045 光剣のレーゾンデートル…… side A

文字数 1,795文字

 それでピスタも、相手ユニットの一人が接近したことを察知。

 だがピスタは、腰に装着した左右のホルスターからライトニングセイバーを抜き、二刀流でかまえつつ跳び退くように崎陽から離れる。
 さらには、左右のライトニングセイバーを高速で上下に振りながらの突進にまで出た。

「チョッ、待てってピスタ!」

 崎陽もただちに握っていたスリングショットの発射準備に入る。

 俯せ体勢から、肘先と膝下の踏ん張りのみで全身を浮かせ、落ちだす前に両脚を前へふり出してしゃがみ姿勢をとった崎陽は、同時にスリングを引いて、狙いをつけにもかかる。

 D‐ヴァイザーのカメラがスリングショットを認識すると、崎陽の視界であるディスプレイには、照星と、ターゲットへ命中させるための補正データが表示される照準モードが起動。

 ──するはずなのに、崎陽の眼前に照準モードが全く展開されてくれない。

 和加から、この新システムのレクチャーを受けた上、ゲーム仕立てで用意されていたシミュレーションで使い勝手も体に馴じませてはあるのだが、発射以前の完全な不発。

「ウソ! 忘れちゃったわけ崎陽っ?」

 和加は呆れよりも叱責じみた口調でわわめくが、ここでも崎陽はピンとこない。

「……えっと。どしたらいいんだっけ?」

「やり方じゃないわっ。このシステムの本体になるデヴァイスは、フィフが隠し付けているって説明したでしょ」

「……ぁあ、そうフィフな。ゴネ勝ちでフイールド‐レフェリーになったのも、椎座の近くをオフィシャルにちょこまかするのが狙いだったよな」

「今みたくドローンが飛ばせなくても、ショートレンジなら同様以上で位置と距離の瞬時把握から精確な照準情報を得られる。けれどそれは、フィフのデヴァイスのカメラがターゲットを捕捉していないとムリ。使えるのは怪物クンにだけなんだってば」

「って……要は、椎座の前に、フィフがいるトコまで行かないことには全く意味がないんじゃねーかよ?」

「モォ~。崎陽が自分で言ったんでしょ、怪物クン以外は目じゃない、楽勝だからどうでもいいって」

「あぁ~、そうだったけどさ……なら、もしかして和加も、椎座の現在位置しかわからないってわけ? 今見つけた敵は偶偶だったのかよ単に」

「そうよっ。……そこまで説明しないとダメだなんて思わないじゃないのよフツウ。どうして一度踏まえたことを、忘れずに積み重ねていけないのかしらっ。何度も何度も毎回毎回では、いざフィフに勝とうとしても絶対ムリ!」

「何で今そんな説教? ってか、それどころじゃないからだろ全ては──」
 
 崎陽はスリングを引きなおしながら、あたらめて自分の目だけで照準を合わせにかかる。
 が──。

「そ。それどころなの。だから、お説教も出ちゃうわけ~」

「えぇっ? ……嘘だろ、ガチかよピスタ……」
 
 崎陽が目を凝らした状景は、意想外もはなはだしく、またもや引いたスリングを弛ませてしまう。

 なんとピスタが、早くも相手ユニットの一人を倒していた。

 ふり返って得たり顔を見せるピスタは、崎陽に

と振る手招きまでがヤケにキザったらしくもある。

 それもそのはずで、ピスタの快挙は今まさに観戦席へと報じられている真っ最中。
 
 崎陽たちが、観戦席のほぼ逆サイドに沿って進攻していたせいもあるものの、フィールド内の空気を大きくゆすりだした不協和な雑音の正体が、観戦客からのブーイングであったことに崎陽もようやく驚覚して身が竦んでくる始末だった。

 何しろその響動(どよ)めきは、ドラゴンが寝起きに吐いた大アクビを連感させるほどだから。

「モタつくな崎陽っ。ほかの敵の気配はない、先へ進むぞ」

「凄ぇなあんた。ガチで自分の目を疑ったのは初めてだって」

 そうピスタを率直に褒める崎陽は、挙動の覚束なさを植え込みへ突き入っての飛び越えでごまかしながら、自身も高揚させていく。

「目に物見たかぁ。僕は試合という形式ならば、貴様にだって絶対負けやしなかったのだっ。あんなストリートファイトみたいなデュエル、僕はケンカもしたことないのにぃ。そもそも、のほほんヅラした貴様があぁまで場慣れしているとは思わんだろうが」

「また、人をレトロヤンキーみたいに……って言うか、そんなただのサーベルよりも棒切れっぽいヤツなんかで、カネも手もかけまくられてるレイ‐ガン相手に勝てるもんなのか?」

 崎陽は顰笑も浮かべてピスタに並んだ。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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