061 勝負に勝っても試合で負けては…… side A

文字数 2,254文字

 練習試合とは言え、瓢箪から駒の一勝まであげたことになるまさにジャイアントキリングな快挙も、桜嶺高校においては()で騒がれることなく、週明けの月曜から普段どおりと片づけてしまえる凡調ななりゆきを見せていた。
 
 国内最強のユニットカイザーから、タワーリングプレイヤー椎座・ジュリアス・凱填を、邪道な曲行で初撃破したスクープも、やはり知る人ぞのみの一大事にすぎず、崎陽に武勇談を求める生徒は登校途中ですら皆無、クラスメイトからして絶無。
 いつもとまるで変わらずの、物憂く気怠い一週間の始まりでしかないあり様ときている。

 公式サヴァイヴァルゲームが、まだまだマイナー競技であることに加えて、椎座を実際に打ち負かしたのは、間遠な他校の馬の骨でしかないピスタであることも否めない。

 が、それにも増して、セラフィムのライヴ配信ではなしに、その後SNSにあげられた動画を見ただけの生徒がほとんどなので、毎度のようなつくり事でも、目先を変えた大掛かりなモノだろう程度に認識されてしまったことが大きな要因と言えそう。

 崎陽においては、TTF前の集合時に、配信ブースのセラフィムへ言い殴っておいた前もっての断りが功を奏したと、むしろホクホク。
 
 それは、「会から許可を取りつけようが、オレは会員じゃない。名出しも顔出しもNG、破ったら法的手段ってヤツに訴えるんでっ」という、和加からの差し知恵にすぎない申し立て。

 しかしながら、昨日の一戦とはこのまま無関係を装いおおせてしまうであろう、その根拠にはもはや充分だった。

 実状的には、早くも

の烙印をベッタリ捺されている崎陽なので、何であれ敢えて話題をふってくるクラスメイトなど、疾うにいなくなったという大前提がありはするのだが……。
 
 そしてユニット桜嶺自体は結局のところ、崎陽とピスタのぬけた二、三戦目もメンバーを入れ替え新装備まで投入し、総力をあげて臨みはしたが、どれだけやろうと足元にしか及べそうもない実力差を思い知らされての負け越しに終わった。

 それも、リザーヴでも中等部メンバーを寄せ集めた急造ユニット相手に、TTFからマジメ一辺倒な猛攻を受けて、制限時間すらもち堪えられずに全滅での完敗。
 一戦目に仕留めることができた二人は、ユニットカイザーの完全な余裕見せ、遊びすぎによる自滅でしかなかったことまでも、骨身に沁みつけられるやるせなさ。

 ユニットカイザーに差し次ぐ、全国二位と三位を定席にするユニットT1およびT2のメンバーたちも、椎座の身柄を迎えとりにやって来たサッカー部連中との徹底抗戦を重要視して、残る純然たるユニット桜嶺との二戦など、まるで眼中になかったにもかかわらずときているから痛ましい。

 よって、崎陽に過ごし易さを(もたら)している目下のガッコの趨向は、桜嶺サヴァゲ愛好会の会員たち自身が、周囲への吹聴を厳に慎んだせいでもある。

 無論のこと、ビミョ~な空気などおかまいなしに、ネット上で瞬間的に沸騰し、その後短時間で局所を(あつ)かわしく駆け巡った情報の断片から、一体何の騒ぎだったのかを、サヴァゲ愛好会員へ問い寄る生徒たちもいたにはいた。

 常平生(つねへいぜい)ならば、ここぞとばかりに喰らいつき、サヴァゲへの情熱をブチまけきるまで放さない澤部ですら、受返答を避け逃げる意気沮喪ぶりを晒す始末だったものだから、所詮はどうでもいい一愛好会のよくわからない空騒ぎ、単にそうきり捨てられただけと仕舞いをつけることができる。

 セラフィムが撮影した動画も一戦目のみで、主にはユニット桜嶺が戦線を維持しきれずに潰走するまでをいたずらに収録したにすぎない。
 また、プラクティカルフィールドが撮った録画データから、消去前に一部を入手できたという崎陽と椎座の迷勝負シーンも、門勅主らうらの編集と、別当芽亜璃が書いた台本に基づく昆スタンツェの実況調ナレーションが入った時点で、もう完全に人目に(あらわ)るためのアトラクションと化してしまった。

 動画に映る大方が、ディテクタースーツ姿というだけで(あや)しばんでいるにもかかわらず、ヘルメットに鼻まで防護する大きなゴーグル類を装着していては、誰が誰かもよくわからない。
 それに加えて、昆スタンツェの小舌怠(こじたたる)い口調と、又梁昼月がもち味をふんだんに利かせたBGMや効果音で興を惹こうと底企(そこだく)む中では、崎陽と椎座が死に物狂いで撃ち合いをしている様はもう、一笑い誘うために趣向を凝らしたシュールなコントくらいにしか受け取られようもなかった。

 セラフィムが仕掛けたそれら華やかしは、目新しさの分だけ心酔フォロワーたちを幾分多めに喜ばせはしたものの、今回も崎陽を、押さえた飛蝗(ばった)とするまでには至らず終いだ。

 その、当の崎陽はと言えば、左上腕の痛みが完全な痺れへと悪化してしまうという禍害に見舞われはしていたけれども、崎陽にはそれさえ、身に起こる不都合全ての言いわけに利用しまくれる好都合でしかない。
 うっかと、人並みはずれた動作をして悪目立ちすることなく、事なかれイズムな日常にのほほ~んと()ち返っていくには、ちょうど好い不自由さとなってくれていた。

 これまで和加に強いられてきたトレーニングの数数も、和加から完全休止を命じられ、表晴れて帰宅部員として本来の活動が満喫できるようにもなる。

 なので差し当り、いつものように直帰したあとは、母親の帰宅時間が遅くなっていたこともあって、鬼のいぬ間にどこまでフワフワなパンケーキが焼けるかにハマりだす崎陽だった。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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