024 side B
文字数 2,044文字
それをただちに和加から知らされた崎陽は、咄嗟というより脊髄反射的に、子供相手だからと安直に乗っかった子供騙しで、事態の収束にムリ押しで取りついた。
「どうだぁ、ドッキリしちゃったかおまえら~?」
「したしたっ。ねぇこれ、いつTVでやるのオジサン? 何て番組?」
「オジ……さぁなっ。おまえらのリアクションがイマイチなんで、オンエアーはないかもだ。それじゃこれにて撤収、さらばだガキンチョどもっ」
崎陽は撤収と言ってしまった手前、蹴り倒されたまま両足でモソモソ空を蹴り歩行動作を続けているロボットを引き起こし、意想外の重さにじれ込みつつも力尽くで引き摺り運ぶ。
ロボットの背面に、キャスターバッグへ変形するというその際の把手になりそうな部分に気づいたまではよかったが、キャスター部分が見当たらないため、まさしく駄駄をこねる子供の後ろ襟を掴んで、強引に連れ帰るオジサンと化してしまう崎陽だった。
「キャハッ、オジサンだってぇ。いくら外柔内鬼の崎陽とは言え、まだ一六にもなっていない温良そうな紅顔をどう見ればそう見えちゃうのかしら~」
「ウルセ~。あんなガキンチョどもには、和加もおそらくオバサンだってのっ」
「人間って不思議~。あの年齢の眼にはこの世界って、どんな風に見えているんでしょ?」
「ったく。それよりこのロボタン、どうすりゃ楽に運べるバッグになるのかを教えてくれよ。ドッキリでごまかすには撤収の迅速さが命だろがっ」
「はいはい……撮られている画像や動画からだと、体育座り姿勢から腕脚が胴体に密着して、お尻部分にタイヤが出るようね。そうするには、ピスタチオの声で命じないとダメみたい。アンテナまで壊しちゃっているし、これまでに集まってるサンプルから合成した音声で命じるのもムリだけれど」
「チッ。自業自得かよ、骨が断てても肉を斬れちゃダメだなやっぱ」
「えぇっ、空気弾がどこかに当たったから、痛くて力が入らないの崎陽?」
「……まぁチョットばかし左腕にな。右手だけで引き摺るにはバランスが悪くてさ」
「なら待って、今──あら~、来てくれちゃってるぅ。ピスタチオを撤収しようとしているあのクルマまでガンバれる?」
「え? それどう言う──」
和加の催起で、崎陽の目にも先ほどから映っていた事態の全てが、ようやく実感として認識されてくる。
「そう、あのクルマの所よ」
「ってあれ? この前レーザーを撃ち逃げしやがったクルマじゃねっ! なら撃ったのはあいつなのか……でもあれ、女子だよな? だろ?」
掛けている赤紫色のミューツアルグラスのレンズが、今はすっかり透明なので、その顔貌も瞭然。
その目元の状相から凛凛しげな同年代女子であることは間違いないが、髪は玄牟どころか崎陽より無造作でも爽 かなヴェリーショート、そして身長だけならば崎陽と大差ない玄牟を優に超えていた。
<エリザベート・蕃布・バートリ‐イメージイラスト>
スーパーモデルにはバストとヒップのサイズが不足しているという見映えながら、どうにも腕脚が異様というか妖異なまでに長く、着つけている白シャツとバーガンディー色のジーンズも、ともに七分丈ファッションではなしに、ただのツンツルテンに見えてならない。
その無頓着さ、辺幅 を飾る気がない同年代女子では異端となるありようは、崎陽にそこはかとなく底知れぬヤバさ、敵対する際の難儀さをカンジさせる。
「彼女もオルターエゴゥだけれど、大丈夫だから。氏名はエリザベート・蕃布 ・バートリ、一見日本人だし日本育ちでも、ハンガリーとイギリスの二重国籍で、なんだか、いろいろ複雑そうなの」
「なら、そこはいいって話さなくても」
「先月一六歳になって学年的には崎陽と同じだけれど、去年の暮れ辺りから登校拒否をした挙句に退学しちゃったようね、小学校から通っていた高御座 女学館を」
「高御座ぁ……」
「フ~ン。お隣、薇市のほぼ駅前なのに、回遊式庭園なんかがある議事堂みたいな立派なガッコなのね、知ってたぁ?」
和加にしては珍しく、どこか合点がいかないカンジで聞き返しまでしてきた。
「げ~、高御座かよっ。知らないのか? 偏差値が意味ない全国屈指の超難関校で女子御三家の一つ、末は宇宙飛行士か国連事務総長かって言う雷名轟轟な魔王女どもの巣窟だぞ。あそこをハミ出す突然変異は、あらゆる意味でとんでもないって言われてるし」
「そうなの、とんでもないカンジ~。けれど、さておき今は助けてもらって。この場からの速やかな退去のためにもね、早く崎陽の左腕の具合を診ないと」
「オレの腕ならいいって。痛みが引こうが引くまいが、一晩眠れば慣れちまうだろうし」
「ダメっ。ワタシが診るだけだからいいでしょ、とにかくガンバって急ぐ!」
「はいはい……」
左腕の痛みをふり払うように崎陽は歩度をシャリムリ上げる。
目指すクルマは、広く空いた駐車スペースの仕切り線を無視して停められていた。
前方から見ても無二無三 の目新しさで、エンブレムさえなく製造元の見当もつかない──。
「どうだぁ、ドッキリしちゃったかおまえら~?」
「したしたっ。ねぇこれ、いつTVでやるのオジサン? 何て番組?」
「オジ……さぁなっ。おまえらのリアクションがイマイチなんで、オンエアーはないかもだ。それじゃこれにて撤収、さらばだガキンチョどもっ」
崎陽は撤収と言ってしまった手前、蹴り倒されたまま両足でモソモソ空を蹴り歩行動作を続けているロボットを引き起こし、意想外の重さにじれ込みつつも力尽くで引き摺り運ぶ。
ロボットの背面に、キャスターバッグへ変形するというその際の把手になりそうな部分に気づいたまではよかったが、キャスター部分が見当たらないため、まさしく駄駄をこねる子供の後ろ襟を掴んで、強引に連れ帰るオジサンと化してしまう崎陽だった。
「キャハッ、オジサンだってぇ。いくら外柔内鬼の崎陽とは言え、まだ一六にもなっていない温良そうな紅顔をどう見ればそう見えちゃうのかしら~」
「ウルセ~。あんなガキンチョどもには、和加もおそらくオバサンだってのっ」
「人間って不思議~。あの年齢の眼にはこの世界って、どんな風に見えているんでしょ?」
「ったく。それよりこのロボタン、どうすりゃ楽に運べるバッグになるのかを教えてくれよ。ドッキリでごまかすには撤収の迅速さが命だろがっ」
「はいはい……撮られている画像や動画からだと、体育座り姿勢から腕脚が胴体に密着して、お尻部分にタイヤが出るようね。そうするには、ピスタチオの声で命じないとダメみたい。アンテナまで壊しちゃっているし、これまでに集まってるサンプルから合成した音声で命じるのもムリだけれど」
「チッ。自業自得かよ、骨が断てても肉を斬れちゃダメだなやっぱ」
「えぇっ、空気弾がどこかに当たったから、痛くて力が入らないの崎陽?」
「……まぁチョットばかし左腕にな。右手だけで引き摺るにはバランスが悪くてさ」
「なら待って、今──あら~、来てくれちゃってるぅ。ピスタチオを撤収しようとしているあのクルマまでガンバれる?」
「え? それどう言う──」
和加の催起で、崎陽の目にも先ほどから映っていた事態の全てが、ようやく実感として認識されてくる。
「そう、あのクルマの所よ」
「ってあれ? この前レーザーを撃ち逃げしやがったクルマじゃねっ! なら撃ったのはあいつなのか……でもあれ、女子だよな? だろ?」
掛けている赤紫色のミューツアルグラスのレンズが、今はすっかり透明なので、その顔貌も瞭然。
その目元の状相から凛凛しげな同年代女子であることは間違いないが、髪は玄牟どころか崎陽より無造作でも
<エリザベート・蕃布・バートリ‐イメージイラスト>
スーパーモデルにはバストとヒップのサイズが不足しているという見映えながら、どうにも腕脚が異様というか妖異なまでに長く、着つけている白シャツとバーガンディー色のジーンズも、ともに七分丈ファッションではなしに、ただのツンツルテンに見えてならない。
その無頓着さ、
「彼女もオルターエゴゥだけれど、大丈夫だから。氏名はエリザベート・
「なら、そこはいいって話さなくても」
「先月一六歳になって学年的には崎陽と同じだけれど、去年の暮れ辺りから登校拒否をした挙句に退学しちゃったようね、小学校から通っていた
「高御座ぁ……」
「フ~ン。お隣、薇市のほぼ駅前なのに、回遊式庭園なんかがある議事堂みたいな立派なガッコなのね、知ってたぁ?」
和加にしては珍しく、どこか合点がいかないカンジで聞き返しまでしてきた。
「げ~、高御座かよっ。知らないのか? 偏差値が意味ない全国屈指の超難関校で女子御三家の一つ、末は宇宙飛行士か国連事務総長かって言う雷名轟轟な魔王女どもの巣窟だぞ。あそこをハミ出す突然変異は、あらゆる意味でとんでもないって言われてるし」
「そうなの、とんでもないカンジ~。けれど、さておき今は助けてもらって。この場からの速やかな退去のためにもね、早く崎陽の左腕の具合を診ないと」
「オレの腕ならいいって。痛みが引こうが引くまいが、一晩眠れば慣れちまうだろうし」
「ダメっ。ワタシが診るだけだからいいでしょ、とにかくガンバって急ぐ!」
「はいはい……」
左腕の痛みをふり払うように崎陽は歩度をシャリムリ上げる。
目指すクルマは、広く空いた駐車スペースの仕切り線を無視して停められていた。
前方から見ても