037 2挺と200超と0.0002兆…… side A
文字数 1,605文字
崎陽がそんな受け返しをしたのは、椎座のヘアスタイルが、目にしたどの画像のモノとも違っていたからと言える。
今は剃り込みによるラインが右サイドに三本、左サイドに四本、さらにリーゼントがかった前髪のうねり垂らしでもアシンメトリーが強調されていた。
「鬼恥ぃ~。おまえそのまんま、無教養で野蛮って意味だ、ったはず──」
思わず口入って、椎座を鋭敏にふり向かせてしまった澤部は、物恐ろしさにギクつきながら回れ右。
「あん? どしたぁヴァーボウス(多弁)な澤部~」
「ウッセ! んじゃなっ、俺はやることがあったんだった。おまえ毎度のクソアホのせいで忘れてた──」
澤部が脱兎の勢いで走り去るのを、小首を傾げながら見送った椎座は顔を崎陽へ向け戻す。
その表情、おどけが薄れすっかり空笑いじみてしまっていたが、椎座がなぜやって来たのかに思い至れば、その方が幾分話し易さをカンジられる崎陽だった。
「ま、気にしないでくれ。あいつもオレと同じクソアホなんで」
「ウッス。でも、到着していきなり左腕に鎮痛クリームを塗られていたように見えたッス。それが気になるんッスけど?」
「あぁオレ? 大丈夫。昨日は狂犬に襲われて、一噛みされただけなんで」
「そうなんッスか、申しわけないッス。俺は狂っていないッスけど、この先既に決まってる対戦スケジュールがビッシリで、今日しかムリだったんッスよ。このPGが急遽ムリ押し気味で決まったのも、それが理由ッス」
椎座の頭を深深と下げての謝罪は、まるで大団扇で捷勁 に一扇ぎしたかのようで、体感できる風圧までが崎陽に届く。
「なんだぁ、じゃ~今から脱走しちまおうかなっ。オレは逃げも隠れも思いのまま、正式には帰宅部所属のヒマ人なんで」
「させないッス──」椎座は太く長い腕もまた剽悍 と風を切って伸ばす。
が、ギリで崎陽に躱され、心做し息を呑まされることにもなる。
「危ね~、いや戯れ言だって。さすがにトンズラこける空気じゃないし、来るまでにもう、オレがイカれちゃったんでね」
「イカれ? ……ま、ならいいんッス」
「それより、あんたは骨伝導モードを違和感なく使えてるわけ? その前に、普段は何もかけてないのか? あんたの相棒とつながる眼鏡っぽいのやら小洒落たHMDをさ。かけなくてもギャースカ言ってこないとか?」
警戒心を高めて身がまえを固めるどころか、むしろ崩れた立ち身をへろりんと戻す崎陽に、椎座の方もヤケに嬉しげで、すっかり相好を崩していた。
「あはぁ、ヌースとのあれって言うか、それッスか?」
椎座は、崎陽がかけているミューツアルグラスを軽く顎を上げることで指し示す。
「そ。これみたいなヤツ」
「普段はまぁ、かけないッス……俺のヌースは何て言うか、相棒ってカンジじゃなくまるで女司令官なんッスよね。俺にはパワハラやモラハラで萌える趣味はないんで、サヴァゲのプレイ中以外で使う気にはなれないッス」
「……なんか、わかるかも」
「それにヌース絡みのアイウェアは、電源オンしてる者同士が半径二五〇メートル以内に接近すると、あれこれ索り合えるみたいッスから」
「そうなのか……」
フィフが今日、ミューツアルグラスをかけていなかった理由がゆくりなく判明し、崎陽は内心で舌をうつ。
ただちに和加が崎陽の耳へ始めた釈明も、言い紛らかしではなく実にごもっともなツッコみの連発。
今日のところは確かに余計な情報でしかなく、崎陽の神経を逆撫でしたりしないための配慮であるとの、和加の言い分は認めざるを得ない。
そもそも自分が知ろうとせず、問いも質しもしなかっただけ。
だけれども、知ってどうなるわけではなく、どうするつもりもない崎陽なので、やはり和加がギャースカと続けている言い張りからしてどうでもいい。
スグ様、崎陽自体が聞き流しモードへ自動的にきり替わってしまっているため、かけない椎座と実質的には同じであることを今にして悟る崎陽だった。
今は剃り込みによるラインが右サイドに三本、左サイドに四本、さらにリーゼントがかった前髪のうねり垂らしでもアシンメトリーが強調されていた。
「鬼恥ぃ~。おまえそのまんま、無教養で野蛮って意味だ、ったはず──」
思わず口入って、椎座を鋭敏にふり向かせてしまった澤部は、物恐ろしさにギクつきながら回れ右。
「あん? どしたぁヴァーボウス(多弁)な澤部~」
「ウッセ! んじゃなっ、俺はやることがあったんだった。おまえ毎度のクソアホのせいで忘れてた──」
澤部が脱兎の勢いで走り去るのを、小首を傾げながら見送った椎座は顔を崎陽へ向け戻す。
その表情、おどけが薄れすっかり空笑いじみてしまっていたが、椎座がなぜやって来たのかに思い至れば、その方が幾分話し易さをカンジられる崎陽だった。
「ま、気にしないでくれ。あいつもオレと同じクソアホなんで」
「ウッス。でも、到着していきなり左腕に鎮痛クリームを塗られていたように見えたッス。それが気になるんッスけど?」
「あぁオレ? 大丈夫。昨日は狂犬に襲われて、一噛みされただけなんで」
「そうなんッスか、申しわけないッス。俺は狂っていないッスけど、この先既に決まってる対戦スケジュールがビッシリで、今日しかムリだったんッスよ。このPGが急遽ムリ押し気味で決まったのも、それが理由ッス」
椎座の頭を深深と下げての謝罪は、まるで大団扇で
「なんだぁ、じゃ~今から脱走しちまおうかなっ。オレは逃げも隠れも思いのまま、正式には帰宅部所属のヒマ人なんで」
「させないッス──」椎座は太く長い腕もまた
が、ギリで崎陽に躱され、心做し息を呑まされることにもなる。
「危ね~、いや戯れ言だって。さすがにトンズラこける空気じゃないし、来るまでにもう、オレがイカれちゃったんでね」
「イカれ? ……ま、ならいいんッス」
「それより、あんたは骨伝導モードを違和感なく使えてるわけ? その前に、普段は何もかけてないのか? あんたの相棒とつながる眼鏡っぽいのやら小洒落たHMDをさ。かけなくてもギャースカ言ってこないとか?」
警戒心を高めて身がまえを固めるどころか、むしろ崩れた立ち身をへろりんと戻す崎陽に、椎座の方もヤケに嬉しげで、すっかり相好を崩していた。
「あはぁ、ヌースとのあれって言うか、それッスか?」
椎座は、崎陽がかけているミューツアルグラスを軽く顎を上げることで指し示す。
「そ。これみたいなヤツ」
「普段はまぁ、かけないッス……俺のヌースは何て言うか、相棒ってカンジじゃなくまるで女司令官なんッスよね。俺にはパワハラやモラハラで萌える趣味はないんで、サヴァゲのプレイ中以外で使う気にはなれないッス」
「……なんか、わかるかも」
「それにヌース絡みのアイウェアは、電源オンしてる者同士が半径二五〇メートル以内に接近すると、あれこれ索り合えるみたいッスから」
「そうなのか……」
フィフが今日、ミューツアルグラスをかけていなかった理由がゆくりなく判明し、崎陽は内心で舌をうつ。
ただちに和加が崎陽の耳へ始めた釈明も、言い紛らかしではなく実にごもっともなツッコみの連発。
今日のところは確かに余計な情報でしかなく、崎陽の神経を逆撫でしたりしないための配慮であるとの、和加の言い分は認めざるを得ない。
そもそも自分が知ろうとせず、問いも質しもしなかっただけ。
だけれども、知ってどうなるわけではなく、どうするつもりもない崎陽なので、やはり和加がギャースカと続けている言い張りからしてどうでもいい。
スグ様、崎陽自体が聞き流しモードへ自動的にきり替わってしまっているため、かけない椎座と実質的には同じであることを今にして悟る崎陽だった。