017 らうらと言う名のカワウザな美女子…… side A
文字数 2,101文字
照準のための情報は、和加が言い授 くだけではなしに、この場でも崎陽がかけて臨んでいるミューツアルグラスのレンズの色みを濃くして映し出されていく。
そのレンズ内面に、まずは、ドローン三機の各搭載カメラによるターゲットまでのアングルが違う空撮映像が示された。
さらにそこへ、数値データの諸諸を可視化‐立体視させて、微妙な気圧差の分布から傾度風をも考慮した大気の流転状況などが、色付けしたグラデーションで重ね合わせて表示される。
どこへ向けて、どう撃てば、どのような軌道を描いてターゲットに命中するか、狙うべき空間上のポイントおよび射出角度の示導ばかりか、発射後のラウンダルが描く軌跡までもを、限りなく数秒後の現実に近いシミュレーション結果として崎陽へ見せてくれる。
だが、現下のように、ターゲットをブラインドショットで撃ちとろうという場合には、スポッター役の和加に一切を任せて、崎陽は正確無比なラウンダル発射装置と化すことに徹しなければばならない。
「一〇四メートルか、危ね~、欲こいて石を拾い続けていたら撃たれてたな。ギリで引き返せたのは鬼の知らせだって、この一発もきっとブチ当たってくれる。鬼が踊っちまうなっ」
「鬼、鬼って知らないけれど、もうほんのチョット、お尻を支点にして三センチくらい右へ向いて」
「ビミョ~だなぁ……あいよ。こんなんでどう?」
「ウン、いいでしょ。じゃぁラウンダルをしっかりセットしてワイヤーを引いていって、発射角度は1/5rad対応範囲なので、アルファを維持し続けるようにね」
「アルファね、了解了解。和加もカウントの言い方だけは注意してくれよ」
そのアルファとは、和加が崎陽の体勢に設定した発射フォーム。真上に放つデルタまでが、一応ながら崎陽の体に染みつけられている。
崎陽は、ラウンダルを抓む加減に気をつけながらワイヤーをじりじり引いていく。
「今っ、撃ってそこで!」
不意を喰らい続けてきた和加のムチャぶりにも、今や反射運動に近いことほど反射的に対応できるようになっている崎陽なので、この初弾も和加の望むタイミング内で発射していた。
「……だからさぁ、カウントすらナシって、あり得なくね?」
「いいじゃないのっ、当たった、と言うかヒットしたんだしっ」
「ガチかよっ? 命中したのか今の一発? 初弾でかぁ?」
「こっちはペイント弾だから、スーツにペイントが跳ね付いてもヒットって決めていたはずでしょ。相手がいきなり体勢を変えるから焦ったけれど、逆にバッチリな好都合──あ~っ!」
「どしたっ?」
「チョットあり得ないんだけどっ? こいつ、レイ‐ライフルをかまえなおしたぁ。ヒットの申告をせずにトボける気なんだわ」
「……こいつって。一応先輩なんだよなぁ……」
崎陽は、ヒップバッグのポケットからスマホを抜き出し、序盤早早に撃ち倒し済みで、本部と定めた一区画内にて、このゲームの結末を見守るしかない澤部へとメッセージを打ちにかかる。
「何をやっているの、撃つべし撃つべしっ、卑怯者なんかシラをきれないよう徹底的に撃ちのめしちゃえっ」
「いや、チョット待てって……」
スマホでの文字入力も早打ちを鍛えおおせた崎陽なので、澤部アテのメッセージもたちどころに送信までを完了。
「これが本当のオルターエゴゥ相手のバトルだったなら、ペイントが跳ねたくらいで喜んでいられないんだからっ。目に鬼見せてあげちゃえ崎陽!」
「ったく、どっちが鬼なんだか……」
とは呟 めくも、崎陽はただちに撃ち掛けの再開にかかる。
和加に、さらなるヴォリュームで騒 りつかれては鼓膜がもたない。
「今度はハズレたわ着弾、右斜め後ろに三メートル七〇センチ近くもっ」」
「ん。じゃぁ修正情報をくれ」
「左へ二センチほど向きなおして、ワイヤーの引き具合はそのままね、発射角度アルファも厳守だからっ」
「了解っと……」
何の手応えも崎陽にはないものの、自分のイメージする感覚的な空間誤差からも、手心を加えてラウンダルを放つ。
「う~惜しいぃ……もう言うことはないから同じようにバンバン撃っちゃって、あっちが驚いてフリーズしている内にっ」
崎陽はもう一弾一弾マガジンからラウンダルを抜き出すのをやめ、手早く残り全弾を出し並べての連続発射に入った。
そのマガジン自体は近距離用スリングショットで連射するための物であり、オートマティック拳銃同様にグリップ内へ着脱するようにできている。
しかし、遠距離用は自身がスリングショット本体と化さなければならず、連射も速射も自分の動き次第。そのための専用マガジンなどつくりようもない。
そして。
ゲスな真似をしてくれた腹癒せも上乗せして、澤部をケチョンケチョンに挑発し、このサヴァゲ愛好会の定期テスト明けの恒例行事、バトルロイヤルへのエントリーをモノにした崎陽であったが、動き易さも考慮したヒップバッグの容量的につめ込めた予備マガジンは一〇本。
会の全員がとりあえず敵にまわることは予想どおりだったものの、崎陽のヒット判定はシステムに頼れず、自己申告になるとはいえ、シラまできってくるとはさすがに大前提ルール破りの想定外。
そのレンズ内面に、まずは、ドローン三機の各搭載カメラによるターゲットまでのアングルが違う空撮映像が示された。
さらにそこへ、数値データの諸諸を可視化‐立体視させて、微妙な気圧差の分布から傾度風をも考慮した大気の流転状況などが、色付けしたグラデーションで重ね合わせて表示される。
どこへ向けて、どう撃てば、どのような軌道を描いてターゲットに命中するか、狙うべき空間上のポイントおよび射出角度の示導ばかりか、発射後のラウンダルが描く軌跡までもを、限りなく数秒後の現実に近いシミュレーション結果として崎陽へ見せてくれる。
だが、現下のように、ターゲットをブラインドショットで撃ちとろうという場合には、スポッター役の和加に一切を任せて、崎陽は正確無比なラウンダル発射装置と化すことに徹しなければばならない。
「一〇四メートルか、危ね~、欲こいて石を拾い続けていたら撃たれてたな。ギリで引き返せたのは鬼の知らせだって、この一発もきっとブチ当たってくれる。鬼が踊っちまうなっ」
「鬼、鬼って知らないけれど、もうほんのチョット、お尻を支点にして三センチくらい右へ向いて」
「ビミョ~だなぁ……あいよ。こんなんでどう?」
「ウン、いいでしょ。じゃぁラウンダルをしっかりセットしてワイヤーを引いていって、発射角度は1/5rad対応範囲なので、アルファを維持し続けるようにね」
「アルファね、了解了解。和加もカウントの言い方だけは注意してくれよ」
そのアルファとは、和加が崎陽の体勢に設定した発射フォーム。真上に放つデルタまでが、一応ながら崎陽の体に染みつけられている。
崎陽は、ラウンダルを抓む加減に気をつけながらワイヤーをじりじり引いていく。
「今っ、撃ってそこで!」
不意を喰らい続けてきた和加のムチャぶりにも、今や反射運動に近いことほど反射的に対応できるようになっている崎陽なので、この初弾も和加の望むタイミング内で発射していた。
「……だからさぁ、カウントすらナシって、あり得なくね?」
「いいじゃないのっ、当たった、と言うかヒットしたんだしっ」
「ガチかよっ? 命中したのか今の一発? 初弾でかぁ?」
「こっちはペイント弾だから、スーツにペイントが跳ね付いてもヒットって決めていたはずでしょ。相手がいきなり体勢を変えるから焦ったけれど、逆にバッチリな好都合──あ~っ!」
「どしたっ?」
「チョットあり得ないんだけどっ? こいつ、レイ‐ライフルをかまえなおしたぁ。ヒットの申告をせずにトボける気なんだわ」
「……こいつって。一応先輩なんだよなぁ……」
崎陽は、ヒップバッグのポケットからスマホを抜き出し、序盤早早に撃ち倒し済みで、本部と定めた一区画内にて、このゲームの結末を見守るしかない澤部へとメッセージを打ちにかかる。
「何をやっているの、撃つべし撃つべしっ、卑怯者なんかシラをきれないよう徹底的に撃ちのめしちゃえっ」
「いや、チョット待てって……」
スマホでの文字入力も早打ちを鍛えおおせた崎陽なので、澤部アテのメッセージもたちどころに送信までを完了。
「これが本当のオルターエゴゥ相手のバトルだったなら、ペイントが跳ねたくらいで喜んでいられないんだからっ。目に鬼見せてあげちゃえ崎陽!」
「ったく、どっちが鬼なんだか……」
とは
和加に、さらなるヴォリュームで
「今度はハズレたわ着弾、右斜め後ろに三メートル七〇センチ近くもっ」」
「ん。じゃぁ修正情報をくれ」
「左へ二センチほど向きなおして、ワイヤーの引き具合はそのままね、発射角度アルファも厳守だからっ」
「了解っと……」
何の手応えも崎陽にはないものの、自分のイメージする感覚的な空間誤差からも、手心を加えてラウンダルを放つ。
「う~惜しいぃ……もう言うことはないから同じようにバンバン撃っちゃって、あっちが驚いてフリーズしている内にっ」
崎陽はもう一弾一弾マガジンからラウンダルを抜き出すのをやめ、手早く残り全弾を出し並べての連続発射に入った。
そのマガジン自体は近距離用スリングショットで連射するための物であり、オートマティック拳銃同様にグリップ内へ着脱するようにできている。
しかし、遠距離用は自身がスリングショット本体と化さなければならず、連射も速射も自分の動き次第。そのための専用マガジンなどつくりようもない。
そして。
ゲスな真似をしてくれた腹癒せも上乗せして、澤部をケチョンケチョンに挑発し、このサヴァゲ愛好会の定期テスト明けの恒例行事、バトルロイヤルへのエントリーをモノにした崎陽であったが、動き易さも考慮したヒップバッグの容量的につめ込めた予備マガジンは一〇本。
会の全員がとりあえず敵にまわることは予想どおりだったものの、崎陽のヒット判定はシステムに頼れず、自己申告になるとはいえ、シラまできってくるとはさすがに大前提ルール破りの想定外。