018                    side B

文字数 2,183文字

 しかしながら、模擬戦用のラウンダルまでが届いたテスト期間の後半から猛勉強ならぬ鬼勉強の息ぬきがてら開始して、テスト終了後からはまた鬼特訓へと移行した射撃練習の成果を測るには、まさしくうってつけの一戦となっている。

 だからこそ、弾ぎれなんかで降参する無様な敗北だけは避けたい崎陽は、並べたラウンダルの減り具合が気にならずにはいられなかった。

「どんなカンジッ? ムダ弾はバンバン使えないんだけど」

「当たったっ、キャ~今度は背中に直撃よ! その調子で撃ち尽くしちゃっていいわっ、こいつ負けを認める気なんてないんだからぁ」

 直撃したなんて、にわかに信じられない崎陽だが、和加の驚喜とはしゃぎぶりには逆に思い醒まされる。
 断じて、弾ぎれで負けるわけにはいかない。

「おいっ、ダメだろ和加。何、らしくもなく調子ノってるんだよ?」

「だってぇ、このバトルはもうここでお終いにしないとダメなんだもの。門勅主(もんてす)らうらがさっきから、ここを撮っている映像をライヴ配信しだしちゃったのぉ……」

「門勅主って、またセラフィムかよドS研の?」

「そう、昆スタンツェの実況入りで。さらには、その前まで撮っていた映像も別当芽亜璃がコメントを付けてどんどんアップし始めているし、崎陽の姿もチラホラ撮られちゃってるぅ」

「嘘だろ~、何なんだよあいつら一体?」

「大丈夫よ。ショートレンジ・スリングショットそのものまでは映っていないからセーフだけれど、一人パチンコなんかで勝ち残っているって、崎陽がはしゃぎネタにされているわ」

「ガチでか……何でそんなこと、って言うか気づくの遅すぎじゃね?」
 
「ゴメンなさ~い。でもでもっ、最初に辺りをチェックした時には誰も見ていなかったし、まさか、この再開発がやっと決まった廃工場区画だけしか見晴らせないマンションに、昆スタンツェたちが集まっているなんて、思いも寄らないことじゃないかしらぁ?」

 確かに、何の手も入らぬまま十年は放置されていたと思われる閉鎖工場区域が窓の外に広がっているような所に、キラキラに余念がないセラフィムの住まいがあったなどということは、崎陽にも想像すらよぎりはしなかった。

 がしかし、ここはそもそもDEの広大な生産拠点の一画。
 サヴァゲ愛好会の会長と副会長の身内にも、DEで権限を有する者がいたからこそ、こうした格好のロケーションで模擬戦まがいのゲームができている。
 その事実へと考えが及べば、崎陽も自分のまだ狭い世間が、まだまだ想像以上に狭かったことを感じ入るしかない。

「クソッ……いいやまあ、一〇〇メートル以上も離れた敵なんかに直撃弾を喰らわせたんだからな。それもほとんど和加のお蔭だし、毒吐(どくづ)いて悪かったよオレも」

「どういたしまして。まぁ厳密にはダイレクトの直撃ではなくてぇ、向こうの屋上を囲っているフェンスに当たって、砕けた欠片が直撃したんだけれど~。でもでも結構凄くなぁい? 河原の茂みで野良犬に吠えられながら特訓しただけの甲斐は、バッチリあったわねっ」

「ったく。とにかくお終いだ。面倒なんで、ずらかっとこう。向こうのルール違反のせいにして澤部へ一言送っとけばいいし、ドローンのバッテリーもまだ大丈夫なんだろ?」

「まだ全然余裕~。でも下ろすから、工場の敷地を出る前に三機とも回収をお願い。サイズとスペック的に崎陽の家まで飛ばして帰るのは危険だし、違法行為だから」

「違法はここの上空でもじゃね? まぁ了解だ、ドローンだけはセラフィムに撮られないようにな」

「当然でしょ」

「ったくステマアイドルめらが、何かとウゼェったらない。自分たちのキラキラだけで客寄せパンダしろってのっ」

 ディテクターキャップをはずし、ツナギ型のスーツも解放感を露わにジッパーを引き下ろしながら、届きもしないセラフィムへと、本音尽くしのツッコみを連発することでムカツきを晴らす崎陽だった。

 (もぬ)けるように脱ぎ捨てたディテクタースーツだが、市街戦向けのデジタル迷彩が施されていて見難いものの、破損がないかに目を立てることも崎陽は忘れない。

 無論ほつれ破れがあったところで弁償する気などさらさらない崎陽だけれども、澤部ならば話を盛って責め立てて来るに違いなく、その抗弁のためにも必要な手間がけ。
 そもそも愛好会からの借り物なので、捨て置くにしろ、きちんと畳むのが一応の礼儀だろうとの心馳(こころば)せも一応はしている崎陽だった。

「はいっ、戦略的撤退は速やかに。今ならいいカンジよ」

「ん。わかった」

「ちょうど今、身を隠している騙し撃ちスナイパーの射界に、もう一人の生き残りが入って来ていて、もっと近寄るのを待って撃ち倒すべきか、崎陽狙いに徹するためにやり過すか、少なくとも一分間は悩んでくれちゃいそう。門勅主らうらも、動きがはっきり見えるそっちへDVCのレンズを向けているし」

「一分もあればバス通りにまで出られるな。でもさっきまで姿を撮られてたとなれば、ここを下りたあとどう行けばいい?」

「一階まで下りたあとは、外に出ないで中を行って。左手に連絡路が延びていたでしょ? その陰伝いに、セラフィムの目をかいくぐって東側の端へ向かえるわ」

「ああ。了解」
 
「でも別に、崎陽が色色と撮られてSNSに上げられてしまっても、それはそれで私にとってはチョチョイのチョイッ、有意義に利用させてもらうまでなんだけれど~」
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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