048                  side B

文字数 1,849文字

「チョット、折角の地の利なのに、そんなうち合わせで済ませてはダメでしょ崎陽。時間がないとは言っても、もっとお互いの動き方とかをしっかり詰ておかめないと。まず、それぞれの待ち受ける地点を示すから」

「ムダムダ、男同士のチームワークなんて所詮は結果論だし。ピスタにはこれ以上必要ない、巧くやってくれるさ。大体がヘンタイ狂犬だぞ、ちまちま言っても、そのとおりになんて絶対になりゃしない。結局は出たトコ勝負の連続で、勝ちきれたら勝ちってだけだ」

「……ま、確かにね。こまごまと指定したところでやってくれないし、できた試しもないんだから。嫌だわぁ、もしかして崎陽とピスタは同類の男子なのかしら?」

「オレはヘンタイでも狂ってもいないってのっ。まあ、段取りよりその場の勢いなのは一緒かもな。けど、そう言う意味ならピスタの方が明歴歴なアスリートなんだしさ、期待はできるんじゃね? あとは和加の勢いのつけ方し次第だ」

「はいはい、犬に論語と言うものね。ワタシは精精、犬馬の労を尽すだけだわ」

 ピスタと一緒くたにイヌ扱いされた買い言葉として、和加をウマに喩える故事成語で軽く皮肉っておきたかった崎陽だが、

を引用した一言の、どちらが

く仕上がっているか、決まる寸でにピスタが犬走りで戻って来てしまった。

「よし崎陽、では配置につくとするぞ。椎座以外が来ることはまずあるまい、このゲーム、フィフは椎座が自由に動くボックスワンのフォーメーションに違いないとも言っていた」

「……あぁ、バスケでもやる一人だけ特定相手のマンマークについて、あとはゾーンで守るってヤツ?」

「戦術的意味合いは大きく違うが、立場は貴様と全く同じだ。椎座には僕など眼中にまるでないだろうし、実力的にユニット桜嶺が潰走しだしたとしても、こちらまで戦域を広げられるとは思えんしな」

「ふ~ん。わかるのか? まぁオレもそんな気はするけどさ……しかし、ガチに怖い奴だよなぁフィフは。目の鞘がぬけっぱなしってヤツじゃね?」

「それは当然だろう、何せ高──(もと)い! 当然なのだ、フィフはまさに異彩を放つ全てにおいて型破りな存在と言えるっ」

「ま、な……それにピスタも、よくフィフに教わった地点を憶えていられたもんだって。オレが上から見た時、ここと似たようなトコは幾つもあったように思うけど」

「ふん。僕には脳ミソがあるのだ、それもハイの時なら幾らでも鮮明に入ってくれる~。フィフの教え方自体も端的で忘れようもない……はっは~、あのコの筋の通った鼻を明かせたらサイコ~だぁ。さー、いてこましたるぞイナゴ男よっ」

「バッタからイナゴかよ……あんた御自慢のヘンタイ脳は、既にほとんど眠ってんじゃね? 和加のガナり立ては、やっぱオレよりピスタに必要だって」

「んぁ? 眠ってるとか言うなっ。今、寝落ちしたらど~する」

 崎陽は和加へと頭をふってもちかける。「なぁ、ピスタにミューツアルグラスを貸してやるのは、ガチでダメなのか?」

 実弾の直撃や至近距離での爆発にも耐え得るバーストプルーフのD‐ヴァイザーだが、念のため、ミューツアルグラスも頑丈なケースに納めてピップバッグに入れている。
 崎陽はそのヒップバッグを二度たたき、パシパシという音でも和加に許可を請う。

「ガチダメ~。前に説明したでしょ、崎陽以外は使えないんだって。何度も言わせないでよこんな時にぃ」

「和加の素早さなら、二人分の映像でもムリなく処理できんじゃね? より状況を詳しく認識できて、指示も直接それぞれへ出せるから、オレがピスタの分までつべこべ言われずに済むしさ」

「ムリなくできるけれど、そう言うことじゃないの」

「……てか、和加のダメとかムリって、女子特有の気分的な身勝手でしかないカンジがするんだよなぁ。それこそ、こんな時なんだからチョットだけガマンしてくれね?」

「も~、ガチでダメだしムリなのよマジで。ミューツアルグラスもD‐ヴァイザーも、サイドピースで崎陽の脳波を検知して、本人だと認証されてからワタシにつながっているんだもの。でないと、装着した誰もがオルターエゴゥだとほかのヌースから認識されるし、対抗できるワタシという力もないのに攻撃されることになっちゃうでしょ」

「脳波って……そんなモノまでチェックされてたのかよ、なんかヤらしすぎじゃね? オレのアホが酷くなったらどうすんだってのっ」

 右手を側頭部にやってしまう崎陽だが、ヘルメットを被っているためD‐ヴァイザーのバンド部分に触れることは叶わない。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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