068                  side B

文字数 1,990文字

「ハイまた話を逸らしてごまかした~。フィフも女子だよな大概っ」

「だから少しは気づかいなよね。全ては効率の問題というだけだし、それをするにはセラフィムの懐へ入り込むのが手っとり早いからだよ。現在ガッコをサボってまで大活躍続行中のピスタには、手当てもちゃんと講じてある。なので心配要らないよ」

 仏頂ヅラになる崎陽は、首までネジり回しながらの言い返しをする。

「あっそ……しっかし、どうにもムカつくんだよな、セラフィムがまわす世界から脱け出せないってのは」

「少なくとも関東から離れないとムリ、利用させてもらう方がお得だよ。そもそも星林佳歩がモデル業から大転身を遂げたのも、セラフィムが影響しているんだから。崎陽が桜嶺に入学した時点で、目に留まるリスクがついてまわっていたんだよ」

「……影響ってどんなだよ? ステマアイドルよっか、ジャリ女子向けだろうと雑誌モデルの方が肩身は広いんじゃね?」

「ヒドくも妙に適語だね、ステマアイドルは。だけど、日本屈指の巨大企業であるDEのための活動と、おマセを親が許してくれる小学生しか読まない小雑誌では、まるで比較にならないだろう?」

「……ん~」

「星林佳歩は、自分の力でより多くの消費を生むことに魅了されたわけだよ。結局モデルも商品を売る広告塔だし、商品をつくって売る方が、肩身はより広くなるだろうから」

「チッ。そのJK社長もセラフィムの熱賛フォロワーだったわけかよぉ……ならもう最初からアウトだっ、SNSを見返されれば、オレが特定されるのは時間の問題だって。あ~ぁ身を助けるはずの一発芸で、身を滅ぼしつつあるとはな……」

「ゴメンなさい崎陽、そこまでは気づけなくて……」

 うって変わり、和加がガクンと悄気(しょげ)返る。

「おいおい。和加までオレなんかの気づかいが必要かよ今更?」

「……ワタシ、そうした漠然と網を張るような情報のつかみ方が得意じゃないの。だって、崎陽のことだと判断しきれない情報は無限も同然だし。オルターエゴゥ以外の者たちが、それも社会人のオトナが崎陽を特定しようとするなんてことも、考え及ばなかったから」

「おい~。ポーズでもそんなガチ気味に反省すんなよ、耳が痛いって。オレも久しぶりのケガに甘っタレてフワフワし尽くしてたんだしさ。大体何をどう言われようがセラフィムこそ害毒なんだ……いい加減あいつらになら鬼ギレまくれるかもなっ」

 和加の姿が見えないフィフには、ルームミラーに映る崎陽が、真横を向き一人で息巻く姿が物果(ものはか)なく思えてならない。

「モノグサなまでの事なかれ主義者と見せながら、軽軽しくも白真剣に強暴なことを言う。鬼が出るか仏が出るか、崎陽は呆れるほど両極端な異常性メンタルだよ」

「てか、今は鬼が出てるだけ~」

「まぁ落ち着きなよ。今日の昼の時点では、崎陽がまだはっきり特定されてないと判断できるから。桜嶺に、ダークホース的なオルターエゴゥがいるとは確信されてるだけで」

「……オレのことを、数十人の各社員が独り合点の誤認識で探ってるわけか?」

「都合が好いのは、まずピスタを桜嶺の生徒の中から特定しようとしていて、私のことも昆スタンツェではないかと人違いしている。何よりは、オルターエゴゥはサヴァゲ愛好会員だと決めつけられている点だよ。接触されても会員たちは、会員ではない崎陽のことなど断じて口を割らない、プライドが許さないはずだから」

「コワ~、巧いこと仕組むもんだな……もしやピスタにウチの制服を着せてるのもフェイクかよ? 引っかかれば混乱を酷くするだけで、オレは警戒レヴェルを上げられるし。けど色眼鏡の度が強いオトナとは言え、フィフと昆スタンツェまで間違えるもんなのか?」

「身長差なんて、直接目近にしないことには現認し難いモノだし、遠目なら体形的な目立ち方が一番近いみたいだよ。そもそもセラフィムだから帝政義学大附属との練習試合が実現できたと思うことは言うまでもなくて、椎座がサッカー転向と同時に交際を仄めかすような相手も、セラフィムの一人と考えるのが順当だよ」

「……情報操作って結構簡単じゃね? まぁ情報源のS研を押さえちまってるんだから、その時点で勝負アリだな」

 聞き知り顔で舌をひるがえす崎陽だった。

「勝負はまだ全くついてない、だから今の内に勝率を高めておかないと。SGRの社員たちには本来の仕事もあるので助かってると言えるけど、事情を知らない社員やバイトまでが説明もなく動員されたら、色眼鏡がかかっていない分、これまでに被せてきた私たちの化けの皮が疾く疾くと剥がされてしまう」

「ん~……そもそも何でそこまでしてオレを狙うとか、オルターエゴゥとしてバトる必要があるんだ? 社員たちも、JK社長のために本来の仕事をガンバって守り立てるべきじゃね? ホントに愛があるんならさ」

 フィフは牙歯を見せないように薄笑む。

「そうだね、話してなかったよ」
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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