022            side B

文字数 2,223文字

「あ~悪ぃ悪ぃ無視しちまって。アンタ、ワザワザ習忘野から来たのかよ、あんなロボタン連れて? 端からフザケまくりじゃねぇか、注目されたい病の末期症状じゃね? それって、致死率がかなり高い不治の病らしいからな、とりあえず御愁傷様~」

「ロボタンではないっ……言われれば名前はまだないが、貴様よりはるかに価値ある存在だ」

「あっそ」

「無論だっ。持ち運びの際はキャスターバッグみたくなって、衆目を集めないよう細工まれてもいる。あの姿のまま電車に乗って来るアホがいるか、稚拙な臆断をするなっ」
  
 玄牟が立ち所を(なら)すかのように踏みつけていたドローンの残骸を蹴り退けたため、崎陽も、上半分が残るエコバッグのストラップを右肩から抜きとりながら、左にじりり動きだす。

 一応それはフェイクで、数歩ながら、ロボットとは遠退く方向への逃脱(とうだつ)を玄牟に意識づけたかった崎陽だが……。

 バッグのストラップをズラす崎陽の左手が、Tシャツの上に着流していたボタンダウン・シャツの袖までも一緒にズリ下ろした。
 先ほどの玄牟の一撃は、ボタンダウン・シャツをも背中から右肩口にかけてパックリ、大裂けさせていた事実を知って、崎陽の左手は力みで震える。

 そして次の瞬間、崎陽の堪忍袋の緒がプチッとキレて、ツラがまえを不敵にするばかりか、右袖ごと引き破り抜いたバッグの残りを放胆に地面へたたきつけ、完全に尻をまくらせた。

「やっぱ怒られちまうじゃねぇか鬼ババに! まだそんな着てないシャツなんかダメにされたら鬼激怒られだっ……テメェも制服ごとズタボロにしてやっからなぁ、鬼気取りにはガチ鬼をだ、この逆ピスタチオ野郎がっ……」
 
「キャハハ、言い得て妙すぎじゃないの崎陽。確かにそいつの頭って、殻付きのピスタチオっぽい~。殻が焦げて黒いのに、中は生で青白いというカンジッ」

 和加の合の手にも答えず、崎陽は鬼母から間違いなく憤激される悲運をブツつきながら玄牟へと馳突(ちとつ)を開始!
 それも、反復横飛び的な身震(みぶる)いを入れた稲妻走りで急迫する。

 玄牟もただちに反応、「フレッシュ!」とフェンシングのかけ声をあげ、右腕を伸ばして体ごと突っ込む攻撃動作で空気弾を発射した。

 それを真正面から受けることは回避できた崎陽だが、いかんせん至近距離であったため左上腕の外側に喰らってしまい、衝撃でバランスを崩した体が左へ回る。

 しかし崎陽は、それを利用して倒れ込みながら、自身の旋回に加速とヒネりを加えていく。
 感覚が失せてしまっている左手を、地面に突いて軸にした崎陽は、

「ウリャッ!」

 と低い喚声をあげて、ふり伸ばした右脚で、体勢を戻そうとしていた玄牟の重心を軸足ごとを薙ぎはらう。
 それで玄牟は、崎陽が右脚をふりぬいた反対側へとスッ転ぶ。崎陽の地を這う泥クサさで()せ返りそうな攻撃が見事にキマった。

 そこで右手も地面に突いた崎陽は、まだ回旋の勢いが残る体を強引に両腕で押し上げ、回るまま逆立ち状態へともっていく。
 逆さで伸ばしたその全身を、主に右腕で支えつつ、早く起き上がりたい一心で焦る玄牟へと躙り寄る。

 崎陽はさらに全身に込めた力で自ら倒れ込み、玄牟の背骨へ、崎陽の自重六四キロに、できる限りの運動エネルギーを加算した踵落としをもキメてしまう。
 
 痛みに悶える玄牟の背に、崎陽は再び全体重を込めたヒップドロップを喰らわせ、後向きで馬乗りにして玄牟を俯伏せ姿勢で固定。
 制服のサイドベンツにも手を掛けて、力任せに引き裂き上げる。

 それで露になった部分の空気圧縮装置は、吸気のためと思われるモジュールがほとんどを占めていた。
 薄く広いながらも丈夫そうな造りから、崎陽は、その陰に隠れるカンジで腰の両側に伸びていた左右の射出ノズルを掴み、もうまともな跳躍などできない角度にまで思いっきりネジひん曲げる。

 加えて、その上部から両脇へと延びていた圧縮弾射出のための細いパイプも、握り締めたあとは、自身の上体までもを激しくゆすってメキメキと折りはずしてしまう。
 
「……や、やめろ~、卑劣だぞ貴様ぁ……こんなの、デュエルじゃないぃ……」

「シカトよ崎陽、何がデュエルだか? 名門部員のフェンサーのクセして卑劣はこいつでしょうに、ラッサンブレもサリューエもなく攻めかかって来たんだから」

「…………」

 和加が何を言っているのかさっぱりな崎陽だが、今は聞き返しているヒマなどない。
 馬乗りにした向き的には難しいものの、恨み言で(うめ)き続ける玄牟を黙らせようと、玄牟の尾骨へ第二関節を立て固めた鉄拳を入れまくる崎陽だった。

「こうなったらロボットはあとまわし、こいつのアイウェアのSIMがある左側のイヤピースだけでいいから、壊さずに回収しちゃってちょうだい崎陽」

 くれぐれもSIM部分を破損しないよう、その特殊性‐重要性を詳密かつ懇懇と説明しだす和加に、崎陽はウンウンと軽い頷きで話をきりあげる。
 やっぱり今はそれどころではない。

「確かに、卑劣な奴ほど卑劣さに敏感だからな、て言うか、見た目だけでオレを見縊って、鬼に牙を剥いたのが大間違いだってのっ」

 崎陽の尻の下で、抵抗するための体勢づくりをしようという身動きを始めたその玄牟へ、トドメの一撃になってくれることを願いつつ、崎陽は大ワザをくり出しにかかる。

 崎陽は馬乗り態勢からその場で高高とジャンプ、そしてヒネりを入れたバック宙を行い、方向転換とともに、玄牟の両肩口へのニードロップで着地をキメた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み