014 side B
文字数 1,695文字
「ウソォ……予想以上に凄いんですけれど~」
「ハンッ。大体があの野郎、クルマの窓から手首すら出してなかった。地ベタへ伏せれば当たる角度から逃げられるし、ガードレールも防護になってくれる」
そう言ったところで、崎陽はあらためてガードレールとの距離に修正を入れて歩道を進むようにする。
さらには街路樹から街路樹までの歩調にも変化を入れた。
「なんだか確かに巧そうねぇ、物理的な攻撃から逃げるのは」
「銃撃戦なら当てまくる方が得意に決まってら。ゲーセンの早撃ちゲームでも、計測不能で名前すら残らなかった勝ちを連発したし、ガンアクションだって、派手なのだけだけど体に染みついてるはずだし」
「……フゥ~ン。なるほどなるほど……」
「あぁ。弾がそこそこの威力で真っ直ぐ飛ぶ銃さえあれば、相手をビビらせて二度と銃口を向けさせない勝ち方くらい、いつでもできら」
「ウンウン、見込んだとおりっ。ならスグに用意しちゃうぅ、本物みたいで実弾並みの威力にするか、オモチャに見せて実弾を発射する仕様か、どっちがいいかしら?」
「どっちが物騒なんだよっ、ガチで送ってくるなよそんなの。対抗手段はあとで冷静になってから考える、て言うか、とにかく逃げられるだけ逃げるから、全部話してくれわかるように。そもそも和加がバトってたってわけなのかよ?」
「そうだけれど、武力衝突が実際に勃発したのはGWを過ぎてからなの。そもそもは順適性を競い合うカンジだったのに……選んだ相手と一心同体のようになって、お互いが快適に過せたら、より好く生きていけたら最高でしょう?」
「……知り合ったあとからってか?」
「えぇ。そして、その達成度や満足度で勝敗が決まるはずだったのに、どこかのアホが逸って短絡的に、ほかのオルターエゴゥを攻撃し始めてしまった……」
心苦しげに語りだした和加だが、その和加にすらも崎陽は生苦しさを感じてならない。
「だから何だよそれ、オルターエゴゥって?」
「もう一人の自分、完全なる合縁者 、そんな関係を目指す相手のこと」
「……なんか、そもそもがアホクサいって。結局のトコ自分は自分っ、何でもどれだけ大勢を巻き込もうが完全にしっくりくる奴なんて一人もいやしないんじゃね? 最後はどうにかなってくのを自分独りで何とか納得するしかないってのにさ。ど~して誰かから満足や達成感を得ようとする? それも何でオレなんだ?」
「……ワタシも、ダンクシュートをキメるカンジを味わっちゃダメ? ほかにもいろいろフツウじゃできない動作をしている気分や、お母さんのことを滅鬼積鬼 みたくウザがりながらも、毎日をフツウに生きている高校生気分になってはダメなの?」
「ダメだたぶん。気分だけの達成感や満足なんて無意味だし、不結果だろうと自分でたたき出してみてナンボだっての。大体、和加はさ、自分でフツウじゃない生活を選んでね?」
和加は一呼吸、喟然 としてから言い開く。
「……フツウじゃないことは、よくわかっているのよ。けれど……ワタシはフツウに動けないから。崎陽みたく動けることはワタシたちにとって最高の憧れなの。その一瞬の瞬間、気分だけでも一緒にいるのは、ダメ?」
「…………」
独り合点ながら和加にまつわるこれまでの疑念の一切を、スコ~ンと腑に落とされた衝撃により、返す言葉など何も見つけられない崎陽はだしぬけに猛ダッシュ──。
地域住民などから不審に思われようが、和加が当惑の声をあげだそうが、もう知ったことではなかった。
五〇メートル走は、連休前の運動能力測定で五秒七三をマークして、一発芸としての珍稀さを更新できているが、一〇〇メートルでは一一秒〇四。一五〇〇メートルにもなると四分一三秒。
その記録は、決して遅くはないものの、ウケが狙える必中の一発には値しない走力となっていく。
けれども、ミューツアルグラスのカメラ映像に余計なブレを入れぬよう、無性にふりたくなる頭をグッと堪えて、崎陽は魂身全開、疾鬼と化して駆けぬけて行った。
それは、おそらく、車椅子が欠かせなかったりベッドから離れられない生活で、ただこんな風にすらも走れないのであろう和加のため──。
「ハンッ。大体があの野郎、クルマの窓から手首すら出してなかった。地ベタへ伏せれば当たる角度から逃げられるし、ガードレールも防護になってくれる」
そう言ったところで、崎陽はあらためてガードレールとの距離に修正を入れて歩道を進むようにする。
さらには街路樹から街路樹までの歩調にも変化を入れた。
「なんだか確かに巧そうねぇ、物理的な攻撃から逃げるのは」
「銃撃戦なら当てまくる方が得意に決まってら。ゲーセンの早撃ちゲームでも、計測不能で名前すら残らなかった勝ちを連発したし、ガンアクションだって、派手なのだけだけど体に染みついてるはずだし」
「……フゥ~ン。なるほどなるほど……」
「あぁ。弾がそこそこの威力で真っ直ぐ飛ぶ銃さえあれば、相手をビビらせて二度と銃口を向けさせない勝ち方くらい、いつでもできら」
「ウンウン、見込んだとおりっ。ならスグに用意しちゃうぅ、本物みたいで実弾並みの威力にするか、オモチャに見せて実弾を発射する仕様か、どっちがいいかしら?」
「どっちが物騒なんだよっ、ガチで送ってくるなよそんなの。対抗手段はあとで冷静になってから考える、て言うか、とにかく逃げられるだけ逃げるから、全部話してくれわかるように。そもそも和加がバトってたってわけなのかよ?」
「そうだけれど、武力衝突が実際に勃発したのはGWを過ぎてからなの。そもそもは順適性を競い合うカンジだったのに……選んだ相手と一心同体のようになって、お互いが快適に過せたら、より好く生きていけたら最高でしょう?」
「……知り合ったあとからってか?」
「えぇ。そして、その達成度や満足度で勝敗が決まるはずだったのに、どこかのアホが逸って短絡的に、ほかのオルターエゴゥを攻撃し始めてしまった……」
心苦しげに語りだした和加だが、その和加にすらも崎陽は生苦しさを感じてならない。
「だから何だよそれ、オルターエゴゥって?」
「もう一人の自分、完全なる
「……なんか、そもそもがアホクサいって。結局のトコ自分は自分っ、何でもどれだけ大勢を巻き込もうが完全にしっくりくる奴なんて一人もいやしないんじゃね? 最後はどうにかなってくのを自分独りで何とか納得するしかないってのにさ。ど~して誰かから満足や達成感を得ようとする? それも何でオレなんだ?」
「……ワタシも、ダンクシュートをキメるカンジを味わっちゃダメ? ほかにもいろいろフツウじゃできない動作をしている気分や、お母さんのことを
「ダメだたぶん。気分だけの達成感や満足なんて無意味だし、不結果だろうと自分でたたき出してみてナンボだっての。大体、和加はさ、自分でフツウじゃない生活を選んでね?」
和加は一呼吸、
「……フツウじゃないことは、よくわかっているのよ。けれど……ワタシはフツウに動けないから。崎陽みたく動けることはワタシたちにとって最高の憧れなの。その一瞬の瞬間、気分だけでも一緒にいるのは、ダメ?」
「…………」
独り合点ながら和加にまつわるこれまでの疑念の一切を、スコ~ンと腑に落とされた衝撃により、返す言葉など何も見つけられない崎陽はだしぬけに猛ダッシュ──。
地域住民などから不審に思われようが、和加が当惑の声をあげだそうが、もう知ったことではなかった。
五〇メートル走は、連休前の運動能力測定で五秒七三をマークして、一発芸としての珍稀さを更新できているが、一〇〇メートルでは一一秒〇四。一五〇〇メートルにもなると四分一三秒。
その記録は、決して遅くはないものの、ウケが狙える必中の一発には値しない走力となっていく。
けれども、ミューツアルグラスのカメラ映像に余計なブレを入れぬよう、無性にふりたくなる頭をグッと堪えて、崎陽は魂身全開、疾鬼と化して駆けぬけて行った。
それは、おそらく、車椅子が欠かせなかったりベッドから離れられない生活で、ただこんな風にすらも走れないのであろう和加のため──。