043 孫子の兵法は何より実践自体が難しい…… side A

文字数 1,533文字

「誰に言っている~? 僕は協会幹部へのアピール方法さえ間違えなければ五輪強化選手だった玄牟植だっ、よっく憶えておけ。セラフィムが呼んでくれちゃっているピスタっちでもかまわんがな」

 ピスタはにゅい~っと両脚を閉じて、怪態に立ち上がる。

「あんたはピスタッ。オレに、あいつらと同じに呼ばれたかないだろ?」

「それもそうだな。ま、詳しいことは知らんが、この場でもフィフは貴様の味方だ。あの椎座について廻れるレフェリーの座を占めるため、ほかの者が手出しできない自作の銃器を手にさせたと言うところだろう」

「……よくわからんけど、椎座はメンタルの剛直さも見たまんまだぞ。そう簡単に自分の代名詞になってる大砲を手放すもんかぁ? ピスタじゃあるまいしさ」

「ふん、飛んだり跳ねたりだけの物知らずバッタが。貴様が撃つのがペイント弾ゆえに、椎座もレイ‐キャノンを捨てたのだっ」

「……わかるように言ってくれね?」

「光線では、ここで使用が許される銃砲の出力をどんだけ高めようとも、実体弾は撃ち落とせんだろが。ならば、撃つのが飛沫であってもペイントは実体、貴様の攻撃を防ぐ手が増える。絶異な攻撃力が防御など不要にしてきた椎座が、万全を期したと言うことだっ、貴様なんぞのために~」

「そっか……ピスタも意外と詳しいんだな。この大がかりなドンパチごっこって、実はオレたち世代には裏メジャーなのか?」

「知るか、その裏メジャーと言うのがメジャーなのかもなっ。一応の知識はブチ込まれてフィフの受け売りにすぎんが、練習戦だからこそ、フィフのムリ圧状も大目に見られたのだ。公式戦ならば間違いなくムリだったな、フィールドもこまかくゾーン分けされて、レフェリーだらけになるらしいぞ」

「そう言や、各ユニットの一人一人にチェッカーがつくって聞いたような──」崎陽は、踵を支点にくるんと辺りを回視した──「おいおい、誰もいないじゃないかよ」

「ったくバッタが、ここをどこだと思っているっ? チェッカーは本部で、あちこちにあるカメラ映像をきり替えて各プレイヤーを追っているのだ。人がついて廻るのは設備がないケチな地域のみ。僕も貴様も、今カメラのどれかから監視されているはず。フィールド‐レフェリーの数と配置についてはケース・バイ・ケースだ」

 ピスタは、近場に見つけたカメラレンズの一つを指し示す。

 それは、低木の茂みで自然を装いつくられた進路誘導用の壁垣の中に立つ、杭の上部に埋め込まれていた。

「……イチイチ仰仰しいったら、っておい、この会話とかも聞かれてるのかよ?」

 崎陽は背筋に薄ら寒さを覚えつつもさり気なく、ほかのカメラを探し始める。

「それはないから、こうして貴様とダベっているのだ。カメラ映像の一部は観戦客たちへも、スマホで選んで見られるようにされている。マイクまであったら、ユニットで交わす局面での作戦内容まで筒ぬけて、不正行為に発展し兼ねないだろうが」

「なら安堵。……イチイチ、ウザったらしい時代になったもんだ。ケチでショボかったガキの頃の方が、断然ワクつけた気がしちまうって」

「ならば、草っ原を跳ねていろいつまでもっ。とにかく、フィフが椎座に置き去られずに一定ゾーンを見続けていれば、ほかのフィールド‐レフェリー四人はバランスをとって動いてくれる。チェッカーがカメラ映像で気づけないことならば、やり放題というわけだ。僕のだったロボットから奪ったシステムを堂堂と使いまくろうがなっ」

「嫌な言い方するなよなぁ。今回使うのはオレでも、ロボタンは中身のシステムごとフィフの手に落ちたんだろが。って言うか、オレが嫌いならくっついて来るなっての。大体、何のために飛び入りしたんだよ?」

 プイッと、顔を前へ戻して崎陽は歩き出す。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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