025 ヴァンパイアは身近にいます…… side A

文字数 1,694文字

 そんなことに思いを寄せて、痛みをどうにか思い消し、見立つバートリの間近まで辿り着く崎陽だった。
 けれども、彼女のただならぬ異趣までもうち忘れてしまい、普段どおりの調子で声をかけてしまう。

 「悪りぃな、助けてもらっちゃって。このロボタンはどうすればいい?」

 「…………」

 バートリは返事代わりに黙然と、ドローンの残骸を拾い集めた家庭用ゴミ袋を、機能を停止したロボットと物物交換するみたいに崎陽へ渡す。
 またその彼女の手は、クルマ後部のトランクへ運び込もうと、休らうことなくロボットへ掴み替えられる。

「あ~はいはい。オレみたいな凡俗レヴェルとは口を利く価値もないってな……」

「違う。単に、口を開きたくなかっただけだよ」

「え……あぁそう?」

 バートリが開いた口から覗かせたのは、八重歯と呼ぶには長く鋭い牙のような二本だった。
 さらには、一瞬イカらせた彼女の双眸も、虹彩に忽然と黄褐色が滲み混じって、外光の加減で黄金の閃耀を放つゴールデンアイへと急変したかのよう。
 それをも瞥見(べっけん)した崎陽にとって、バートリは、やはり魔変化生の雰囲気を感取させられてしまう(くす)ばしさ……。

「だからだよ。今は説明している場合じゃない、早く乗りなっ」

「了解……でもそれ重くね? 載せるの手伝うけど」

「要らないから、いろいろ便利にできてるんだよこのクルマは」

「あっそ……」

 バートリがツンと高い鼻先で促した後部座席には、既に玄牟が、壊れたアイウェアを未練がましく両手で握り締めながらぐったりと座っていた。

 その横へ腰を下ろすことには、かなり抵抗を覚える崎陽だが、自分よりも知能と学力ばかりか身長も高く、牙まで生やしそろえている男前女子から、再び明敏かつ端的な物言いでの突ききりなどされたくはない。

 玄牟に届かないものの、崎陽の耳には喧しい和加の玄牟に対する罵言を余所気(よそげ)に置いて、クルマへコソ~ッと乗り込む崎陽だが、気づかれないはずもなかった。

「貴様ぁ、僕を下した責任はしっかりとってくれるんだろうなっ。勝ち上がるということは、敗者の立場を背負うことなんだからな~」

「ウッザ……」

「まったく、パチンコが武器だと言うから出されることを警戒して攻めたのにぃ、素手でああまで動けるとは、予想外も甚だしすぎだろ。もはや人間存在として卑劣だ貴様はっ」

「あぁ言われてみりゃ、出そうって思うヒマすらなかったな。体育の授業が剣道だった時に、段もちだからと調子ブッこきまくってた野郎を、同じ手でブッ倒しといた苦苦しい経験が活かせたって。まぁ使ったのは手じゃなく足なんだけどさ」

 体育教師にこっ酷く叱られた記憶が思い出されて、崎陽には苦笑いも浮かんでくる。

「だから足を攻めるなんてのは正道からハズレた恥知らず行為だっ、この卑劣者め。エペ同様に僕は断じて認めんぞ」

「そっちが恥知らずなお門違いだろ、薙刀でも脛があるし。もう話しかけないでくれ、関わりたくないんで」
   
「何ぃ! 悪因縁だろうがこれで関わりができたのだ、僕と貴様とはこれから始まる。強者は弱者の期待に応えるのが常識だぞっ、ボクの切願を聞けぇ貴様~」

「タチから悪い野郎だな……転んでもタダじゃ起きないってしつこくするなら、二度と起き上がれないようにしてやるぞ。オレのタチは、悪いどころじゃない卑劣さなんでね」

「あぁやれ、やればいいっ。病院送りも、ここでなら西部総合病院のはずだしな。こうなれば入院期間は長くなった方がありがたい、チュたんチェに会えるチャンスが増えるかもだぁ。やれほら、徹底的にやってみせろっ」

「チュたんチェって……どこまでフザケていやがるんだか? 昆スタンツェ中毒の重症フォロワーかよあんた」

「本名の呼び捨てはやめろっ。中毒ではない、盲愛と言えぇ」

「モアイ? 言ったけど、一応」

「……今日こそ出交せるのではないかと、チュたんチェお勧めのDEグルメ最新メニューをゲットしに来たと言うのに。貴様がオルターエゴゥだったばっかりに、嗚呼、僕の人生どこまで泥沼なのだぁっ」

「……知らんけど、こっちには前からよく来てたのか、あのコ目当てで? じゃぁオレと出交したのはガチで偶然?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み