015 スナイパーがフツウに好き…… side A
文字数 2,166文字
四発あれば、確実に敵一人を仕留められる──。
これまでで、そう手応えをつかんでいた崎陽だったのだが、やはりそんな単純計算で勝ちきれる道理などありはしない。
一マガジンは一二発入りなので三人分と想定していた崎陽だけれども、時折吹きぬける風が上り気を冷まして集中力をつなぎ留めてくれる反面、撃ち放つラウンダルの狙いも逸らしてしまう。
残弾全てでもうあと三人を倒しきるには、余裕はほとんどないとの判断をせざるを得ない状況にあると言うしかない。
首尾良く敵を片づけていく内に、調子づいてなどいられないフェーズへ密やかに移行しきってしまっていた事実、そこにようやく勘づく崎陽だった。
何しろ、残る三人の二人はスナイパータイプ。
一人は八〇メートルまでの歩行移動ターゲットならば、まずハズさない腕前。
もう一人は意表を突く偽装の上、隠れひそんでの騙し撃ちを得意とすることが、和加からの情報で判明している。
どちらも、拳銃の平均交戦距離と大差ない、八メートル以内でのクイックショットが強みである崎陽には厄介な相手。
とにかく、それぞれが窺狙っている位置を突き止めないことには攻めようもないのだが、この一戦ではそうしたスナイパーへの対応力を、和加に確 と見せつける目的もある。
あとで、どれだけ悪鬼台詞を浴びまくることになろうとも、そろそろ力ワザに出ておく頃合だった。
崎陽は、ヒップバッグから薄く丈夫で大容量のエコバッグをとり出して広げると、匍匐前進で這いずり廻りながら、大ぶりな石のみを拾ってその中に集めだす。
「……また唐突に、今度は何を始めたの崎陽? 晒す体表面積を増やしておいて移動速度まで落としては、狙われ易くなるだけでしょ」
「チョットな……」
「姿勢をできる限りに低くしたところで、生えている草の絶え間はそこかしこにあるわ。チラとでも捕捉されればその一点へ、レーザーやレイ‐ガンの閃光は風の影響を受けずに飛んで来るのよっ」
「はいはい。和加もな、唐突に声をかけられると身が竦むっての。どうせなら、敵がどこにいるかの情報で余計な口を叩いてくれよ」
「ムリ~。それも黙っていてくれと言ったの、崎陽でしょ。撤回がなければワタシだって、最後までお手並み拝見と洒落込ませていただいちゃうつもりだもの」
「ったく。スナイパーたちよりも先に、和加が飛ばしてこの状況の全てを見てるドローンの方を落としまくってやりたいねっ」
「あら、それができるくらいなら、スナイパーなんて楽勝じゃなぁい?」
「まぁな、目にモノ見せてやるさ。よ~く、その目敏 い両目をカッ穿じって高見の見物してやがれっての。これからこっちも長距離攻撃だっ」
崎陽は勢いよく立ち上がると、脇目もふらずに元いた建物の陰へ駆け込んだ。
着込まされているディテクタースーツやキャップに、レイ‐ガンの光線がヒットした反応はない。
キャップとはコードでつながりスーツの立ち襟に内蔵されたノーティファイ・モジュールのLEDランプもブザーも、おとなしいままでいてくれて一安堵。
だが、そんな厳格なシステム管理をされながら狙われていたのかさえわからないため、崎陽は立ち止まらずにこれまで狙撃を受けなかった移動範囲内で、最も高い建物を目指し走り続ける。
「ねぇ崎陽、もしかしてそこの屋上から石を投げるつもりなの?」
「そうだっ。敵の有効射程は最長で八〇メートル、今までオレがそのレンジ内に入ってないから撃たれてないんだろ? でも敵もなるべく早くオレを撃っときたいに決まってる、ひそんだ位置は精精一〇〇から一二〇メートルの間じゃね?」
「そのとおりだけど……」
「このサイズの石なら、命中させるつもりがなけりゃ余裕で届くし、近くを掠めて文句の一つも喚かれればしめたもんだ」
「ムチャクチャね。あとで面倒なことにならなければいいけれど……」
「そこは和加の得意ワザ、屁理屈と御託並べの見せどころじゃね? その全部を復唱できる自信はないけど、まぁ心配要らないって。当たりゃしないことは経験上確実だし、石ッコロは投げたこと自体が証明し難いからな、殊 こんな解体前の廃工場なんて場所ならさ」
「……どう言うこと?」
「投げられた石を、その場でスグに探して拾う奴なんかいないって。投げたと主張されたところで、どの石かまずわからないし、投げた瞬間さえ見られてなけりゃオレが投げた証明なんかできないだろ? こっちは、 知らね~ってトボけてりゃ済む」
「も~、発想が鬼すぎぃ。しょうがない、投石は却下ねっ。相手の位置と照準合わせの情報は教えちゃうから、ちゃんとラウンダルを当てて見せて。でなければ崎陽が選んだその遊び道具自体を却下、こっちもレーザー銃にするっ」
「けど、それだと時間がかかるんじゃね?」
「完成するまで3Dプリンターで出力した単発銃を使ってもらうわ、一時凌ぎには充分なるし明日には届けられるもの」
「だから、銃なんか嫌だってのっ……しゃ~ない、和加の言うとおりにブチ当ててやるかぁ。位置さえわかれば失敗っても迫り寄せて倒すまでだし、正直スナイパー相手はオレ一人じゃムリだって。ひそみ場所を察知できても、その時点で撃たれてるんだろうから」
崎陽は物惜しみを含んだ眼差しでエコバックを一瞥するも、鳴り散らない草立ちの上で潔くひっくり返して石を放棄。
これまでで、そう手応えをつかんでいた崎陽だったのだが、やはりそんな単純計算で勝ちきれる道理などありはしない。
一マガジンは一二発入りなので三人分と想定していた崎陽だけれども、時折吹きぬける風が上り気を冷まして集中力をつなぎ留めてくれる反面、撃ち放つラウンダルの狙いも逸らしてしまう。
残弾全てでもうあと三人を倒しきるには、余裕はほとんどないとの判断をせざるを得ない状況にあると言うしかない。
首尾良く敵を片づけていく内に、調子づいてなどいられないフェーズへ密やかに移行しきってしまっていた事実、そこにようやく勘づく崎陽だった。
何しろ、残る三人の二人はスナイパータイプ。
一人は八〇メートルまでの歩行移動ターゲットならば、まずハズさない腕前。
もう一人は意表を突く偽装の上、隠れひそんでの騙し撃ちを得意とすることが、和加からの情報で判明している。
どちらも、拳銃の平均交戦距離と大差ない、八メートル以内でのクイックショットが強みである崎陽には厄介な相手。
とにかく、それぞれが窺狙っている位置を突き止めないことには攻めようもないのだが、この一戦ではそうしたスナイパーへの対応力を、和加に
あとで、どれだけ悪鬼台詞を浴びまくることになろうとも、そろそろ力ワザに出ておく頃合だった。
崎陽は、ヒップバッグから薄く丈夫で大容量のエコバッグをとり出して広げると、匍匐前進で這いずり廻りながら、大ぶりな石のみを拾ってその中に集めだす。
「……また唐突に、今度は何を始めたの崎陽? 晒す体表面積を増やしておいて移動速度まで落としては、狙われ易くなるだけでしょ」
「チョットな……」
「姿勢をできる限りに低くしたところで、生えている草の絶え間はそこかしこにあるわ。チラとでも捕捉されればその一点へ、レーザーやレイ‐ガンの閃光は風の影響を受けずに飛んで来るのよっ」
「はいはい。和加もな、唐突に声をかけられると身が竦むっての。どうせなら、敵がどこにいるかの情報で余計な口を叩いてくれよ」
「ムリ~。それも黙っていてくれと言ったの、崎陽でしょ。撤回がなければワタシだって、最後までお手並み拝見と洒落込ませていただいちゃうつもりだもの」
「ったく。スナイパーたちよりも先に、和加が飛ばしてこの状況の全てを見てるドローンの方を落としまくってやりたいねっ」
「あら、それができるくらいなら、スナイパーなんて楽勝じゃなぁい?」
「まぁな、目にモノ見せてやるさ。よ~く、その
崎陽は勢いよく立ち上がると、脇目もふらずに元いた建物の陰へ駆け込んだ。
着込まされているディテクタースーツやキャップに、レイ‐ガンの光線がヒットした反応はない。
キャップとはコードでつながりスーツの立ち襟に内蔵されたノーティファイ・モジュールのLEDランプもブザーも、おとなしいままでいてくれて一安堵。
だが、そんな厳格なシステム管理をされながら狙われていたのかさえわからないため、崎陽は立ち止まらずにこれまで狙撃を受けなかった移動範囲内で、最も高い建物を目指し走り続ける。
「ねぇ崎陽、もしかしてそこの屋上から石を投げるつもりなの?」
「そうだっ。敵の有効射程は最長で八〇メートル、今までオレがそのレンジ内に入ってないから撃たれてないんだろ? でも敵もなるべく早くオレを撃っときたいに決まってる、ひそんだ位置は精精一〇〇から一二〇メートルの間じゃね?」
「そのとおりだけど……」
「このサイズの石なら、命中させるつもりがなけりゃ余裕で届くし、近くを掠めて文句の一つも喚かれればしめたもんだ」
「ムチャクチャね。あとで面倒なことにならなければいいけれど……」
「そこは和加の得意ワザ、屁理屈と御託並べの見せどころじゃね? その全部を復唱できる自信はないけど、まぁ心配要らないって。当たりゃしないことは経験上確実だし、石ッコロは投げたこと自体が証明し難いからな、
「……どう言うこと?」
「投げられた石を、その場でスグに探して拾う奴なんかいないって。投げたと主張されたところで、どの石かまずわからないし、投げた瞬間さえ見られてなけりゃオレが投げた証明なんかできないだろ? こっちは、 知らね~ってトボけてりゃ済む」
「も~、発想が鬼すぎぃ。しょうがない、投石は却下ねっ。相手の位置と照準合わせの情報は教えちゃうから、ちゃんとラウンダルを当てて見せて。でなければ崎陽が選んだその遊び道具自体を却下、こっちもレーザー銃にするっ」
「けど、それだと時間がかかるんじゃね?」
「完成するまで3Dプリンターで出力した単発銃を使ってもらうわ、一時凌ぎには充分なるし明日には届けられるもの」
「だから、銃なんか嫌だってのっ……しゃ~ない、和加の言うとおりにブチ当ててやるかぁ。位置さえわかれば失敗っても迫り寄せて倒すまでだし、正直スナイパー相手はオレ一人じゃムリだって。ひそみ場所を察知できても、その時点で撃たれてるんだろうから」
崎陽は物惜しみを含んだ眼差しでエコバックを一瞥するも、鳴り散らない草立ちの上で潔くひっくり返して石を放棄。