは……ガチな話、この椎座って、そんな的がデカくて六学年も集まる部だってのに、高校生をさしおいて何ゆえエースを張れてやがるんだ? それも絶対的な強さなんだろ」

「今更っ? 

でしょ。見た印象どおりに鋭敏‐機敏‐俊敏‐慧敏‐巧敏のビンビビンッときているのよ。逆に二メートルのドデカさをフル活用して、フツウはムリなことをフツウにやれちゃうんだからぁ」

「ビンビビンッて、かなりヤバそ……」

「まさに崎陽を二まわり拡大したみたい。フィジカルもアビリティーも、データ比較で崎陽が勝っているのは逃げ足の初速くらいだし」

「げ~。やっぱりかよぉ、ガチの怪物なんじゃねぇか」

「さらには、体力に任せて超弩級の銃器も使うの。世界の上位ランクにいるユニットのメンバーですら、現時点で六人しか撃ち熟せないハイパワード・ビーム砲を愛用しているわ」

「ビームでも砲かよ? そんなのまでアリとはな……」

「一発でヒットする面積が桁違い、同一平面なら市販品レイ‐キャノンの二五六倍、レイ‐ハンドガンやレイ‐ライフルなら二〇四八倍以上あるぅ。振りまわすように撃たれたら逃げきれなさそうだわ」

「エゲツな~……とどのつまり、世界的にバカ高くて、どの国でも坊ちゃましか買おうって気にならねんじゃね?」
 
「売買自体が認められていないの、軍事転用できちゃう可能性があるから」

「じゃ何で?」

「所属集団内で有資格者が開発して、大会毎にレギュレーションを通過できなければ使えないけれど、技術力の高さもひけらかせる特別なアイテムなわけ。帝政義学大附属は、名に違わず大学の理工学部ともつながりがあって、その利を活かさない手はないのよね」
  
「……日本一に君臨し続けられる確固たる根拠まであるわけかよ。こりゃ勝とうなんて口にしたら、鬼も笑うしかないって」

 空笑った崎陽だが、軽くイジケも滲ませる。

「それ以上に、大きさも重量もあるバッテリーパックを背負って、人並み以上に動けるなんて怪物は、世界にもそうはいないと言うことよ」

「だろうけどさぁ……」

「フツウの人だとバッテリーパックもアジリティーを落とすために、規定ではプロテクターと同じで、背負った背中に命中してもヒット判定にならないわけ。だから、怪物を倒すには真正面からが狙い目だなんて、ホント皮肉もいいトコなのよねぇ」

「……そんな奴、古今未倒なはずだってのっ」

「ね。練習でも一応正式なバトルとなれば、全身にプロテクターを着けるし、通信でやり取りするスピーカーとマイクが内蔵されたヘルメットも被る上、眼を守るだけでなく視認性を高めるためにも大きいゴーグルが、顔までほとんど隠してしまうし」

 崎陽の脳裏では、自身でも乗って飛べる巨大なフライトユニットを背負ったガンダムが想起されていた。そのボディーのメインカラーは青だけれども……。

「オマケに大砲まで持たれちまったら、よっぽど精確に素速く狙わなけりゃ、こいつにヒットさせるなんてムリだっての絶対っ」

 これぞ、

、のお手本といった表情を浮かべる崎陽だった。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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