011 レーザーで撃たれるには相応の理由が…… side A
文字数 1,645文字
「ウフッ、じゃないっての。ったく……あぁ、そう言や今日からテストの一週間前だった。ガチで鬼ババ地獄を見ないよう、平均は超えとくつめ込み勉強をしなくちゃならないから、これまでみたくつながってるわけにはいかないな。あ~残念残念」
「何を言っているの? それこそワタシの本領を発揮する時だわ。傾向と対策はバッチリ任せてっ、今夜からは眠っている間もつながり続けて、ギプノペジヤに倣 った睡眠学習までしてあげちゃお~」
「何だそれ? かなりヤバそうなんで、断固拒絶しとく」
そこで歩道のある通りへとまた行き当たった崎陽は、歩道へ出る前に左右をチラと確認──知った顔も何も、誰一人近づいて来てはいないため、声も落とさずに曲がり進んだ。
「あらそう? 旧ソ連で開発された睡眠時を利用する記憶法よぉ」
「そんな亡国の眉唾技法、オレで実験してオモロがりたいだけだろっ」
「キャハハ。よ~し、現時点から心機チョイ転してガンバろっと」
「……知らんけど、それを言うなら心機一転じゃね?」
「いいの。ガラリと変えるわけじゃなく、ガンバり方をほんの少しズラすだけだからぁ」
「そんなの、和加自身の方をズラせば? オレなんかにそんなひっつながっても、スクフォビやひっきーは治らないんじゃね?」
「モォ~、言ってるでしょ不登校でもひきこもりでもないってぇ。ワタシには学校教育なんか無用だし、今は崎陽から存在価値を認めてもらうことに挑戦中なんだもの」
「……優秀すぎてヒマやカネまであり余ってる女子なんて、ホント理解できないんだけど」
「とにかくテストは結果を出しちゃうわよ、崎陽も気合を入れるようにっ」
「やれやれ。そんなガンバり方をされたって、オレにもムダでしかないんだけどなぁ……ま、オモロければ自然と気合も入るって」
そこで和加が遽然 と和加らしからぬことを言い出した。
「いきなりだけれど崎陽、今すぐミューツアルグラスの電源をオフして、仕舞っちゃってっ」
「え? どしたガチでいきなり。電源まできったら眼鏡のカメラも映像を送らなくなって、和加がこっちの状況を何もわからなくなるだろ」
「いいから早くっ。このままフツウの素ぶりで歩き続ける自信がないなら、スグそこの自販機でしばらくの間、ジュースを買うフリでもしていて」
「……はいはい、フツウに歩いてりゃいいんだな。で、いつ頃またつながればいいわけ?」
「スマホへ知らせるから、急いでっ」
崎陽はまず電源をオフしてミューツアルグラスをはずすと、慣れた手つきで引き出していたイクイップメント全部を本体へ格納しながら折り畳み、制服ブレザーの内ポケットへ掻い入れた。
果たしてこれから、こうも手数がかかるまでのことをしなければならない何が起きるというのか?
崎陽は不安感よりも高まってくる期待感で歩調が浮つきだすのを堪え、今までどおりを装えているかに注意を向けて歩き続ける。
すると、ほぼ往来のない車道を一台のクルマが、静淑 な徐行で崎陽を背後から差し越す。
その、アヴェンチュリン‐クリムゾンの流麗な艶めきに、崎陽も自然と眼が向くが、そのままテール部分に施されているはずのエンブレムとトレードネームを追うはずの視線は、開けられていた後部座席の窓から突き出た銃口に奪われてしまう。
それが自分を狙っていると崎陽が認識した瞬間、赫 と閃光が迸 る!
──が、昔とった杵柄と言うべきか、反射的に突っ伏していたこともあって崎陽の体には掠りもしなかった。
聞き耳に遠いながら、弾けるような音からの判断で首をネジり向けて見れば、当たったのは通り過ぎていた自販機の一台で、赤塗りの側面に小さく円い黒ずみが目に留まる。
その信じ難い現実、ひたと確認せずにはいられなかった視線を、崎陽が慌てて車道へふり戻した時には、撃った者を乗せたクルマはスピードを上げてナンバーが読み取れない距離まで走り去ってしまっていた。
混乱から崎陽はオロつくしかなく、バツの悪さに辺りを見まわしてみても、生憎なのか幸いなのか人っ子一人いてくれない。
「何を言っているの? それこそワタシの本領を発揮する時だわ。傾向と対策はバッチリ任せてっ、今夜からは眠っている間もつながり続けて、ギプノペジヤに
「何だそれ? かなりヤバそうなんで、断固拒絶しとく」
そこで歩道のある通りへとまた行き当たった崎陽は、歩道へ出る前に左右をチラと確認──知った顔も何も、誰一人近づいて来てはいないため、声も落とさずに曲がり進んだ。
「あらそう? 旧ソ連で開発された睡眠時を利用する記憶法よぉ」
「そんな亡国の眉唾技法、オレで実験してオモロがりたいだけだろっ」
「キャハハ。よ~し、現時点から心機チョイ転してガンバろっと」
「……知らんけど、それを言うなら心機一転じゃね?」
「いいの。ガラリと変えるわけじゃなく、ガンバり方をほんの少しズラすだけだからぁ」
「そんなの、和加自身の方をズラせば? オレなんかにそんなひっつながっても、スクフォビやひっきーは治らないんじゃね?」
「モォ~、言ってるでしょ不登校でもひきこもりでもないってぇ。ワタシには学校教育なんか無用だし、今は崎陽から存在価値を認めてもらうことに挑戦中なんだもの」
「……優秀すぎてヒマやカネまであり余ってる女子なんて、ホント理解できないんだけど」
「とにかくテストは結果を出しちゃうわよ、崎陽も気合を入れるようにっ」
「やれやれ。そんなガンバり方をされたって、オレにもムダでしかないんだけどなぁ……ま、オモロければ自然と気合も入るって」
そこで和加が
「いきなりだけれど崎陽、今すぐミューツアルグラスの電源をオフして、仕舞っちゃってっ」
「え? どしたガチでいきなり。電源まできったら眼鏡のカメラも映像を送らなくなって、和加がこっちの状況を何もわからなくなるだろ」
「いいから早くっ。このままフツウの素ぶりで歩き続ける自信がないなら、スグそこの自販機でしばらくの間、ジュースを買うフリでもしていて」
「……はいはい、フツウに歩いてりゃいいんだな。で、いつ頃またつながればいいわけ?」
「スマホへ知らせるから、急いでっ」
崎陽はまず電源をオフしてミューツアルグラスをはずすと、慣れた手つきで引き出していたイクイップメント全部を本体へ格納しながら折り畳み、制服ブレザーの内ポケットへ掻い入れた。
果たしてこれから、こうも手数がかかるまでのことをしなければならない何が起きるというのか?
崎陽は不安感よりも高まってくる期待感で歩調が浮つきだすのを堪え、今までどおりを装えているかに注意を向けて歩き続ける。
すると、ほぼ往来のない車道を一台のクルマが、
その、アヴェンチュリン‐クリムゾンの流麗な艶めきに、崎陽も自然と眼が向くが、そのままテール部分に施されているはずのエンブレムとトレードネームを追うはずの視線は、開けられていた後部座席の窓から突き出た銃口に奪われてしまう。
それが自分を狙っていると崎陽が認識した瞬間、
──が、昔とった杵柄と言うべきか、反射的に突っ伏していたこともあって崎陽の体には掠りもしなかった。
聞き耳に遠いながら、弾けるような音からの判断で首をネジり向けて見れば、当たったのは通り過ぎていた自販機の一台で、赤塗りの側面に小さく円い黒ずみが目に留まる。
その信じ難い現実、ひたと確認せずにはいられなかった視線を、崎陽が慌てて車道へふり戻した時には、撃った者を乗せたクルマはスピードを上げてナンバーが読み取れない距離まで走り去ってしまっていた。
混乱から崎陽はオロつくしかなく、バツの悪さに辺りを見まわしてみても、生憎なのか幸いなのか人っ子一人いてくれない。