091 帰宅部員の戦利品…… side A

文字数 1,519文字

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 今日も、苦刻精励(こっくせいれい)な帰宅部員よろしく、崎陽は忙忙(せわせわ)と家路を急ぐ。

 どの学年のクラスよりも早く放課後を迎えられたことで、崎陽がスニーカーへと履き替え終えたあとから、ミューツアルグラスの左端には和加が並んで歩きだす。

 そんな和加は、さらに校門が内外を画す一線辺りも崎陽に先んじて、ぴょこんとしたジャンプで心愉(うらたの)しげに越える。

「どしたん、なんだか随分と機嫌好さげじゃね?」

「フッフ~。ちょうど今、一〇億を超える取引が成約しちゃったのっ。一応、ワタシがSGRの事業戦略室長に就任してからの最高契約額よぉ」

「へ~、としか言えないっての。ったく、早くもJK社長顔負けだな。あっちの連中とは仲好くやってるのよ?」

「知らな~い、そこは以前どおりハーミーズに丸投げだもの」

「そ……」

「さてさて、今週は別の契約も二つあるし、新商品と新サーヴィスをガンガン提案しまくらなくっちゃだわぁ」

「な? 前よりずっと愉しくなったろが」

「……さぁ? どうなんでしょ」

「どうもこうもないだろ。このリアルには、一番なんかになるよっかオモロいことがウジャらけてんだし、なれる奴は、自分なんか賭けなくたってなれちまうんだぜきっと。和加はまず全力の向け方を全力で索っとくべきなんじゃね?」

「かもね~」

「……ま。今が平和ってだけで、ブ厚い歴史の教科書もほとんどがバトルだしな。和加たちも一度は通っとく歴史ってことかもだけどさ」

「そっちも、スグに平和が訪れちゃうんじゃないかしらぁ? ワタシたちの認識‐判断‐制御
‐予測による最適化は、人よりもず~っと速いもの」 

「はいはい、そう願うって。んじゃ、オレの凡庸な高校生活になんかも、もうつき合わなくたっていいんだぞ。オレだって、マジメに受けてるフリもしたくない授業はあるしさ」 

「だからダメ~。わかっていないわねぇ、地球はJKが回しているんだから。ガッコには、リアルな世界動向を読み解くためにも通わないとっ」

「やれやれだな……」

「それに、キャ~。崎陽は、この世の誰より、人間の女子なんかより遥かに愛しているんだってぇ、あの閉鎖店舗の事務室で叫んじゃった事実を、ハーミーズからバッチリ聞いたんだものっ。ワタシもバッチリと応えてあげなくちゃぁ」

「……ったく、タチ悪ぃ奴だったんだなハーミーズって」

「やれやれね。そうさせたのは崎陽じゃないのぉ?」

「知らね。まぁ確かに、ネタバレはSIMを折ってからだったっけ……それで? あの鴫沢さんチの店の件は、オレがお願いしたとおり、ちゃんと応えてくれてるんだよなぁ、我が愛しの和加サマは?」

「何なのそれぇ、脳波の一うねりも乱さないってどう言うことっ? もぉ~、営業再開日なんて絶対に教えてあげないんだから」

「ならいいって。あ~ついでに思い出した、ユニットカイザーが助けてくれた件だけど、フィフが椎座に助けを求めやがった証拠は押さえられたのか?」
 
「あぁ、あれね。フィフじゃなくSGR側からだったし、チョットややこしいから、聞かれたら話せばいいと思っていただけ~」

「……じゃぁ話せっての。ややこしくないようにさ」

「怪物クンがぬけちゃったユニットカイザーのメンバーたちも、再編制されるくらいならと部を辞めて、現在ではプライヴェート参加で大会制覇を目指しているから、フットワークが軽いのよ」

「ふ~ん。……ま、当事者同士の間はややこしそうだけど、そうまで端折れないややこしいことが、まだありそうじゃね?」

「……そういうカンだけは、スルドいのよねぇ不思議と」

「聞くから、今話しといてくれよ。そんなことをオレがふと思い出したってことは、フィフに寸鉄を喰らわす論理武装も、決定的なヤツが思い浮かぶかも知れないんで」
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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