002 side B
文字数 1,971文字
「……ガチかこれ。キツネに抓まれてるとしか思えないんだけど……」
「コンッ──」和加は両手で頭上に耳をつくり、戯ざれた片笑みまで見せる──「ホラホラ、崎陽キュンも座って座ってぇ。何から説明しちゃおっか?」
崎陽は和加が促すベッドの隣ではなく、もう一歩後退してデスクチェアーにへたり込む感じで対座した。
「……その、キュンってのはやめてくれ。なんか、どこと言わずムズ痒くなってくるんで」
思わず首筋元を撫で掻く崎陽だった。
「そうなのぉ?」
「説明以前に何なんだよ一体? その妙にリアルなヴァーチャルキャラに、動きをつけてアフレコまで担当してるヴォイスアクトレスってこと? オレがこのD‐ヴァイザーとやらを被って、電源入れるの待ってたわけワザワザ?」
「そんなわけないってば、和加だってそこまでヒマじゃないもん。ウ~ン、どうしよっかな? 和加が頼まれてるのは、そのD‐ヴァイザーUT999Pと、もう一つのミューツアルグラスTPの説明だけだしぃ……」
和加はまた、イタズラな目笑を浮かべる。
「……何? オレにどうしろっての?」
「そうね。和加のことを知りたいなら、教えてあげよーって思えるようにしてくれなくちゃ、崎陽クンが」
その何か含みのある表情、就職を機に出て行った上の姉の心得顔が思い出された崎陽は、はたと自分を取り戻す。
変に舞い上がっていた心持も完全に吹きはらわれた。
「ズルいってなんか。そっちはオレのことを知ってるみたいなのに、自己紹介と言うか設定的なことすら教えないなんてさ。そりゃ機器の説明は聞いときたいけど、別に欲しがったわけじゃなく勝手に送りつけてきた物だし、今スグ電源オフしてほったらかしにしても、オレとしては全然問題ないんだし」
「ウゥ~……気に入られようとガンバる和加に、そゆこと言えちゃう男子だったんだぁ崎陽クンは? ならモォ仕切りなおしっ」
ベッドに腰かけた状態から一瞬転、和加はドア前で畏まり立つ態度にあらため、服装までもビジネススーツへと変わり身を遂げた。
崎陽も、ゴキッと鳴らすほど反射的に首をふり向ける。
「……今度は何だよ? どした一体?」
「初めまして崎陽敏房様。このたびは不躾な送付にもかかわらず、開封し電源スイッチまで入れてくださり、大変ありがとうございます」
深深と慇懃に頭を下げる和加に、崎陽は「…………」
まるで開店直後のデパガみたいだと目を円くするばかり。
「当エレクトロレックス社が新開発いたしましたそちらD‐ヴァイザー、およびミューツアルグラスの二機種におきましてワタクシ、RMFアシストキャラクターを務めさせていただくTHI
‐ライフサイエンスラボ所属の須世理和加と申します──」
和加のプロフィールが崎陽の眼前、室内に浮かんでスクロールしながら表示されていく。
氏名にはフリガナがふられ、スセリ・ワカとなっていた。
身長は一六二センチ、体重は絶対零キログラム。
出身は噯知県津嶌市。
趣味はネイル、ハフハフ、ダイヴィング。
大好きなモノはミルク、ホイップクリーム、スヌーピー。
将来の夢は一流のドラマー。
尊敬する人はエジソン、ガンジー。
座右の銘は<落井下石 ><私は不完全だからあきらめないの>
……年齢は内緒なのにスリーサイズは明記、さらに勝負下着はラヴェンダー色のTバックとまで。
「たんま! わかったってもう、オレが悪ぅござんしたっ。電源はオフしない、好きにやってくれていいから、そう言う禍禍 しげな嫌がらせだけはやめてくれよ」
「あれ~? どうしてそんなに早くわかっちゃうのぉ?」
「……姉ちゃんが二人いるんで、その手の攻撃方法は骨身に沁みてるだけ。さすがに、一癖も二癖もある姉ちゃんたちだってことまで知りようもないだろうけどさ」
「ムムムム……これは和加としたことが失敗失敗。こうなったら次ぎの手よ~、<オペレーション・オトモダチ>でいくしかないわっ」
「は? それ、口に出したらダメなんじゃね? 悪いけどオレもそこまでアホじゃないって」
「エ~ッ、ワタシそんなつもりで言ってないんだけど全然っ」
「ま、オレはその手のおチャラかしを許さないアホでもないからさ、オレにやらせたい何かがあるってことならストレートに言ってくれよ。やりたかったらできるまでやるし、そうじゃなければやらないし、やってもできやしないんで」
「……そうね。ではストレートに言わせてもらうと、これからしばらくの間ワタシにつき合って欲しいの」
「……てか、どゆこと?」
「つまりね、装着可能な時にはそのD‐ヴァイザーを、そうでない時にはもう一つのミューツアルグラスで、なるべくワタシと、こうしてつながっていて欲しいと言うことなんだけれど。どうかしら? ダメかなぁ崎陽クンッ」
和加は再び制服姿へと戻って、愛嬌をこぼしながら崎陽に頼みあげ始める──。
「コンッ──」和加は両手で頭上に耳をつくり、戯ざれた片笑みまで見せる──「ホラホラ、崎陽キュンも座って座ってぇ。何から説明しちゃおっか?」
崎陽は和加が促すベッドの隣ではなく、もう一歩後退してデスクチェアーにへたり込む感じで対座した。
「……その、キュンってのはやめてくれ。なんか、どこと言わずムズ痒くなってくるんで」
思わず首筋元を撫で掻く崎陽だった。
「そうなのぉ?」
「説明以前に何なんだよ一体? その妙にリアルなヴァーチャルキャラに、動きをつけてアフレコまで担当してるヴォイスアクトレスってこと? オレがこのD‐ヴァイザーとやらを被って、電源入れるの待ってたわけワザワザ?」
「そんなわけないってば、和加だってそこまでヒマじゃないもん。ウ~ン、どうしよっかな? 和加が頼まれてるのは、そのD‐ヴァイザーUT999Pと、もう一つのミューツアルグラスTPの説明だけだしぃ……」
和加はまた、イタズラな目笑を浮かべる。
「……何? オレにどうしろっての?」
「そうね。和加のことを知りたいなら、教えてあげよーって思えるようにしてくれなくちゃ、崎陽クンが」
その何か含みのある表情、就職を機に出て行った上の姉の心得顔が思い出された崎陽は、はたと自分を取り戻す。
変に舞い上がっていた心持も完全に吹きはらわれた。
「ズルいってなんか。そっちはオレのことを知ってるみたいなのに、自己紹介と言うか設定的なことすら教えないなんてさ。そりゃ機器の説明は聞いときたいけど、別に欲しがったわけじゃなく勝手に送りつけてきた物だし、今スグ電源オフしてほったらかしにしても、オレとしては全然問題ないんだし」
「ウゥ~……気に入られようとガンバる和加に、そゆこと言えちゃう男子だったんだぁ崎陽クンは? ならモォ仕切りなおしっ」
ベッドに腰かけた状態から一瞬転、和加はドア前で畏まり立つ態度にあらため、服装までもビジネススーツへと変わり身を遂げた。
崎陽も、ゴキッと鳴らすほど反射的に首をふり向ける。
「……今度は何だよ? どした一体?」
「初めまして崎陽敏房様。このたびは不躾な送付にもかかわらず、開封し電源スイッチまで入れてくださり、大変ありがとうございます」
深深と慇懃に頭を下げる和加に、崎陽は「…………」
まるで開店直後のデパガみたいだと目を円くするばかり。
「当エレクトロレックス社が新開発いたしましたそちらD‐ヴァイザー、およびミューツアルグラスの二機種におきましてワタクシ、RMFアシストキャラクターを務めさせていただくTHI
‐ライフサイエンスラボ所属の須世理和加と申します──」
和加のプロフィールが崎陽の眼前、室内に浮かんでスクロールしながら表示されていく。
氏名にはフリガナがふられ、スセリ・ワカとなっていた。
身長は一六二センチ、体重は絶対零キログラム。
出身は噯知県津嶌市。
趣味はネイル、ハフハフ、ダイヴィング。
大好きなモノはミルク、ホイップクリーム、スヌーピー。
将来の夢は一流のドラマー。
尊敬する人はエジソン、ガンジー。
座右の銘は<
……年齢は内緒なのにスリーサイズは明記、さらに勝負下着はラヴェンダー色のTバックとまで。
「たんま! わかったってもう、オレが悪ぅござんしたっ。電源はオフしない、好きにやってくれていいから、そう言う
「あれ~? どうしてそんなに早くわかっちゃうのぉ?」
「……姉ちゃんが二人いるんで、その手の攻撃方法は骨身に沁みてるだけ。さすがに、一癖も二癖もある姉ちゃんたちだってことまで知りようもないだろうけどさ」
「ムムムム……これは和加としたことが失敗失敗。こうなったら次ぎの手よ~、<オペレーション・オトモダチ>でいくしかないわっ」
「は? それ、口に出したらダメなんじゃね? 悪いけどオレもそこまでアホじゃないって」
「エ~ッ、ワタシそんなつもりで言ってないんだけど全然っ」
「ま、オレはその手のおチャラかしを許さないアホでもないからさ、オレにやらせたい何かがあるってことならストレートに言ってくれよ。やりたかったらできるまでやるし、そうじゃなければやらないし、やってもできやしないんで」
「……そうね。ではストレートに言わせてもらうと、これからしばらくの間ワタシにつき合って欲しいの」
「……てか、どゆこと?」
「つまりね、装着可能な時にはそのD‐ヴァイザーを、そうでない時にはもう一つのミューツアルグラスで、なるべくワタシと、こうしてつながっていて欲しいと言うことなんだけれど。どうかしら? ダメかなぁ崎陽クンッ」
和加は再び制服姿へと戻って、愛嬌をこぼしながら崎陽に頼みあげ始める──。