039 器用貧乏の弱点は断れないこと…… side A

文字数 1,556文字

「ガチに? まぁ怨みはしないけど、生きてる限り勝つまで追い縋るに決まってるんで、どうせなら二〇〇〇万プレゼントして欲しいかな。成仏なら潔くするし、ウチの母ちゃんにも鬼ギレされずに済むからさ」

「プハハ。さすが俺の司令官が目をつけただけあって、オモロい返しッスね」

「……ちなみにだけど、オレが目についたのはやっぱ、セラフィムが各種SNSにあげた映像からなのか?」

「勿論ッス。でも、オレの司令官はネット上の膨大な情報にスルドく目配りして、倒すべき相手を割り出すような作業は苦手ッスから。こっちからこうしてお膳立てができたのは、今回が初めてのことッス」

「……つくづくセラフィムなんてとんでもない、断然スローンズから堕天したアスタロトだよなぁ。ピスタの奴が今にウンザリさせられて、またオレに責任の押し売りに来なけりゃいいんだけど──」

 崎陽はチラと眼を上げて、本部ヤード手前へ視線を投じる。

 現在は、全員座席に腰を下ろして、スマホやノートPCでSNSの更新に精を出しているために、崎陽からは壁の上に頭頂部が三つ突き出て見えるのみ。
 
 一人は動きが慌しいピスタ。その奥に、初顔の又梁昼月と思しきエンジェルスの赤いベースボールキャップ。
 そして三人目は、どうにも忌ま忌ましさこの上ない、昆スタンツェのブロンドがかった軽佻浮薄な茶髪……。

「それから、あの、スカイツリーとカブって見えるおネェさんが引き下がる気配すら見せないんで、言い分は丸呑みするよう言ってあるッス。ホームアドヴァンテージがある俺やユニットにとっては、ハンデにもならない要求ッスし」

 フィフが倒すべきオルターエゴゥの一人であることを、現時点ではまだ椎座に知られていないと気色取った崎陽は、

、そう独り決めして黙止(もだ)す選択を即決。

 崎陽も実際、この怪物‐椎座と本格的なリアルゲームというシチュエーションで、妖女子‐フィフが何をしたくてやって来たのか、真の目的など想像もつかない。

 けれども、とにかく今の関係性なら愚拙すぎる失言さえしなければ、フィフがどんな大ごとをやらかそうとも、責任追及の矛先に突き廻されるまでの憂懼(ゆうく)もなく、ししらしんでやり過ごせるとまでソロバンを弾く崎陽だった。

「フ~ン。あいつは確かフィフって言ったかな? 一体何をゴネくってるわけ? オレはつい昨日、ケガしたところを助けてもらっただけで、知り合いとか言ったら向こうが嫌な顔しそうだから、オレも極力関わりたくないんだけど」

「な~んだ、てか、フィフ、さんって言うんッスかぁ……」

 椎座は頻りに頷きながら、また本部ヤードへと実に中学生らしいキラキラの目を向ける。

「だからオレ当然、注意できる立場じゃ全然ないんだよな。まぁ医者の親戚んチで暮らしてるから鎮痛クリームはフツウとして、それ以外もいろいろ徹夜で準備して来てるみたいでさ、言うことを聞いてもらえるかは、とりなし方次第じゃね?」

「あのセント・ピューリタニカのフェンシング部員って人を、そちらユニットのメンバーとして飛び入りエントリーさせるのと、もち込んで来た銃器をオレのサブ・アームとして使うことと、フィフさん本人をフィールド‐レフェリーの一人に加えろっていう三条件ッス」

「……ったく。そんなこと当日のいきなりじゃムリだろ? 何考えてんだか? やっぱ天上天下唯我独尊、常識も何もおかまいなしかよぉ」 

「そうとも言えないッスよ。どうもライセンスは、ガンスミスまでもってるみたいッスから」

「ガチッ? ……レフェリーは案外多くて、どこの集まりにも必ず複数人が専属でいるそうだけど。ガンスミスってのは、自分でプレジャーガンとかをつくって売れるビジネスライセンスなんだろ、エンジニアでも上級レヴェル相当の試験をパスしないとダメな?」
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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