042 side B
文字数 1,750文字
さらには、そんなプレイヤーはCUCおよびBGWの創始からこれまで、世界の歴代トップユニットにさえも存在しない。
現時点で唯一無二‐天下無双、椎座が怪物の怪物たる由縁であった。
オープンエアーなフィールドCだが、観戦席が陽の傾いていく側に位置する上に、屋根も付いているため、その落とす影がこれから範囲を増していくサイドを、ユニット桜嶺は順当なハンデとして与えてもらう。
同時に、言わでもの事と、禁が解かれた大声援に挑発交じりの野次までがユニット桜嶺を猛襲し、アーセナルを置く場所の選定をじっくりしてなどいられない。
それもまた、出場ユニット外のサヴァゲ部員たちによる組織立った扇動で行われているという点に、崎陽はあらためて畏怖を覚える。
さらに不随意に震えてくる身を、武者震いと自己欺瞞でふりはらい続けつつ、TTFまでを待ちおおせることしかできない崎陽だった。
和加にどうハッパをかけられようとも、崎陽には、この集団規範が醸しているチョットした逸脱すらも許されそうにない同調圧力こそが、何より一番恐ろしい。
そしてチーフ‐レフェリーの「テイク・ザ・フィールド!」がかかるや否や、崎陽はキョロリの顧望もなく一騎駆けに出た。
「さ~て、どうしましょ。向こうもこちらの位置だけは、手にとるようにわかっているはずだけれど……反則になるから今回も教えてはあげないようね、椎座の女指揮官さんとやらは。崎陽は知りたいぃ? ワタシも黙っとくぅ?」
今まで崎陽を落ち着かせようと気忙しかった和加なのに、逆にすっかり緊張感をかき冷まし物麗らかに問い放いてくる。
「教えてくれ。バレなきゃ反則じゃないし、和加とつながってることからしてバレやしないんだろ?」
「まぁ、そうだけれど……」
「どうせオレは戦力外、ユニット桜嶺は端から一人やられた体 の一〇人でアクティヴェートだそうなんで、ユニット間のグループ通話にもつながる必要なしだ」
「わかったわ。怪物クンはフィールドの敵サイド奥、中央から八メートルほど右にいるぅ。前が開けている場所だから、まずは様子見ということのようね」
「……了解だ。意外とフツウなんだなアイツ」
「あれれぇ~? 怪物クンたら、メイン・アームを背負い変えているっ。レイ‐キャノンじゃない、これはフィフがもち込んだスクワート‐キャノンだわ、ペイントそのモノを微小体で噴射しまくる大砲に」
「……放水ホースとかヒソめかれてたアレかよ、何で急に変えたんだ?」
──「それは、使わせるためにフィフが入れ知恵をしたからだ~。それより貴様、スタートダッシュが早すぎだぞっ。追い着けないかと焦せったが、この障害物の配置と多さでは、逆に俊足などアダにしかならんようじゃないか、がっはっはぁ」
崎陽に並ぶと同時に、横矢を飛ばしてきたのはピスタ。
現在崎陽は、より丈夫で顔を保護してくれる面積も大きいD‐ヴァイザーを装着して臨んでいる。
その性能を拡充する専用ヘルメットも被っているため、頭部だけならば、既に怪物を倒すシナリオが用意されたマスクマン。
一方ピスタは、予備にもされなかったサヴァゲ用ゴーグルを借用したがゆえに、外光の具合とレンズの濃さが合っておらず、顔色どころか邪慢げな眼色さえもはっきりしない。
無論、被っているヘルメットからして、内蔵するマイクもスピーカーも桜嶺にあてがわれた通信チャンネルにすら合わされていない余り物だが、その傷だらけ具合は逆に、ピスタであるとの識別をも一目瞭然で可能にしてくれそう。
けれどもそれ以前に、相手ユニットに増員もない真の戦力外 メンバーとして、ピスタが飛び入りをしていたことなど、崎陽はすっかり忘れていた。
「どう言うことだ? ……まさか椎座の肩をもつ気かよフィフの奴っ」
崎陽は急制動をかけ、スニーカーの底で地面を磨り滑せてストップ。
「っつ! だから、焦らすな~」
ピスタも崎陽に倣 うがフェンサーの動作からぬけきれず、窪んだ地面に前後べったりと、一八〇度以上の開脚をして止まった。
「……おぉ~い? 凄ぇなあんた。オレにもそこまでタコイカな芸当はないって」
そう崎陽が、心底からの本音で呆れたことを嗅ぎ分けられたからか、ピスタもそれに応えるため、白目を剥いたキモ寒ながら会心の笑顔を向ける。
現時点で唯一無二‐天下無双、椎座が怪物の怪物たる由縁であった。
オープンエアーなフィールドCだが、観戦席が陽の傾いていく側に位置する上に、屋根も付いているため、その落とす影がこれから範囲を増していくサイドを、ユニット桜嶺は順当なハンデとして与えてもらう。
同時に、言わでもの事と、禁が解かれた大声援に挑発交じりの野次までがユニット桜嶺を猛襲し、アーセナルを置く場所の選定をじっくりしてなどいられない。
それもまた、出場ユニット外のサヴァゲ部員たちによる組織立った扇動で行われているという点に、崎陽はあらためて畏怖を覚える。
さらに不随意に震えてくる身を、武者震いと自己欺瞞でふりはらい続けつつ、TTFまでを待ちおおせることしかできない崎陽だった。
和加にどうハッパをかけられようとも、崎陽には、この集団規範が醸しているチョットした逸脱すらも許されそうにない同調圧力こそが、何より一番恐ろしい。
そしてチーフ‐レフェリーの「テイク・ザ・フィールド!」がかかるや否や、崎陽はキョロリの顧望もなく一騎駆けに出た。
「さ~て、どうしましょ。向こうもこちらの位置だけは、手にとるようにわかっているはずだけれど……反則になるから今回も教えてはあげないようね、椎座の女指揮官さんとやらは。崎陽は知りたいぃ? ワタシも黙っとくぅ?」
今まで崎陽を落ち着かせようと気忙しかった和加なのに、逆にすっかり緊張感をかき冷まし物麗らかに問い放いてくる。
「教えてくれ。バレなきゃ反則じゃないし、和加とつながってることからしてバレやしないんだろ?」
「まぁ、そうだけれど……」
「どうせオレは戦力外、ユニット桜嶺は端から一人やられた
「わかったわ。怪物クンはフィールドの敵サイド奥、中央から八メートルほど右にいるぅ。前が開けている場所だから、まずは様子見ということのようね」
「……了解だ。意外とフツウなんだなアイツ」
「あれれぇ~? 怪物クンたら、メイン・アームを背負い変えているっ。レイ‐キャノンじゃない、これはフィフがもち込んだスクワート‐キャノンだわ、ペイントそのモノを微小体で噴射しまくる大砲に」
「……放水ホースとかヒソめかれてたアレかよ、何で急に変えたんだ?」
──「それは、使わせるためにフィフが入れ知恵をしたからだ~。それより貴様、スタートダッシュが早すぎだぞっ。追い着けないかと焦せったが、この障害物の配置と多さでは、逆に俊足などアダにしかならんようじゃないか、がっはっはぁ」
崎陽に並ぶと同時に、横矢を飛ばしてきたのはピスタ。
現在崎陽は、より丈夫で顔を保護してくれる面積も大きいD‐ヴァイザーを装着して臨んでいる。
その性能を拡充する専用ヘルメットも被っているため、頭部だけならば、既に怪物を倒すシナリオが用意されたマスクマン。
一方ピスタは、予備にもされなかったサヴァゲ用ゴーグルを借用したがゆえに、外光の具合とレンズの濃さが合っておらず、顔色どころか邪慢げな眼色さえもはっきりしない。
無論、被っているヘルメットからして、内蔵するマイクもスピーカーも桜嶺にあてがわれた通信チャンネルにすら合わされていない余り物だが、その傷だらけ具合は逆に、ピスタであるとの識別をも一目瞭然で可能にしてくれそう。
けれどもそれ以前に、相手ユニットに増員もない真の
「どう言うことだ? ……まさか椎座の肩をもつ気かよフィフの奴っ」
崎陽は急制動をかけ、スニーカーの底で地面を磨り滑せてストップ。
「っつ! だから、焦らすな~」
ピスタも崎陽に
「……おぉ~い? 凄ぇなあんた。オレにもそこまでタコイカな芸当はないって」
そう崎陽が、心底からの本音で呆れたことを嗅ぎ分けられたからか、ピスタもそれに応えるため、白目を剥いたキモ寒ながら会心の笑顔を向ける。