── カワイイこそ最凶だ!── side A
文字数 1,783文字
「やたっ……ウッシャ~!」
ワンハンド、それもギリギリで不格好ながら、
そもそもジャンプ力だけは人並みはずれていた崎陽だが、この半年間、なぜか受験プレッシャーなど何のそので身長が伸び続け、一七七センチにまで達してくれたことが最大の理由となる。
それにともない指尺の長さや握力も充分足りて、ボールの向きに関係なくがっちり掴めるようになっていたのも大きな要因、と崎陽はあらためて自己分析をする。
今の成功した感覚を体に憶え込ませるため、ドリブルからのワンハンド・ダンクを崎陽が
それは同じ桜嶺高校へ進む
この、イヴェント開催時以外は人通りなどないに等しい陸上公園のはずれで、またもや飽きもせず、崎陽が
しかしながら、ボードの塗装はかなり剥げ、ネットも失われて久しいリングへ、崎陽がボールをダイレクトにブチ込む光景を目撃した澤部は、
「ウッソ! ……ガチでできるようになっちまうなんてっ」
と、思わず洩らした上ズリ声を片側のコンクリート壁面に反響させて、何のヒネりも利かさずに崎陽をふり向かせることになる。
「おっ澤部か。見たぁ今の?」
「見た……てか、やっぱスゲーんだよなおまえ。高校はバスケ部に入んのかっ?」
澤部はシャカリキにペダルを漕いで一気に迫りつき、その余勢で、崎陽の周りをくる~り廻った。
「はは、オレは単にダンクを成就したかっただけ、何かとウザくてカネもかかる部なんて入るかっての。でも、これで桜嶺のバスケ部連中にはナメられないんじゃね?」
「……変に目をつけられそうだけどな、高校でもまた」
「ならオレも、サヴァゲ愛好会だっけ? 隠れ蓑にゴーストメンバーで入るからさ、その辺は高校でもヨロシク~」
「知るかっ。愛好会でも桜嶺はBGWやCUCで全国常連の強豪なんだ。ただ所属先が欲しいだけで入ろうなんて奴は、その耳をエアガンでマズルファイアーだっ」
「わからんけど、痛そうなんでやめとくって。……でも知らなかったなぁBだのCだの、サヴァゲに全国大会なんかがあったなんてさ」
「てか、ビッグ・ガン・ウォーフェアとクラック・ユニット・コンピートだっ。大手のプレジャーガン・メイカー二社がそれぞれ開催してて、毎年世界大会まであるワールドワイドな歴としたサヴァゲの二大イヴェントなんだからなっ」
「の割には、挑戦者の心根は狭いよなぁ……まっいいや。オレは早ばやと帰宅部が正式決定、今度は祖父ちゃんの原チャリでウィリー走行の練習でもしよっかな?」
「……帰宅部でウィリー?」
「でも誕生日がくるまで免許とれないかぁ、免許とるのにバイトもしなくちゃならないし……楽で時給が高いトコ、あったら紹介してくれね?」
崎陽は、立てた中指の先でボールを回す小ワザを披露しながら言う。
「だから知るかってのっ、上辺だけなおまえの次ぎの目標なんか」
「あっそ。て言うか、なら何しに来たんだワザワザ?」
「そうだったっ。桜嶺へ通うの来週からだろ、その前に入学者の自己紹介‐六秒動画を集めてる女子グループから佐藤経由でメッセージがきたんだ。おまえも送れ、そうすりゃ俺も送るから」
「……佐藤? あいつも桜嶺か結局、暁ノ明星女子はダメだったんか?」
「てか、それをさっきおまえのスマホへまわしてやったのに、三分待っても五分待っても未読のままなんで出張ったんだろワザワザ。おまえのスルーを許すもんかっ」
「……あぁオレ、スマホは不必要にもち歩かないことにしたんで。ウチの鬼母から、壊したら自分でどうにかしろと言い渡されちまってるもんだからさ」
「アホか。壊さなくてもガンガン新機種が出て、もってるのが恥ずくなるだけだっ」
「でもさ、オレの持物で何よりも高価なのは確かだし。どうせもち歩けなくなるんなら長もちさせた方がよくね? そんな恥、かいても別にかまわないし」
「……ったく、高校デビューがすんなりいくかの瀬戸際だってのにしゃーない奴だ。それならほれ、もう一度ダンクやって見せろ、俺が撮って送ってやる」