086 side B
文字数 1,561文字
「……貴様こそ、顔に似合わぬ悪タレ小僧めっ──」とは言うものの、ピスタはフツウの眼鏡も同然のきびわな造りのグラスヴュアーをとり出すと、ケースは道路脇へポイ捨てにした──「で、どんな様子だぁ? 何か動きはあるのか」
「特には何も。裏からはダメだな、窓が高い位置にあるし、外に格子まで付いてるから割っても中には入れない」
「……ではどうする?」
「横も全部シャッターが下りてるからな、正面から堂堂と行って、気づいてもらった方が話が早そうだ。とにかくピスタは、その間に合わせ武器の鉄筋 を目立たないよう背中にでも差して、攻撃されるまでは出さないでいてくれ」
「ウムッ心得た、相手に要らぬ興奮などさせはしない。しかし鉄筋では、ボクまで悪タレじみてしまうぅ。間に合わせでも長さと重量的には文句ナシッ、この得物のことはアイアンロッドと呼べ~」
「どっちも、二度と呼ばないから安心しろって──」崎陽は視線も店舗の裏側へ向けなおし、和加とのやり取りを再開させる──「どうだ和加、あの防犯カメラは作動してるのか? ほかに幾つあるんだ?」
「ええ、外の三台には、どう近寄ろうと撮られてしまうわね。幸い、不審な動きを検出するなどの高度なシステムはナシ。店内の三台は作動していないから、中の様子は全然わからないけれど、外の様子はモニターに映しながら警戒しているはずだわ」
和加とは、ピスタもヘッドセットへ接続を済ませたスマホでつながり続けているため、無言で頷き現状を把握したことを崎陽に伝える。
「じゃぁ防犯カメラは気にせず行こう、逆に目立った方が手間が省けら。セラフィムがガチ事件だとビビってる内に、サックリ方をつけちまわないとなっ」
「だと思っていたぞ、貴様が悠長に段取りを踏むはずもない~」
「ま、それもフィフの方の段取りの内じゃね?」
「集結しつつあるフォロワーたちもマヌケではないしなっ。連携して、こちらが公開するより先にここを突き止める可能性はかなり高い上、もしもセラフィムに矢が飛んだら鴫沢たちの命はないからな」
「……ホント、利用するにもイチイチ厄介だよな、ステマアイドルってのは」
「口を慎めチキチキッ。せめてIMI、インフルエンサー・マーケティング・アイドルとでも言わんと、貴様も吊るし上げられるんだからなっ」
「意味わかんね。ま、そん時ゃあんたも逃げ遅れんなよな。オレは自分で魂消るくらい速いんで」
「勘弁しろ~。セラフィムの実況で天へと召そうとも、貴様の身代わりではまるで浮かばれんだろがぁ」
そんな普段と変わらぬ調子で二人は周囲へ何の配意もなく走り、店舗の東側をぐるりと廻って正面へ向かう。
広めのウッドデッキが南東の角までを覆うように張り出しているため、入口にはしっかりと正面から近づくことになる。
だが、西側を廻っても店舗は南西部分が突き出した構造なので、どの道身を隠し隠し入口へ接近することはできない。
そして崎陽は、どうせ矢を射られるのならば、近づききらない内にがいいとの思いから、足音をコロさず衣ずれ音もかまわずに入口正面へ辿り着く。
すると即座に、「誰よっ? それ以上来ないで、さっさとここから出て行って!」とキンキン鼓膜に刺さるような怒声があがる。
初口に姉の宮裔が対応してきたのは意外だったが、ヒステリーがかったその調子から、星林誘拐の首謀者はオルターエゴゥだった鴫沢宮嗣当人ではなく、この姉ではないかと崎陽には感じられた。
「ア~っと、オレたちはSGRのアプリに登録してた単なるバイトで、人質になってるJK社長の眼鏡を届けに来たんですけど。そんで、ついでに、そちらの要求にムリがあるってこともですね、説明してくれと頼まれてましてて」
崎陽はピスタがかけているグラスヴュアーを指して、如何にも愚鈍そうに、姿を隠したままの相手へ告げた。
「特には何も。裏からはダメだな、窓が高い位置にあるし、外に格子まで付いてるから割っても中には入れない」
「……ではどうする?」
「横も全部シャッターが下りてるからな、正面から堂堂と行って、気づいてもらった方が話が早そうだ。とにかくピスタは、その間に合わせ武器の
「ウムッ心得た、相手に要らぬ興奮などさせはしない。しかし鉄筋では、ボクまで悪タレじみてしまうぅ。間に合わせでも長さと重量的には文句ナシッ、この得物のことはアイアンロッドと呼べ~」
「どっちも、二度と呼ばないから安心しろって──」崎陽は視線も店舗の裏側へ向けなおし、和加とのやり取りを再開させる──「どうだ和加、あの防犯カメラは作動してるのか? ほかに幾つあるんだ?」
「ええ、外の三台には、どう近寄ろうと撮られてしまうわね。幸い、不審な動きを検出するなどの高度なシステムはナシ。店内の三台は作動していないから、中の様子は全然わからないけれど、外の様子はモニターに映しながら警戒しているはずだわ」
和加とは、ピスタもヘッドセットへ接続を済ませたスマホでつながり続けているため、無言で頷き現状を把握したことを崎陽に伝える。
「じゃぁ防犯カメラは気にせず行こう、逆に目立った方が手間が省けら。セラフィムがガチ事件だとビビってる内に、サックリ方をつけちまわないとなっ」
「だと思っていたぞ、貴様が悠長に段取りを踏むはずもない~」
「ま、それもフィフの方の段取りの内じゃね?」
「集結しつつあるフォロワーたちもマヌケではないしなっ。連携して、こちらが公開するより先にここを突き止める可能性はかなり高い上、もしもセラフィムに矢が飛んだら鴫沢たちの命はないからな」
「……ホント、利用するにもイチイチ厄介だよな、ステマアイドルってのは」
「口を慎めチキチキッ。せめてIMI、インフルエンサー・マーケティング・アイドルとでも言わんと、貴様も吊るし上げられるんだからなっ」
「意味わかんね。ま、そん時ゃあんたも逃げ遅れんなよな。オレは自分で魂消るくらい速いんで」
「勘弁しろ~。セラフィムの実況で天へと召そうとも、貴様の身代わりではまるで浮かばれんだろがぁ」
そんな普段と変わらぬ調子で二人は周囲へ何の配意もなく走り、店舗の東側をぐるりと廻って正面へ向かう。
広めのウッドデッキが南東の角までを覆うように張り出しているため、入口にはしっかりと正面から近づくことになる。
だが、西側を廻っても店舗は南西部分が突き出した構造なので、どの道身を隠し隠し入口へ接近することはできない。
そして崎陽は、どうせ矢を射られるのならば、近づききらない内にがいいとの思いから、足音をコロさず衣ずれ音もかまわずに入口正面へ辿り着く。
すると即座に、「誰よっ? それ以上来ないで、さっさとここから出て行って!」とキンキン鼓膜に刺さるような怒声があがる。
初口に姉の宮裔が対応してきたのは意外だったが、ヒステリーがかったその調子から、星林誘拐の首謀者はオルターエゴゥだった鴫沢宮嗣当人ではなく、この姉ではないかと崎陽には感じられた。
「ア~っと、オレたちはSGRのアプリに登録してた単なるバイトで、人質になってるJK社長の眼鏡を届けに来たんですけど。そんで、ついでに、そちらの要求にムリがあるってこともですね、説明してくれと頼まれてましてて」
崎陽はピスタがかけているグラスヴュアーを指して、如何にも愚鈍そうに、姿を隠したままの相手へ告げた。