047 ボックスワンにはツーマンセル…… side A

文字数 1,811文字

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 少し歩いてからピスタが指し示したポイントは、フィフが、TTFまでの間に有効性を看破していた一所(ひとところ)

 太さ三五センチ前後の丸太の柱が、不揃いの高さと本数の組み合わせで立ち並ぶ、ユニット同士が遭遇戦を繰り広げるには恰好のコンバットゾーンと言えた。

 崎陽たちの目には、左側に幹が太めで横への枝張りもだいぶ広く、葉まで蒼蒼と付けた高さが七メートル前後の一本の樹、その根元を中心点にしたカンジに、右側には半径約七・五メートルの歪なほぼ半円の扇形で、平らな地面が広がっている。

 その半円形の広場を囲うように、丸太の柱のほとんどが六〇から一二〇センチの間隔を開けて並んでいて、広場の中央付近にも高高と並び立つ二本を始め、不規則に丸太が何本も打ち込まれているという様態。

 さらには、その半円形の広場をとり巻く周囲は七〇センチから二メートル程度、プレイヤーの伏臥から直立姿勢までを隠す高さでまちまちと、垣根型やただの繁茂による障害や遮蔽が幾重にも連なって、相手陣地があるサイドの見通しをしっかり塞いでくれている。

「おっ、いいんじゃね? こっちより、あっちに打ち込まれてる丸太の方が間隔が疎らだし、並べて壁みたくしてある箇所も丸太同士の隙間が広そうに見えるし。とにかくペイントの飛沫が跳ね付くだけでもいいんだから、ここなら、こっち側が有利だろうな」

「待って崎陽、怪物クンが来る方を向いたまま、丸太の外側から並びに沿ってチョット左右に動いてみてくれない? フィフは、かなりこちらに有利になることを、見ぬいてくれているのかも知れないわよっ」

「ん? 了解……」

 何を言っているのかわからないものの、これ以上取り合わずにいると和加が本気でスネ端張りかねないので、しやかしと崎陽は、和加が見る映像がブレないよう蟹走りでD‐ヴァイザーのカメラレンズを向けていく。

 そして一七秒かけて元の位置に戻った時には、和加の言ったことが理解できただけでなく、ピスタと強行しようとしている迷案も、かなり分のある作戦になりそうで、崎陽は鼻息を漏らしてほくそ笑まずにはいられなくなる。

「説明するまでもないようね、それをピスタに伝えて。あとは崎陽がちゃんとワタシの指示に従ってくれるかどうかだわ」

「勿論従うさ。和加が、男の気持を理解してくれたなら二言はないって」

「理解なんて、できないわよ全っ然っ、ピスタが保険になるかもと発想を転換しただけ。当然そうなる前に崎陽を勝たせちゃうし、崎陽だって本気で百発百中を狙って撃たないと、返り討ちに遭うことだけは明らかなんだから」

「……まぁそうなんだけどさ。やっぱ女子だよなぁ和加も……」

「どうもありがと。そう言ってもらえて嬉しいわ、こんな時だからこそ格別にね」

 それもまた、いかにも女子の舌ぶりと崎陽は軽く鼻を鳴らして息を吐き、気持をきり替え、ライトニングセイバーで左右交互に居合い抜きをしていたピスタへ向きなおる。

「聞いてくれピスタ、ここって実は凄く有利な場所だったんだ」

「そうか。ならばよかったではないか」

「やっぱ、どういいのかまでは教えられてないんだな? チョット来てくれ、説明はするけど一見にしかずなんで」

「何だ? さっき貴様が言った以外に有利さがあるのか~」

 ピスタはライトニングセイバーを振り振り立ち上がり、崎陽のあとについて行く。
 
「丸太越しに向こうを見ながら歩いてくれ。椎座がこの広場を突っきるために、こっちへ一歩一歩近づいて来ることも想像しつつだ」

 崎陽が言うように数メートルも行けば、オバケ煙突と同じ理屈で丸太の壁が現れだす。
 広場の中ほどに立っている丸太が、こらちから半円に並ぶ丸太の隙間と重なり合って、完全な遮蔽をつくってくれる。

「おぉ~っ! こいつはいいぞ。椎座の歩調に合わせて動ききれば、こちらは姿を晒さずに撃たれてもヒットを惧れることなく、奴の死角へ廻り込めるかもと言うわけだなっ」

「そう言うこと。できれば前後で挟み撃ちにしたいところだけどさ、椎座がのこのこ広場の中まで出て来るとは思えないんで、あとはやりたいようにやっちゃってくれ」

「心得た、なるほどなるほど……」

 ピスタは崎陽を追い越して、一人で先の様子を確認しだす。

 それもすばしこく、左右に身をふるだけでなく、跳ねたり屈み込んだりして、向こうの見え方と自分の隠れ具合を、ドッグスポーツ種目‐アジリティーのコースを学習するイヌみたいに試していく。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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