051 MTA vs 霧染めの術…… side A
文字数 1,873文字
「……結構、力一杯撃ったようだけれど、そんな、ほとんど発射角度デルタで撃つことで、一体何の感触が得られるというわけ?」
和加は、D‐ヴァイザーのカメラが崎陽の視界同様に撮影してディスプレイ全面に青空を映し出す映像から、如何にも胡乱げに問い放いた。
が、崎陽は「着弾は?」と返すだけ。
「まだよ……茂みに落ちたわ今、怪物クンの右後方およそ八・四メートル」
「そんなもんか。……本体だけを真上気味に向けてるんだ。スリング自体は、むしろガンマ寄りの角度で引いてるカンジだし」
崎陽は、またも上空へ向けてラウンダルを射出。
「ねぇ、どういうつもりなの? もうスグ向こうも、こちらをダイレクトに狙える距離まで来ちゃうのよ──エェッ! 着弾が近づいたわ、怪物クンのすぐ左、それもおよそ一・六メートルまで。どうして、何をやったわけ?」
「ニブっちゃいなかったな、感覚はっ」
崎陽は全く同じように空へ向け、だが微調整を施して三発目を発射した。
「……感覚?」
「一度踏まえたことは、忘れずに積み重ねていけないとダメなんだったよなぁ? 和加も、いざフィフの相棒に勝とうとしたってムリなんじゃね?」
「だから、どう言うことなのっ?」
「だから、そもそも、どしてロングレンジ用とショートレンジ用をつくったのか? だろが」
「もぉ~、わかるように言ってっ」
「ったく。ショートレンジ用のスリングの強さで遠くへ飛ばそうすれば、発射角度を大きくとって空高くを目がけて撃たなくちゃならないだろ?」
「……それで?」
「撃つ角度が大きすぎだと、途中で失速してヘロヘロと落ちちまうか、空気の壁を曲線を描きながらそそり上がって、ピークまで届いたあとで、滑り戻って来るようにして落ちるかのどっちかだろ?」
「あ~そう言うこと? つまりはフリスビーのMTAみたいな戻ってくる軌道で、ラウンダルを怪物クンの頭上から落としているわけねっ。単に割れて中のペイントが少しでも付けばいいんだから」
「ってことだ。心持ズラしを加えてラウンダルに横回転をつけてやれば、上がるだけ上がった高さから、振り子の錘みたいに戻りながら滑空するカンジで落ちてくれる。椎座の体に当たる確率も上がるし、廻り込まれるなんて思ってない背後から攻撃されるのも同然だろ、さすがに少しは焦ってくれるんじゃね?」
「そんなことができちゃうなんて……ゴメンなさい。確かに、崎陽のことナメてしまっていたかもだわ。崎陽が撃ち出す手元の動きは、カメラのアングルからはずれるから、ワタシには解析しきれなくて……」
「こんな時にシュンとなるほど反省するなってのっ。和加の正確さにこだわった着弾観測があってこその撃ち方なんだし、椎座に命中してくれるとも思ってないしさ」
「ウン……」
「とにかく、どう飛んで落ちたかをできる限り見てくれ。なんか、少し上はこことは違う向きで風が吹いてるのか、狙ったカンジとは、イマイチ違う流れ方をするんだよなぁ」
「えっ? こんな、四方を囲われた場所に風なんて……ホント、あるわ風。と言うより、わざと起されているのよ、六箇所にある送風機で」
「ガチかよぉ。そこまでリアルにこだわる必要あんのか? このドンパチ」
「ホント、まさか練習戦でなんて。しかも一定じゃないわ、ランダムなんだと思うけれど、吹き出す向きと強さが変化し続けていて、今は崎陽に不都合が出ているということみたい……チョットこれっ、流れて来たニオイを、もっと嗅いでみて崎陽!」
「え? 流れて来たってどう言うことだよ」
崎陽は、鼻をクンクン鳴らして空気を吸い込んでみる。
「どう?」
「何も臭わないけど。って言うか、和加にはこっちのニオイまでわかるのか?」
「ニオイそのモノが直接わかるわけではないけれど、崎陽の嗅覚が反応を示したことは崎陽よりも敏感にわかるみたいね。何せ、嗅ぐのではなく脳波の変化から読み取れるから。そして、このパターンによるとぺイントのニオイだわ」
「……そんなの。オレのバッグのラウンダルでも割れたかな?」
「違うわっ。怪物クンが発射してそれが風で流れて来ているのよ、って言うか丸太の陰へスグ隠れて! このままでいたらスーツに色が付き出しちゃうかもっ」
「ウッソ!」
崎陽は遽遽然と右手に立ち並びだす丸太の方へ跳び込んだ。
「ピスタのヘルメットは一応の通信機能が生きているわ、ワタシが強制的につなげて伝えるから崎陽は大声出しちゃダメよっ、もう距離的に怪物クンにまで聞こえちゃうぅ」
確かにD‐ヴァイザーに表示されている矢印は短くなり、距離も一六メートル八三センチにつめられていた。
和加は、D‐ヴァイザーのカメラが崎陽の視界同様に撮影してディスプレイ全面に青空を映し出す映像から、如何にも胡乱げに問い放いた。
が、崎陽は「着弾は?」と返すだけ。
「まだよ……茂みに落ちたわ今、怪物クンの右後方およそ八・四メートル」
「そんなもんか。……本体だけを真上気味に向けてるんだ。スリング自体は、むしろガンマ寄りの角度で引いてるカンジだし」
崎陽は、またも上空へ向けてラウンダルを射出。
「ねぇ、どういうつもりなの? もうスグ向こうも、こちらをダイレクトに狙える距離まで来ちゃうのよ──エェッ! 着弾が近づいたわ、怪物クンのすぐ左、それもおよそ一・六メートルまで。どうして、何をやったわけ?」
「ニブっちゃいなかったな、感覚はっ」
崎陽は全く同じように空へ向け、だが微調整を施して三発目を発射した。
「……感覚?」
「一度踏まえたことは、忘れずに積み重ねていけないとダメなんだったよなぁ? 和加も、いざフィフの相棒に勝とうとしたってムリなんじゃね?」
「だから、どう言うことなのっ?」
「だから、そもそも、どしてロングレンジ用とショートレンジ用をつくったのか? だろが」
「もぉ~、わかるように言ってっ」
「ったく。ショートレンジ用のスリングの強さで遠くへ飛ばそうすれば、発射角度を大きくとって空高くを目がけて撃たなくちゃならないだろ?」
「……それで?」
「撃つ角度が大きすぎだと、途中で失速してヘロヘロと落ちちまうか、空気の壁を曲線を描きながらそそり上がって、ピークまで届いたあとで、滑り戻って来るようにして落ちるかのどっちかだろ?」
「あ~そう言うこと? つまりはフリスビーのMTAみたいな戻ってくる軌道で、ラウンダルを怪物クンの頭上から落としているわけねっ。単に割れて中のペイントが少しでも付けばいいんだから」
「ってことだ。心持ズラしを加えてラウンダルに横回転をつけてやれば、上がるだけ上がった高さから、振り子の錘みたいに戻りながら滑空するカンジで落ちてくれる。椎座の体に当たる確率も上がるし、廻り込まれるなんて思ってない背後から攻撃されるのも同然だろ、さすがに少しは焦ってくれるんじゃね?」
「そんなことができちゃうなんて……ゴメンなさい。確かに、崎陽のことナメてしまっていたかもだわ。崎陽が撃ち出す手元の動きは、カメラのアングルからはずれるから、ワタシには解析しきれなくて……」
「こんな時にシュンとなるほど反省するなってのっ。和加の正確さにこだわった着弾観測があってこその撃ち方なんだし、椎座に命中してくれるとも思ってないしさ」
「ウン……」
「とにかく、どう飛んで落ちたかをできる限り見てくれ。なんか、少し上はこことは違う向きで風が吹いてるのか、狙ったカンジとは、イマイチ違う流れ方をするんだよなぁ」
「えっ? こんな、四方を囲われた場所に風なんて……ホント、あるわ風。と言うより、わざと起されているのよ、六箇所にある送風機で」
「ガチかよぉ。そこまでリアルにこだわる必要あんのか? このドンパチ」
「ホント、まさか練習戦でなんて。しかも一定じゃないわ、ランダムなんだと思うけれど、吹き出す向きと強さが変化し続けていて、今は崎陽に不都合が出ているということみたい……チョットこれっ、流れて来たニオイを、もっと嗅いでみて崎陽!」
「え? 流れて来たってどう言うことだよ」
崎陽は、鼻をクンクン鳴らして空気を吸い込んでみる。
「どう?」
「何も臭わないけど。って言うか、和加にはこっちのニオイまでわかるのか?」
「ニオイそのモノが直接わかるわけではないけれど、崎陽の嗅覚が反応を示したことは崎陽よりも敏感にわかるみたいね。何せ、嗅ぐのではなく脳波の変化から読み取れるから。そして、このパターンによるとぺイントのニオイだわ」
「……そんなの。オレのバッグのラウンダルでも割れたかな?」
「違うわっ。怪物クンが発射してそれが風で流れて来ているのよ、って言うか丸太の陰へスグ隠れて! このままでいたらスーツに色が付き出しちゃうかもっ」
「ウッソ!」
崎陽は遽遽然と右手に立ち並びだす丸太の方へ跳び込んだ。
「ピスタのヘルメットは一応の通信機能が生きているわ、ワタシが強制的につなげて伝えるから崎陽は大声出しちゃダメよっ、もう距離的に怪物クンにまで聞こえちゃうぅ」
確かにD‐ヴァイザーに表示されている矢印は短くなり、距離も一六メートル八三センチにつめられていた。