side B
文字数 1,729文字
「ん? 気づかなかったなぁ、澤部は佐藤狙いで桜嶺に決めたんだとは」
「アホが! 今さらオナ中の女子なんか眼中にねぇよ。佐藤につながった女子グループってのには、なんと、西区の在安中から来るセラフィムがいるかもらしいんだっ、それも三人もみたいとか? ここは一つ愛想好くしておくべきだろが絶対」
「……セラフィムって? かもらしいみたいとか、何だそれ」
<セラフィムのリーダー:昆スタンツェ‐イメージイラスト>
「ウッソ! ったくどこまでアホなんだか。最上位天使セラフの複数形、つまり飛びっきりキラキラな女子たちが桜嶺に来るんだっ。どうせ新学期早早から、その三人を源泉に学年の本流ができるに決まってら。入学前から疎まれたら最クソ悪だぞ」
「……そう言うもんかぁ? まぁいいや、じゃぁスペシャルを一発キメてやるんで、バッチリ撮ってくれ」
澤部がスマホのカメラをスタンバイすると、崎陽は競技場スタンドの外壁面が内側へと削げ込む位置で、残骸みたく残るボード部分のみのバスケットゴールに向かってドリブルを開始。
ダンクのあとにも、バック宙とコークスクリュー、さらにエアトラックスから1990へのストリートダンスでも高難度パワームーヴまでを、六秒ジャストでキメおおせた。
無論のこと、崎陽は体操競技の経験もなければダンサーに憧れた時期もない。できるようにガンバったのは単に今のそれらだけ。
誰もが、
「……なんだかなっ。おまえって、間違いなく可能性ってヤツを浪費してるとしか思えないぜ崎陽。高校も私立のスポーツ強豪校へ行っとけば、何かしらモノになったかも知れないってのに。そうなれば大学も就職も前途洋洋かもだったろが」
「ん~? いやオレどうせ家業継がされるし、何か一競技に必死こいたところで、ガッポリ稼げるプロ選手になれるとも思えないしさ」
「あぁ~俺がアホだった。なんか前にも同じセリフを聞いた気がする」
「だろ? おまえのアホも相当だもんなぁ」
「チッ……まぁいい、とにかく今の動画は自己紹介コメントも付けて送っといてやるから、なんかいいリアクションがきたら必ず俺に伝えろよなっ。どうせ野暮堅 いおまえじゃ、セラフィムの利福になんぞ与 りきれやしなんだから」
「よくわからんけど、別にそのキラキラ女子を狙ってるわけでもないのかよ……なんか澤部の方こそ野暮天じゃね? とりあえずキラキラの翼下で、ハミ出さないポジションをキープしときたいだけだなんてさ」
「ウルセー、それが十代の処世術ってヤツだろが。俺には、おまえみたいに一発で友好関係を築けちまうこともある芸当はないんでなっ」
「なら、帰宅部で一緒にやろうぜウィリーの練習。バイトも二人なら、シフトの調整がどうにでもなるしさ」
「アホが。おまえの小手利きワザは、同時に敵対関係も明確にするんだからなっ。状況を弁えて繰り出さないとドツボにハマるぞ」
「ったく、また小難しく考えすぎじゃね?」
「少しは考えろっ。高校生にもなりゃ、腹黒さも陰険さも確実に成長し腐ってきやがるんだろうし。中学と違って似たようなレヴェルが集められてんだ、俺たちがカンジたり考えつくことは、全校生徒の頭に浮かぶことなんだからなっ」
「……なんだかなぁ。やっと窮屈な受験生生活を終えたってのに、入学前からどんよりしてくるって。あぁ、それでキラキラの余徳に肖 りたいってわけか、納得っ」
「ふん、勝手に納得してろっ。俺はサヴァゲ愛好会って、きなクサそうな傘下にも入るんだ。もう、おまえに降りかかってる火の粉まで払ってやれやしないんだからな」
「払っても、払いきってくれたことあったっけ? ……まぁ唯一のオナ中出身男子同士なんだ、もちつもたれつで上手いことやっていこうや。澤部が入るって言うきなクサい愛好会にこそ、桜嶺一きなクサい先輩連中がウジャラケていないとも限らないんだしさ」
「どんよりしてくること言うなよぉ。……なぁ崎陽、ほんの一瞬でいいから会室の様子見、一緒に行ってくれん? ジュース一本、五〇〇ミリリットルで奢るから~」
崎陽は、浮かぶ顰笑を失笑にまでしないよう、股下で八の字ドリブルを高速でやり始める。
「アホが! 今さらオナ中の女子なんか眼中にねぇよ。佐藤につながった女子グループってのには、なんと、西区の在安中から来るセラフィムがいるかもらしいんだっ、それも三人もみたいとか? ここは一つ愛想好くしておくべきだろが絶対」
「……セラフィムって? かもらしいみたいとか、何だそれ」
<セラフィムのリーダー:昆スタンツェ‐イメージイラスト>
「ウッソ! ったくどこまでアホなんだか。最上位天使セラフの複数形、つまり飛びっきりキラキラな女子たちが桜嶺に来るんだっ。どうせ新学期早早から、その三人を源泉に学年の本流ができるに決まってら。入学前から疎まれたら最クソ悪だぞ」
「……そう言うもんかぁ? まぁいいや、じゃぁスペシャルを一発キメてやるんで、バッチリ撮ってくれ」
澤部がスマホのカメラをスタンバイすると、崎陽は競技場スタンドの外壁面が内側へと削げ込む位置で、残骸みたく残るボード部分のみのバスケットゴールに向かってドリブルを開始。
ダンクのあとにも、バック宙とコークスクリュー、さらにエアトラックスから1990へのストリートダンスでも高難度パワームーヴまでを、六秒ジャストでキメおおせた。
無論のこと、崎陽は体操競技の経験もなければダンサーに憧れた時期もない。できるようにガンバったのは単に今のそれらだけ。
誰もが、
オォ~ッ
! と、一唸りする見映えのいいワザのみを体得しているにすぎない。「……なんだかなっ。おまえって、間違いなく可能性ってヤツを浪費してるとしか思えないぜ崎陽。高校も私立のスポーツ強豪校へ行っとけば、何かしらモノになったかも知れないってのに。そうなれば大学も就職も前途洋洋かもだったろが」
「ん~? いやオレどうせ家業継がされるし、何か一競技に必死こいたところで、ガッポリ稼げるプロ選手になれるとも思えないしさ」
「あぁ~俺がアホだった。なんか前にも同じセリフを聞いた気がする」
「だろ? おまえのアホも相当だもんなぁ」
「チッ……まぁいい、とにかく今の動画は自己紹介コメントも付けて送っといてやるから、なんかいいリアクションがきたら必ず俺に伝えろよなっ。どうせ
「よくわからんけど、別にそのキラキラ女子を狙ってるわけでもないのかよ……なんか澤部の方こそ野暮天じゃね? とりあえずキラキラの翼下で、ハミ出さないポジションをキープしときたいだけだなんてさ」
「ウルセー、それが十代の処世術ってヤツだろが。俺には、おまえみたいに一発で友好関係を築けちまうこともある芸当はないんでなっ」
「なら、帰宅部で一緒にやろうぜウィリーの練習。バイトも二人なら、シフトの調整がどうにでもなるしさ」
「アホが。おまえの小手利きワザは、同時に敵対関係も明確にするんだからなっ。状況を弁えて繰り出さないとドツボにハマるぞ」
「ったく、また小難しく考えすぎじゃね?」
「少しは考えろっ。高校生にもなりゃ、腹黒さも陰険さも確実に成長し腐ってきやがるんだろうし。中学と違って似たようなレヴェルが集められてんだ、俺たちがカンジたり考えつくことは、全校生徒の頭に浮かぶことなんだからなっ」
「……なんだかなぁ。やっと窮屈な受験生生活を終えたってのに、入学前からどんよりしてくるって。あぁ、それでキラキラの余徳に
「ふん、勝手に納得してろっ。俺はサヴァゲ愛好会って、きなクサそうな傘下にも入るんだ。もう、おまえに降りかかってる火の粉まで払ってやれやしないんだからな」
「払っても、払いきってくれたことあったっけ? ……まぁ唯一のオナ中出身男子同士なんだ、もちつもたれつで上手いことやっていこうや。澤部が入るって言うきなクサい愛好会にこそ、桜嶺一きなクサい先輩連中がウジャラケていないとも限らないんだしさ」
「どんよりしてくること言うなよぉ。……なぁ崎陽、ほんの一瞬でいいから会室の様子見、一緒に行ってくれん? ジュース一本、五〇〇ミリリットルで奢るから~」
崎陽は、浮かぶ顰笑を失笑にまでしないよう、股下で八の字ドリブルを高速でやり始める。