034 side B
文字数 2,116文字
「……なんか、またピ~ンときたって。とり急ぎ整えた準備の手落ち部分は、執念の鬼ならどうにかしてみせろってことだろ?」
「ウ~ン? どう言うことぉ」
「ったく。和加が、この怪物以上のレイ‐キャノンを準備してくれてもさ、執念で振りまわし勝てなんて、ムチャぶりすぎだってのっ」
「ホント、信じていないのね~自分を。考えぬいて、自分を守る武器にスリングショットを選んだんじゃないのぉ? 決め手になった一番の理由は何だった?」
「そりゃ……レーザー銃や実弾火器全般、レイ‐ガン類にしてもだ、発射されたモノは一直線に飛ぶのが基本。でもパチンコは違う、撃ち方次第で弾道を曲げられる。カーヴもシュートも小手先の加減一つ、ドロップやホップもだ。最初から弾の重心をズラしておけば、短い距離でもビックリするくらい曲がるって、魔球さながらに!」
崎陽は自分で説き分けながら、パチンコが自分に最適な武器との認識に至った事の次第を再認識。
そして瞬きもしない間に、瞳に輝きをとり戻す──。
「ね、そう言うことだってば。皮肉な怪物に、鬼は皮肉返しができるぅ。真っ向勝負で負け知らずを誇っている相手なんかに、玉砕覚悟の正面突破で挑む必要は全然ないの」
「……だなっ」
「肝心要 なことなのに、どうしてスグに忘れて、自暴自棄に走ろうとしちゃうのかしらぁ? 崎陽だけじゃなく、人の愚かさの典型例かも~」
「血迷って愚 れ愚れスパイラルにハマってた~。でもどうする? 使えるのはまたペイント弾だぞ。オレの安全のために曲がるだけ曲げてブチ当てるには、ラウンダルを打 っ欠いて重心をズラさないとダメだが、やればきっと中のペイントが当たる前に全部飛び出ちまう。色が付かなけりゃ、幾ら当ててもヒットの判定は出ないしっ」
愚迷スパイラルから脱しきれない崎陽とは対照的に、和加の声調からは得意満面が目に浮かぶよう。
「だから大急ぎでラウンダルに改良を施しておいたわ。縁に等間隔の弧で八つのノッチを刻み入れて、指先で折り欠き易くしたの」
「オォ~、やってくれるじゃん和加っ」
「もう、崎陽がもてるだけの数を揃えて、練習戦会場に届けてある。ノッチを幾つ欠けばどれほど曲がるかの感覚は、本番までの短時間でつかんでもらうことになるけれど、それも全然問題ないわよ」
「……まぁ何発か撃てば、感覚は大体つかめるけど……前言全撤回したあとの前言も一部撤回なっ、怪物とやり合う頃までに、どうにか調整を済ませればいいんだろ?」
「つくづく信頼してくれていないんだからっ。昨日フィフが回収したロボタンの優れた空間サーヴェイングシステムを、崎陽のために使えるようにしてもらってもあるのにぃ」
「……てかさ、手際良すぎなんだって」
「フィフたちは、それを届けに来てくれているの。勿論フィフもピスタにも自分なりの目的があるんでしょうけれど、一応徹夜の作業になったみたいなので、お礼はちゃんと崎陽からも言ってちょうだいね」
「そりゃどうもっ。礼は言うけど、ちゃんとだと今みたくちゃんとから遠くなるぞ……って言うか、段取り良すぎて、オレの方がまるっきり信じられてないカンジがしちゃうって。まぁ和加が信じてるのは、オレの鬼じみてる部分だけなんだろうけどさ」
「それには、部分も全部もないんじゃない? 撤回した一部と違って、しっかり区分ができないし、崎陽がどこまで鬼じみているのかさえはっきりしないもの」
「……ったく。和加に屁理屈をこねだされたら、お手上げだってもう」
「崎陽は全部で崎陽でしょ。鬼が出るか蛇が出るかさえどうでもいい、勝つしかないんだもの信じるわよ全部。負ければワタシは打ち首も同然、頭だけにされちゃうのに死にもせず動けないまま、それこそ怪物のヌースの一部としてコキ使われるぅ。ハァ~こねこねこね……」
和加は、極楽往生を願う念仏を唱えるかのごとく崎陽へと当てこする。
「わぁった! 勝つって絶対っ。鬼全開だ、何としても勝てばいいんだろ。オレだって残りの一生、全てがどんよりゾンビ人生になっちまいそうだからなっ。フィフにもピスタにも五体投 地 で礼を言って、してもらえる協力は全部してもらうようにするしっ」
「ウフ~、よろしいっ。分身を失うと言うことは、自分を失うことなんだって、崎陽の全身に沁み込ませてちょうだいねっ。それではワタシたちの新装備、改良型ロボタン空間サーヴェイングシステム(仮)についての説明に突入させてもらっちゃうぅ」
「……なんか、こんがらがるな。分身はオレで、和加はオレを動かす根拠、オレが知覚できない本質とやらを認識してくれる精神なんじゃなかった?」
「屁理屈で返してくるのなら。もっと
「重ね重ねオレが悪ぅございましたっ。是非、説明をばお願いします……」
そして崎陽は、隣のバッグの山も、前席からふり返り「ウルセー!」と叱罵してくる澤部も何のその、窮屈な空間でほぼ斜め倒立する体勢を強引にとってみせる。
そうすることで、ミューツアルグラスのカメラレンズの向こうへと、車内の床を目一杯に近づけて写し込ませて五体投地を表現。
崎陽なりに、和加へ反省と感謝の意を最大限に示したというわけだった。
「ウ~ン? どう言うことぉ」
「ったく。和加が、この怪物以上のレイ‐キャノンを準備してくれてもさ、執念で振りまわし勝てなんて、ムチャぶりすぎだってのっ」
「ホント、信じていないのね~自分を。考えぬいて、自分を守る武器にスリングショットを選んだんじゃないのぉ? 決め手になった一番の理由は何だった?」
「そりゃ……レーザー銃や実弾火器全般、レイ‐ガン類にしてもだ、発射されたモノは一直線に飛ぶのが基本。でもパチンコは違う、撃ち方次第で弾道を曲げられる。カーヴもシュートも小手先の加減一つ、ドロップやホップもだ。最初から弾の重心をズラしておけば、短い距離でもビックリするくらい曲がるって、魔球さながらに!」
崎陽は自分で説き分けながら、パチンコが自分に最適な武器との認識に至った事の次第を再認識。
そして瞬きもしない間に、瞳に輝きをとり戻す──。
「ね、そう言うことだってば。皮肉な怪物に、鬼は皮肉返しができるぅ。真っ向勝負で負け知らずを誇っている相手なんかに、玉砕覚悟の正面突破で挑む必要は全然ないの」
「……だなっ」
「
「血迷って
愚迷スパイラルから脱しきれない崎陽とは対照的に、和加の声調からは得意満面が目に浮かぶよう。
「だから大急ぎでラウンダルに改良を施しておいたわ。縁に等間隔の弧で八つのノッチを刻み入れて、指先で折り欠き易くしたの」
「オォ~、やってくれるじゃん和加っ」
「もう、崎陽がもてるだけの数を揃えて、練習戦会場に届けてある。ノッチを幾つ欠けばどれほど曲がるかの感覚は、本番までの短時間でつかんでもらうことになるけれど、それも全然問題ないわよ」
「……まぁ何発か撃てば、感覚は大体つかめるけど……前言全撤回したあとの前言も一部撤回なっ、怪物とやり合う頃までに、どうにか調整を済ませればいいんだろ?」
「つくづく信頼してくれていないんだからっ。昨日フィフが回収したロボタンの優れた空間サーヴェイングシステムを、崎陽のために使えるようにしてもらってもあるのにぃ」
「……てかさ、手際良すぎなんだって」
「フィフたちは、それを届けに来てくれているの。勿論フィフもピスタにも自分なりの目的があるんでしょうけれど、一応徹夜の作業になったみたいなので、お礼はちゃんと崎陽からも言ってちょうだいね」
「そりゃどうもっ。礼は言うけど、ちゃんとだと今みたくちゃんとから遠くなるぞ……って言うか、段取り良すぎて、オレの方がまるっきり信じられてないカンジがしちゃうって。まぁ和加が信じてるのは、オレの鬼じみてる部分だけなんだろうけどさ」
「それには、部分も全部もないんじゃない? 撤回した一部と違って、しっかり区分ができないし、崎陽がどこまで鬼じみているのかさえはっきりしないもの」
「……ったく。和加に屁理屈をこねだされたら、お手上げだってもう」
「崎陽は全部で崎陽でしょ。鬼が出るか蛇が出るかさえどうでもいい、勝つしかないんだもの信じるわよ全部。負ければワタシは打ち首も同然、頭だけにされちゃうのに死にもせず動けないまま、それこそ怪物のヌースの一部としてコキ使われるぅ。ハァ~こねこねこね……」
和加は、極楽往生を願う念仏を唱えるかのごとく崎陽へと当てこする。
「わぁった! 勝つって絶対っ。鬼全開だ、何としても勝てばいいんだろ。オレだって残りの一生、全てがどんよりゾンビ人生になっちまいそうだからなっ。フィフにもピスタにも
「ウフ~、よろしいっ。分身を失うと言うことは、自分を失うことなんだって、崎陽の全身に沁み込ませてちょうだいねっ。それではワタシたちの新装備、改良型ロボタン空間サーヴェイングシステム(仮)についての説明に突入させてもらっちゃうぅ」
「……なんか、こんがらがるな。分身はオレで、和加はオレを動かす根拠、オレが知覚できない本質とやらを認識してくれる精神なんじゃなかった?」
「屁理屈で返してくるのなら。もっと
こねこね
してあげちゃうわよワタシもっ」「重ね重ねオレが悪ぅございましたっ。是非、説明をばお願いします……」
そして崎陽は、隣のバッグの山も、前席からふり返り「ウルセー!」と叱罵してくる澤部も何のその、窮屈な空間でほぼ斜め倒立する体勢を強引にとってみせる。
そうすることで、ミューツアルグラスのカメラレンズの向こうへと、車内の床を目一杯に近づけて写し込ませて五体投地を表現。
崎陽なりに、和加へ反省と感謝の意を最大限に示したというわけだった。