082 side B
文字数 1,857文字
「よかったぁ~! 崎陽が、アホで鬼でそこまでベコボコに歪んでて、ホントだぁい好きっ。選んだのは大正解、ワタシってばもってるぅー」
「……そ。よかったなそりゃ」
「だぁって。メジャー路線を素直に順風満帆で邁進する者たちには、全然相手にしてもらえないワタシたちだけれど、ワタシの見る目は、より確かだったことが証明されたも同然よねっ。まともな日本一なんて目じゃないわ、崎陽と勝を制すのはAP世界一決定戦なんだもの」
「ったく。自画自賛しかしてねぇってのそれっ」
「絶賛でしょ。これからは誰よりも一番まともなワタシが、自晦 も自粛も自己欺瞞もナシに思う存分っ、崎陽が勝つようにしてあげられるぅ。もうワタシに全幅の信頼を置いちゃって~、相手がハーミーズなら河童の屁にもならないわ、JK社長も短い栄華の夢の夢だったわねぇ」
「へ? 知ってるのかよ、あのコの相棒?」
「業界トップ、萬門証券のシンクタンクが、ロボタイズ高度プロフェショナルとして開発した絶対収益追求型‐資産運用戦略AIに、ヴァージョンアップを繰り返す中で人格システムが追加されたAPなの」
「へぇ……」
「だから全く恐るに足りないわ、違法行為や人に危害を加えてまで利を喰うことはできないから。犯罪スレスレの裏ワザは使ってくるでしょうけれど」
「……ロボタイズって、そいつも動き廻れるロボタンを使うのか?」
「人間に代わって自動的に奉仕するなら、動き廻れなくてもロボットと言うの。だから広義ではAIもロボットになるけれど、ワタシたちAPまで含めることには、人格に懸けて断固反対するわっ」
「……そうなんだ?」
和加はもはや普段同様に、眼鏡っコの優等生を気取りホワイトボードまで出して説明を始めだした。
「証券各社が、AIによる資産運用情報提供サーヴィスを開始して、それをロボ・アドヴァイザーと呼んだのが始まりだからよ」
「……そ?」
「ハーミーズにはさらに為替や証券ディーラー、企業と市場のアナリスト、経営コンサルタント、金融商品開発の能力が次次とロボット化されて、高プロと呼ばれた高報酬の専門家たちをお払い箱にした金融業界の革命的APなわけ」
「へ~。まぁ御利益がエビス様なら武略には疎そうで一安心だな。その手足も、同学年とは思えない小学生止まりのチョビ社長だしさ」
「今では押しも押されもしないガリバーと言うより、ヘタに押したら丸呑みされちゃうボアコンストリクター企業なのに、設立規模の何百倍もの勢いでの急成長が見込まれる中小企業を意味するスモールジャイアンツって、今だに当初の陰口を叩かれているものねぇ、今や彼女自体に向けて」
「知らんけど、並んだカンジ、和加より一〇センチはチョビだったし……おぉっと、な~んか今ふと頭に新展開がよぎっちまったよ。加えて、あんな奇特で殊勝な性分とくれば、これからオモロいことにできるかもじゃね?」
また機略というより奇略、はたまた鬼略をひらめいて一人でニヤつきだす崎陽に、和加も毎度の調子で語気を強めて戒めに出る。
「ナメたら絶対にダメッ。ハーミーズはギリシア神話のヘルメスを英語発音した名称よ。ローマ神話だとメルクリウスのことだから、英語圏ではマーキュリーと雄雄しく呼ばれて、ビジネスや富の神というだけでなく万能神を企図したスペックが暗喩されているわけなのっ」
「……ん、だから何?」
「ビジネス戦略と武略なんて、用いる手段の違いだけでしかないってことよ、バトり方へと転換されたら厄介だわ。第一、ワタシたちとでは使えるリソース、まずは資金額や人員数では相手にならない差なんだし」
「へぇへぇ。まぁピリつくなって、オモロけりゃ不覚もとりゃしない──」
言葉途中で崎陽はすっくと立ち上がる。
来客のようだが、玄関先で大声疾呼されたのは「ゴメンくださいっ、いらっしゃいますよね崎陽敏房さん!」と、自分の名前。
しかし、その女性の声は、崎陽には全く聞き憶えがない。
ヴェランダに出て玄関先を覗き込むと、ウェーブのかかった長い茶髪だが、タイトなパンツスーツをかっちりと着熟した二十歳そこそこと思しきオトナで、生命保険の勧誘員などとは思えない血相を変えた顔を崎陽へ上げた──。
「えっと、用はガチでオレにですか? 姉や母なら留守ですけど」
「電話を貸してくださいっ、私は星林の専任秘書で諸戸布 と申します、と言うか助けてください早く! ワザワザあなたに会いに来たせいで、社長が誘拐されてしまったんですからっ。もういきなりクルマごと私のバッグも、スマホまで奪って行ったんです!」
「……そ。よかったなそりゃ」
「だぁって。メジャー路線を素直に順風満帆で邁進する者たちには、全然相手にしてもらえないワタシたちだけれど、ワタシの見る目は、より確かだったことが証明されたも同然よねっ。まともな日本一なんて目じゃないわ、崎陽と勝を制すのはAP世界一決定戦なんだもの」
「ったく。自画自賛しかしてねぇってのそれっ」
「絶賛でしょ。これからは誰よりも一番まともなワタシが、
「へ? 知ってるのかよ、あのコの相棒?」
「業界トップ、萬門証券のシンクタンクが、ロボタイズ高度プロフェショナルとして開発した絶対収益追求型‐資産運用戦略AIに、ヴァージョンアップを繰り返す中で人格システムが追加されたAPなの」
「へぇ……」
「だから全く恐るに足りないわ、違法行為や人に危害を加えてまで利を喰うことはできないから。犯罪スレスレの裏ワザは使ってくるでしょうけれど」
「……ロボタイズって、そいつも動き廻れるロボタンを使うのか?」
「人間に代わって自動的に奉仕するなら、動き廻れなくてもロボットと言うの。だから広義ではAIもロボットになるけれど、ワタシたちAPまで含めることには、人格に懸けて断固反対するわっ」
「……そうなんだ?」
和加はもはや普段同様に、眼鏡っコの優等生を気取りホワイトボードまで出して説明を始めだした。
「証券各社が、AIによる資産運用情報提供サーヴィスを開始して、それをロボ・アドヴァイザーと呼んだのが始まりだからよ」
「……そ?」
「ハーミーズにはさらに為替や証券ディーラー、企業と市場のアナリスト、経営コンサルタント、金融商品開発の能力が次次とロボット化されて、高プロと呼ばれた高報酬の専門家たちをお払い箱にした金融業界の革命的APなわけ」
「へ~。まぁ御利益がエビス様なら武略には疎そうで一安心だな。その手足も、同学年とは思えない小学生止まりのチョビ社長だしさ」
「今では押しも押されもしないガリバーと言うより、ヘタに押したら丸呑みされちゃうボアコンストリクター企業なのに、設立規模の何百倍もの勢いでの急成長が見込まれる中小企業を意味するスモールジャイアンツって、今だに当初の陰口を叩かれているものねぇ、今や彼女自体に向けて」
「知らんけど、並んだカンジ、和加より一〇センチはチョビだったし……おぉっと、な~んか今ふと頭に新展開がよぎっちまったよ。加えて、あんな奇特で殊勝な性分とくれば、これからオモロいことにできるかもじゃね?」
また機略というより奇略、はたまた鬼略をひらめいて一人でニヤつきだす崎陽に、和加も毎度の調子で語気を強めて戒めに出る。
「ナメたら絶対にダメッ。ハーミーズはギリシア神話のヘルメスを英語発音した名称よ。ローマ神話だとメルクリウスのことだから、英語圏ではマーキュリーと雄雄しく呼ばれて、ビジネスや富の神というだけでなく万能神を企図したスペックが暗喩されているわけなのっ」
「……ん、だから何?」
「ビジネス戦略と武略なんて、用いる手段の違いだけでしかないってことよ、バトり方へと転換されたら厄介だわ。第一、ワタシたちとでは使えるリソース、まずは資金額や人員数では相手にならない差なんだし」
「へぇへぇ。まぁピリつくなって、オモロけりゃ不覚もとりゃしない──」
言葉途中で崎陽はすっくと立ち上がる。
来客のようだが、玄関先で大声疾呼されたのは「ゴメンくださいっ、いらっしゃいますよね崎陽敏房さん!」と、自分の名前。
しかし、その女性の声は、崎陽には全く聞き憶えがない。
ヴェランダに出て玄関先を覗き込むと、ウェーブのかかった長い茶髪だが、タイトなパンツスーツをかっちりと着熟した二十歳そこそこと思しきオトナで、生命保険の勧誘員などとは思えない血相を変えた顔を崎陽へ上げた──。
「えっと、用はガチでオレにですか? 姉や母なら留守ですけど」
「電話を貸してくださいっ、私は星林の専任秘書で