013 分身になってと言われても…… side A

文字数 1,756文字

「……ふざけんなっ、何勝手にバトらせようとしてんだよ。悪いがオレはこれ限りでバイバイだ和加、ほかのアホを探してくれ。何なら知ってる血の気が多いアホを何人か紹介してやるって。ドンパチ好きがお望みなら、あの澤部が適任だな、美女子はヴァーチャルだろうと熱烈大歓迎だろうしさ」

 ミューツアルグラスをはずそうとする崎陽の手がカメラレンズの一つを翳らせ、それに目敏く気づいた和加が敏捷(はしこ)く制しにかかる。

「あ~ダメよダメ! 考えてみてっ。もう手遅れでしょ、崎陽がワタシのオルターエゴゥだということはバレてしまっているんだから。今一方的に手をきっても、ワタシがあきらめない限り狙われ続けるだけなの。逆に今までよりも、もっとガッチリ手を組んで勝ちきるしかないんじゃないっ?」

「汚いぞなんかっ……何だその何とかエゴって? この、独り善がりな自惚れ自己中エゴマニアックめが! だから、女子のフツウじゃない相手をするなんて御免なんだよっ」   

「ヒッド~いっ。そのいけず口、レーザーで撃ちぬかれちゃえば! 開いた口が塞がらないどころか、軽口も叩けなくなるんだから」

「ったく、ヘタすりゃ殺し合いじゃねぇか。オレは……言いたかなかったけど、相手と直接やり合う争い事をしちゃダメなんだって絶対。だからこれまで……」

「どう言うこと? ワタシもわかることは話すから、話してちゃんと」

「オレは……対戦形式のスポーツやゲームから逃げるよう躾けられてきたんだ……」

「……それでそれで?」

「これも鬼母の血筋で、特定の相手に破れる悔しさを味わっちまったらもう、そいつをブチ負かし返すまで徹底的にやっちまう。相手をその競技世界から抹殺しちまうかもしれないくらいに。競技自体には何の興味も使命感もないのにさ。鬼から生まれた鬼なんだ、オレも……」

「問題ないんだけれど全然っ。挑んで来る連中を、ワタシと一緒に徹底的かつブチ殺すことなくブチのめしてあげちゃいましょ」

 表情まで苦苦しげな崎陽に反し、和加は権輿(けんよ)もない舌ぶり。

「……ホント、フツウじゃないな。ヒくところだろ女子ならフツウ?」

「むしろステキじゃないの鬼だなんてぇ。ワタシにだって、崎陽を勝たせるためなら鬼になっちゃう覚悟くらいあるもの。むしろむしろ、ワタシぬきで相手をブチ殺さずにブチのめせる自信、崎陽にあるわけぇ?」

「あるもんかよ、そんな自信っ。ブチのめすとなりゃ、モブすら気取れない執念の鬼になり落ちて、鬼心獣行‐鬼一口にやるまでだ……レーザー銃を手頃に造る方法は索れても、和加がオレについて来れるとは思えないね到底」

「そんなの関係ないもの。ついて行くしか、既に崎陽が助かる道はないんだし~」

「……てか、大体さっきの野郎には、クルマを運転できるオトナが掩護してるってことだぞ。まともにやり合える道理がないってのっ」

「本当にぃ? その運転していたと言うオトナの姿、崎陽ははっきりと見たわけ?」

「どう言うことだよ? ……そりゃぁ、姿までは見てないし、車種もわからないけどさ」

「ほらぁ」

「けど、あのフォルムはたぶん国産車じゃない。高級セダンってカンジだったから免許取りたての十代とも違うと思っただけだ。あ~、左ハンドルじゃないんで運転してた奴の姿が見え難かったのか? となるとイギリス車、いや日本仕様車も結構あるか……」

「そんな人いなかったのかもぉ? その手のことは向こうの得意分野だし。ワタシだってガンバれるわよっ、崎陽もクルマが必要になったらいつでも言って~」

「何言ってるんだか? オトナが絡んでる土俵なんか、上がっちまった時点でガキには不利になるだけだっての。それに、あのレーザーを撃ちやがった野郎をブチのめすなんて楽勝だ」

「え~っ、その根拠はぁ?」

「だって、撃ったタイミングはともかく命中のさせ方どころか、そもそも銃のかまえ方から知らないんじゃね? そうだな、襲撃されることさえわかれば、返り討ちだあの程度の奴は」

「……頼もしい限りだけれど、物騒ねぇ。崎陽はなんだか、銃を撃ち慣れているような口ぶりじゃない?」

「ああ、オモチャの電動ガス銃なら、小ガッコのPTAで騒ぎになるほど撃ち極めたっての。飛び出すのがBB弾かレーザーかの違いで、ほかは実弾だろうが一緒だ。銃口が見えれば自分に当たるかわかるしなっ」
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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