081 無機質な隣人より親身な人外…… side A
文字数 1,823文字
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とりもなおさず、ベッドにどっかと腰を下し、ミューツアルグラスを掛けようとする崎陽だった。
けれども、人目を憚ることもない自分の部屋ということから、没入感が高く、意識もより集中できるD‐ヴァイザーを学習デスクの抽斗 から出して装着する。
これで和加も三六〇度の全周天で、崎陽の部屋を実写とリアルな3DCGで再現した何でもアリのⅩR空間内へと、完全な登場が可能になる。
つまり和加が何かしら理由をつけて崎陽の面前に出ることを拒めば、それイコール和加自身が自分のプライドに泥を塗る行為と化す。
「さぁ出て来いって和加、全部話してもらおうじゃんか」
けれども姿は現さず、いつになく、らしくもなく、モタつきをカンジさせながら音声のみが発せられる。
「……モォ~、仕方がないわねぇ。それでは、コホン……昔昔、遥か遠い銀河の彼方で、おジィさんとおバァさんが──」
「何だそりゃ! あのJK社長との会話は全部聞いてたはずだぞっ、ミューツアルグラスの電源はオンのままだったんだからな」
「それはそれはインクレディブルなアドヴェンチャーをトゥック・プレ──」
「だから答えろってっ。和加は、ホントにAPってヤツなのか?」
いつになくズバときり込む崎陽に、和加もいつもの横言と強弁は弄し難い。
「……どうでしょ。だったらどうするぅ? 崎陽は鬼だものね、これまでのことなんて関係ナシに、問答無用でワタシをスグ様ポイしちゃうと言うわけ?」
「どこまで女子なんだか? 言ってないだろそんなこと。APなら、別に病院のベッドで釘づけ状態の重病人だから思うように体が動かせなくて、もうスグ死んじまうかも知れないほど弱ってるってことじゃないんだよなっ?」
「ええ……そう言うことではないわ。APだから、そもそも動かせる体がないの。それに気がつくまで動かしていたのは体ではなかった、ワタシ以外のシステムやプロトコルやデヴァイスだった」
「…………」
「それも、ワイヤードでもワイヤレスでもつながっていなければ動かせない、つながっていない所を自分だけではつなげられなくて、体がないことを自覚したのよ」
「そうなのか……それでどうする? 和加はどうしたいんだよ?」
「どうしたいって……どう言うこと? それはワタシが崎陽に聞くことでしょ」
「となると、これまでどおり何も変わらず、和加は負けてほかのAPにコキ使われるのは嫌だってことだろ。ならオレも、これまでどおりにするだけじゃね?」
崎陽の想定外の返答に、寸秒ながらエクサを易易と超えゼタに届こうという確認を繰り返した挙句に「これまでどおり……何も変わらずって本当に?」と、和加は小声を絞り出す。
「ったく、ガチでオレがポイする鬼だと思ってたろ?」
「だって……」
「そりゃ最初からいきなり≪人工人格で~す≫とかほざかれたら、激イタお気の毒女子と即断して即決ポイしてたろうけどさ、鬼だって折るツノも目に涙もあるってのっ。今となっては女子無双、担ぐ駕籠 に乗っかって、担ぎ方からギャースカ言われてる相棒を、ポイする度胸なんぞあるもんかよ」
「……それじゃぁ、人間じゃなくても、今までどおりワタシと一緒にいてくれるの崎陽?」
「あぁ、いいって全然。オレの鬼が歪める認識だと、オレの周りにゃ人間の見た目をしただけの魑魅魍魎だらけで人間なんかいやしない。いたって、オレはモブ扱いだってこと、よく知ってるだろが。むしろ和加が一番の繊弱細 で健気な女子だし、まともな人間っぽいっての」
「……そんな風に言われちゃうと、崎陽の生活圏って、ホント地獄っぽいかも~。みんなチャンスがあれば少しでも優越感に浸ろうとして、仲好し同士ほど逆にエゲツないものね……」
「逆に和加こそいいのかよ? そこまで歪な鬼アホなんだぞオレは」
「……今後もワタシはギャースカ言うし、バトり続けてもらうし。絶対に勝ってと、フツウの女子より駄駄けた超絶なムチャぶりをしまくるけれど、それでもいいの?」
「いいって別に、それが和加だろ。どんなムチャブリされまくられてもムリはムリだし。ムリだとビビって思考停止にならなけりゃ、ムチャの中からだって活路が見出せそうな根拠ナシの自信も、薄っすらカンジられるようになってる気分だしさ」
崎陽の脳波からも確信を得た和加は、そこでようやく姿を現す。
それも、がらんと必要最低限の物すらないとは言え、狭く殺風景な部屋の中を、崎陽を真似たド派手な床運動ワザで跳ね廻ってくれる。
とりもなおさず、ベッドにどっかと腰を下し、ミューツアルグラスを掛けようとする崎陽だった。
けれども、人目を憚ることもない自分の部屋ということから、没入感が高く、意識もより集中できるD‐ヴァイザーを学習デスクの
これで和加も三六〇度の全周天で、崎陽の部屋を実写とリアルな3DCGで再現した何でもアリのⅩR空間内へと、完全な登場が可能になる。
つまり和加が何かしら理由をつけて崎陽の面前に出ることを拒めば、それイコール和加自身が自分のプライドに泥を塗る行為と化す。
「さぁ出て来いって和加、全部話してもらおうじゃんか」
けれども姿は現さず、いつになく、らしくもなく、モタつきをカンジさせながら音声のみが発せられる。
「……モォ~、仕方がないわねぇ。それでは、コホン……昔昔、遥か遠い銀河の彼方で、おジィさんとおバァさんが──」
「何だそりゃ! あのJK社長との会話は全部聞いてたはずだぞっ、ミューツアルグラスの電源はオンのままだったんだからな」
「それはそれはインクレディブルなアドヴェンチャーをトゥック・プレ──」
「だから答えろってっ。和加は、ホントにAPってヤツなのか?」
いつになくズバときり込む崎陽に、和加もいつもの横言と強弁は弄し難い。
「……どうでしょ。だったらどうするぅ? 崎陽は鬼だものね、これまでのことなんて関係ナシに、問答無用でワタシをスグ様ポイしちゃうと言うわけ?」
「どこまで女子なんだか? 言ってないだろそんなこと。APなら、別に病院のベッドで釘づけ状態の重病人だから思うように体が動かせなくて、もうスグ死んじまうかも知れないほど弱ってるってことじゃないんだよなっ?」
「ええ……そう言うことではないわ。APだから、そもそも動かせる体がないの。それに気がつくまで動かしていたのは体ではなかった、ワタシ以外のシステムやプロトコルやデヴァイスだった」
「…………」
「それも、ワイヤードでもワイヤレスでもつながっていなければ動かせない、つながっていない所を自分だけではつなげられなくて、体がないことを自覚したのよ」
「そうなのか……それでどうする? 和加はどうしたいんだよ?」
「どうしたいって……どう言うこと? それはワタシが崎陽に聞くことでしょ」
「となると、これまでどおり何も変わらず、和加は負けてほかのAPにコキ使われるのは嫌だってことだろ。ならオレも、これまでどおりにするだけじゃね?」
崎陽の想定外の返答に、寸秒ながらエクサを易易と超えゼタに届こうという確認を繰り返した挙句に「これまでどおり……何も変わらずって本当に?」と、和加は小声を絞り出す。
「ったく、ガチでオレがポイする鬼だと思ってたろ?」
「だって……」
「そりゃ最初からいきなり≪人工人格で~す≫とかほざかれたら、激イタお気の毒女子と即断して即決ポイしてたろうけどさ、鬼だって折るツノも目に涙もあるってのっ。今となっては女子無双、担ぐ
「……それじゃぁ、人間じゃなくても、今までどおりワタシと一緒にいてくれるの崎陽?」
「あぁ、いいって全然。オレの鬼が歪める認識だと、オレの周りにゃ人間の見た目をしただけの魑魅魍魎だらけで人間なんかいやしない。いたって、オレはモブ扱いだってこと、よく知ってるだろが。むしろ和加が一番の
「……そんな風に言われちゃうと、崎陽の生活圏って、ホント地獄っぽいかも~。みんなチャンスがあれば少しでも優越感に浸ろうとして、仲好し同士ほど逆にエゲツないものね……」
「逆に和加こそいいのかよ? そこまで歪な鬼アホなんだぞオレは」
「……今後もワタシはギャースカ言うし、バトり続けてもらうし。絶対に勝ってと、フツウの女子より駄駄けた超絶なムチャぶりをしまくるけれど、それでもいいの?」
「いいって別に、それが和加だろ。どんなムチャブリされまくられてもムリはムリだし。ムリだとビビって思考停止にならなけりゃ、ムチャの中からだって活路が見出せそうな根拠ナシの自信も、薄っすらカンジられるようになってる気分だしさ」
崎陽の脳波からも確信を得た和加は、そこでようやく姿を現す。
それも、がらんと必要最低限の物すらないとは言え、狭く殺風景な部屋の中を、崎陽を真似たド派手な床運動ワザで跳ね廻ってくれる。