063 スカート丈を注意されるコ⇔されないコ…… side A
文字数 2,029文字
崎陽の本音も織り込んでのツッコみに、和加はまるで気にも留めないどころか、むしろどこか嬉しげに言い返す。
「フフ~ン。D‐ヴァイザーからならば、数値的に一応はねぇ。ワタシほどの情報通にもなると、データだけで人の外感覚くらいは把捉できちゃうの」
「……何が情報通だよ。神ワザ的な検索スピードでの情報入手力を、天眼通 とか天耳通 っぽく洒落てるわけなら、本来の意味に邪魔される不洒落だってそれは」
「でも、IR(情報収集&分析)通と言っちゃうよりは、神憑 かっているカンジでオシャレじゃないかしら?」
和加は口ぶりでじゃれつくだけでなく、崎陽がかけているミューツアルグラスの中にまで嬉嬉とした表情で躍り出て来る──。
ここのところ崎陽がやわらやわら過ごしていたために、一昨日から、D‐ヴァイザーで見られるモノと同レヴェルのⅩR技術を使って、和加が崎陽の視界内を彷徨き始めていた。
それは、ミューツアルグラスをかけている限り崎陽にはもう、等身大の和加が手を伸ばせば届くスグ目の前、現実世界にフツウにいる女子としか思えない。
またこれまで崎陽と経験したことでの情報量から、崎陽が初めてD‐ヴァイザーで見せられた和加とは、存在感と言うより実在感のリアルさまでが段チ。
だのに、青紫にキラめく瞳やら髪先へと透けていくグラデーションは、お気に入りなのか最初のまんま。
何一つ変わらない日常風景に、日常然とふるまう和加のファンタジカルさとの折合が、崎陽にはどうにもつけきれない。
現在の和加も、息差しや所作は実にナチュラル。加えて、先ほどのピスタに倣ってか、これまた今や事新 しさも消えて、すっかり日常化した桜嶺の女子制服という格好。
しかもしっかり、注意をギリ受けないスカート丈ときていて、軽やかにうち羽 ぶかせて一回りした和加は、崎陽のやや前を並び歩くように小戻りもする
「なんだかなぁ……」
「何よぉ、神憑ってもオシャレでもないって言うのなら、根拠を述べてよねっ」
「……はいはい。わかって言ってるなら洒落てるって充分。てかもう、とっくにオレは屍を踏み越えて行かれちまってるみたいなんで、今後はツッコまないから、そのつもりでな」
「何が屍よ崎陽こそ? それは邪魔しているどころか語弊か誤用でしょ」
「いんや。引喩戯れを弄 した舌先三寸で、一寸のがれや煙に巻こうとしていたモノグサなオレは、もはや、和加の見事なまでの返り討ちに遭って息絶えたから」
「アラァ、そうなの? 言葉遊びでも崎陽に追い着けちゃったのねワタシってば。負け惜しみくらい、わかり易く言ってくれなくちゃ~」
「んなこと、負け惜しみに誰がするかよ。やれやれ、今後はオレも別の弄し方でモノグサ張りを守らなくちゃなっ……あぁ面倒クセ~」
「やっぱり、よくわからないんだけれど? この際モノグサ自体を根絶しちゃえばいいのに」
「わかりゃしないよなぁ、やっぱ。……鬼はトボけたモノグサでいいんだって」
「……そうなの?」
「そ。鬼が本性を剥き出しにしたままじゃ、こうして和加とダベるなんてこともできやしないんだから。フワフワに没頭しておくのも、怪物相手の一戦と、片腕に力が入らなくなったムカつきで、オレの剥けかけてる鬼を、宥 め賺 して被 いなおすための相殺行為なんだしさ」
「……わかったわ。それならフィフの話はワタシがしっかり聞くから、崎陽はフワフワ気分でいてちょうだいな。とりあえず、これでも見ておいて~」
和加はミューツアルグラスに、昨日までに崎陽が焼きあげたパンケーキ画像を透け重ねて映し始める。
それは、プロジェクションマッピング風動画へのオリジナル加工も施されていた。
和加が催起したようにフワフワが辺りの景色へと伝写され始めて、電柱も、両側に延びる塀も、その向こうの植木や家家までが薄黄色を帯びだし、陰影も香ばしげなキツネ色へと染まっていく。
それらがフワフワゆたぶれて、崎陽に、柔和忍辱 であることまでをも誘いかけてくるかのよう。
「ったく。オレのフワフワを何だと思ってるんだか? ……わかっちゃいないんだよなぁ、やっぱ」
▼
フィフのクルマは、レーザーの発射で付けた焦げ跡が、まだはっきりと残っている自販機の少し先で停まっていた。
そこはガードレールの切れ間にあたり、歩道を通って近づく崎陽を、すんなりと後部座席へ招き入れるタイミングで窓が下りだす。
運転席からふり返っていたフィフは、「乗りなよ、ドアは手動で悪いけど。話は、家まで送らせてもらう間に済む内容だから」と微笑む。
しかしながら、覗かせた牙の先がどうにも妖言を語り出しそうな不吉な予感を、崎陽に懐かせる。
とてもじゃないが、フワフワ気分などでいられるはずもなかった。
崎陽が、軽く静かに溜息を吐くことで観念の臍を固めている間に、和加までが先にドアをすりぬけて後部シートに乗り込み、窓から崎陽へ安気に手招きをするⅩR映像を見せるので、一ゴネしてフィフの鼻息 を窺っておくこともできない。
「フフ~ン。D‐ヴァイザーからならば、数値的に一応はねぇ。ワタシほどの情報通にもなると、データだけで人の外感覚くらいは把捉できちゃうの」
「……何が情報通だよ。神ワザ的な検索スピードでの情報入手力を、
「でも、IR(情報収集&分析)通と言っちゃうよりは、
和加は口ぶりでじゃれつくだけでなく、崎陽がかけているミューツアルグラスの中にまで嬉嬉とした表情で躍り出て来る──。
ここのところ崎陽がやわらやわら過ごしていたために、一昨日から、D‐ヴァイザーで見られるモノと同レヴェルのⅩR技術を使って、和加が崎陽の視界内を彷徨き始めていた。
それは、ミューツアルグラスをかけている限り崎陽にはもう、等身大の和加が手を伸ばせば届くスグ目の前、現実世界にフツウにいる女子としか思えない。
またこれまで崎陽と経験したことでの情報量から、崎陽が初めてD‐ヴァイザーで見せられた和加とは、存在感と言うより実在感のリアルさまでが段チ。
だのに、青紫にキラめく瞳やら髪先へと透けていくグラデーションは、お気に入りなのか最初のまんま。
何一つ変わらない日常風景に、日常然とふるまう和加のファンタジカルさとの折合が、崎陽にはどうにもつけきれない。
現在の和加も、息差しや所作は実にナチュラル。加えて、先ほどのピスタに倣ってか、これまた今や
しかもしっかり、注意をギリ受けないスカート丈ときていて、軽やかにうち
「なんだかなぁ……」
「何よぉ、神憑ってもオシャレでもないって言うのなら、根拠を述べてよねっ」
「……はいはい。わかって言ってるなら洒落てるって充分。てかもう、とっくにオレは屍を踏み越えて行かれちまってるみたいなんで、今後はツッコまないから、そのつもりでな」
「何が屍よ崎陽こそ? それは邪魔しているどころか語弊か誤用でしょ」
「いんや。引喩戯れを
「アラァ、そうなの? 言葉遊びでも崎陽に追い着けちゃったのねワタシってば。負け惜しみくらい、わかり易く言ってくれなくちゃ~」
「んなこと、負け惜しみに誰がするかよ。やれやれ、今後はオレも別の弄し方でモノグサ張りを守らなくちゃなっ……あぁ面倒クセ~」
「やっぱり、よくわからないんだけれど? この際モノグサ自体を根絶しちゃえばいいのに」
「わかりゃしないよなぁ、やっぱ。……鬼はトボけたモノグサでいいんだって」
「……そうなの?」
「そ。鬼が本性を剥き出しにしたままじゃ、こうして和加とダベるなんてこともできやしないんだから。フワフワに没頭しておくのも、怪物相手の一戦と、片腕に力が入らなくなったムカつきで、オレの剥けかけてる鬼を、
「……わかったわ。それならフィフの話はワタシがしっかり聞くから、崎陽はフワフワ気分でいてちょうだいな。とりあえず、これでも見ておいて~」
和加はミューツアルグラスに、昨日までに崎陽が焼きあげたパンケーキ画像を透け重ねて映し始める。
それは、プロジェクションマッピング風動画へのオリジナル加工も施されていた。
和加が催起したようにフワフワが辺りの景色へと伝写され始めて、電柱も、両側に延びる塀も、その向こうの植木や家家までが薄黄色を帯びだし、陰影も香ばしげなキツネ色へと染まっていく。
それらがフワフワゆたぶれて、崎陽に、
「ったく。オレのフワフワを何だと思ってるんだか? ……わかっちゃいないんだよなぁ、やっぱ」
▼
フィフのクルマは、レーザーの発射で付けた焦げ跡が、まだはっきりと残っている自販機の少し先で停まっていた。
そこはガードレールの切れ間にあたり、歩道を通って近づく崎陽を、すんなりと後部座席へ招き入れるタイミングで窓が下りだす。
運転席からふり返っていたフィフは、「乗りなよ、ドアは手動で悪いけど。話は、家まで送らせてもらう間に済む内容だから」と微笑む。
しかしながら、覗かせた牙の先がどうにも妖言を語り出しそうな不吉な予感を、崎陽に懐かせる。
とてもじゃないが、フワフワ気分などでいられるはずもなかった。
崎陽が、軽く静かに溜息を吐くことで観念の臍を固めている間に、和加までが先にドアをすりぬけて後部シートに乗り込み、窓から崎陽へ安気に手招きをするⅩR映像を見せるので、一ゴネしてフィフの