055 勝機なんて見出すから逸するのっ…… side A

文字数 2,118文字

 とりあえず崎陽は、一ヒネり加えてシュート軌道でラウンダルを飛ばしてみるも、椎座が、右前腕の内側に砲身を載せ抱えるカンジで握るスクワート‐キャノンの一噴射で弾かれてしまう。

「まるでソード・オフのショットガンだわ。でもフィフも来てしっかりポジションどりをしてくれているから、もう完全に新しい照準システムが使えるわよっ。次はどうするの崎陽?」

「って、どうすりゃいいんだあんなの?」

 和加が言うとおり、D‐ヴァイザーの画面表示は、さらに新しいモノにきり変わっていた。
 ターゲットの姿勢や動作から、命中確実な狙い所を指示してくれる。
 
 だが目下、椎座に大きな動きがないために、重心の移動もない。
 体勢の崩れも当然ないので、狙うべきポイントを示す照星が十字形の細枠で、椎座の首から下ほぼ全身を指定してしまっていた。

 逆に崎陽へ、地面に下りて移動することを促す矢印やメッセージがあれこれと、有効な移動方向毎に表示され出して、わかり易く目障りにもならないだけに、余計に崎陽の興を冷まさせる。

 崎陽はとりあえず新システムを頼らず、次弾にカーヴ、そしてシンカー、速度を増したシュートにドロップと、かけられる変化を次次に繰り出してみる。

 けれども、ことごとく椎座に撥ね飛ばされて、またもやマガジン交換を余儀なくされた。

 バックパックからの圧縮空気によりペイントを撃ち出すスクワート‐キャノンの砲身は、大型水筒ほどのサイズで、本来ならば、両手持ちをすることが後部で邪魔そうに突き立つグリップから判断できる。

 しかし砲身の前部には、ボタン式のトリガーとペイントの射出方法を調節する環帯状のグリップも嵌っていて、椎座の手の大きさに小腕の長さ、加えて力と小手利きさがあれば、片手で何の支障もなく扱い尽くせてしまいそう。
 どう見ても自然体でしかない椎座の身がまえからは、そんな余裕までを崎陽はカンジ取らされる。

 その環帯状のグリップを前後にスライドさせることで、ペイントの弾丸多数を広範囲に散らし撃ったり、数粒を一〇〇メートル近くまで飛ばしたりが選択できるとあって、崎陽のD‐ヴァイザーの表示もそれにしっかり連動されていた。

 今のところ椎座のスクワート‐キャノンは、二・五から四メートルの有効射程で、ペイントの飛散角度は三〇。
 それが、防御のための射出設定であるとの情報も、崎陽のD‐ヴァイザー表示に反映されている。
 さらには、むしろ椎座の左手に握られいるレイ‐ハンドガンへの警戒を、蛍光ピンクの明滅で促していた。

 それら、眼前に闖入(ちんにゅう)し賑やかしだしたXR技術も最先端と言えそうな事様(ことざま)に、再び崎陽は呆気に取られないよう、椎座に向けてスリングを引いてはおく。
 だが、こうまでテクノロジカルなサポートをされながら、自分が、攻め手に対極的なパチンコを選んでいる現実へと思い及ばずにはいられない。
 それが、呆れが礼にくるほど鼻白ませて、崎陽に冷徹かつ冷酷な鬼の心想を取り戻させてもいく。

「いやぁ凄いッスねパチンコ。これほどあちこち曲がったり、さっきなんか戻ったりで自由自在じゃないッスか。それに何事ッスかそれ? まさかそんな高いオブスタクル(障害物)の天辺に登っていただなんて。想像を一八〇度、いや五四〇度も(くつがえ)されたッス!」

「チッ。やっぱ綽綽(しゃくしゃく)かよ、じゃぁこれはどうだっ」

 崎陽は敢えて、命中してもヒット判定にならない椎座のタクティカルゴーグルが覆う顔面を目がけて放った。

 崎陽が新たに装填したのは、ノッチを二箇所欠き折ったラウンダルがつまるマガジンで、前の物とは欠いてある位置が異なるため、ブレながら飛ぶようにされている。

 それさえも、椎座は微動だにせず撃ち退けたが、
「たぁ~、今のはヤバかったッスね。ヘタに動けなかったと言うか、つられて動いていたら、こっちの弾幕を突破されていたかもッス」
 と、嬉しげに腹を割りつつも浮かべているのは明らかに微苦笑で、手応えをようやくつかむ崎陽だった。

「よく言うよ。一とおりオレの手の内を晒したのは、ここにはオレのほかに女子どもからモテたい一心で、あんたを光線の出る棒っ切れで倒すつもり満満な、狂犬が一匹紛れ込んでるもんだからさっ」

「……律儀全(りちぎまた)いスね~。嫌いじゃないってか、逆に好きッスけど」

「逆? まぁ、わかってるだろうけど、狂犬はオレの言うことなんて聞きやしないんで気をつけてくれ。とにかく、これからだって本番は」

 そう応じている間に崎陽は、踏ん張る足のバランスを変えて、後ろに立つ丸太の上に腰かけた。
 さらには靴下ごとスニーカーを脱ぎにかかって、右、左と、ピスタに向けて投げつけるという頓狂な行動に出ても見せる。

「そこまでしてくれなくてもいいッスのに。二人がかりでも俺にはまだまだハンデの内ッス、それもライトニングセイバーなら、レイ‐ライフルより攻撃のタイミングは読み易いッスからね。申しわけないッスが、狂犬先輩の相手は片手間ッス」

「ならいいって。オレも裸足になったのは、こうするためだしっ」

 崎陽は腰を浮かせて丸太二本の間へ身を落とす。
 頭までが前の丸太の陰に隠れた位置で、またも踏ん張り、二本の間で落ちていた体を開脚状態で止めた。 
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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