054             side B

文字数 1,935文字

「イヤ別に……ほんじゃ先に攻めてみっか。出たトコ勝負には少しばかり自信があるんだ、根拠は全然ないんだけどさ。和加もわかったことあれば、考え込まずに言っちゃってくれ、オレも従えれば従うし、ムリはムリなんだから」

 崎陽はまた空高くラウンダルを連射し、撃ち尽くしたあとも手捷(てばしこ)くノッチを二箇所欠いてあるラウンダルがつまるマガジンへと、交換しながら走りだす。

 椎座がひそむ茂みまで、ほぼ半円状に縦長の弧を描いて建ち並ぶ丸太の内側へと身を晒した崎陽だが、丸太の並びに沿って動きながら、ダイレクトに椎座目がけて、鬱蒼とした緑の壁へとラウンダルを撃ち込んで行く。

 自分のディテクタースーツの白さに色ばみが認められないため、崎陽は陰にいつでも入れるよう丸太に沿っていた速歩をやめると、半円の弧からビミョ~な距離がある広場中央部に(ばら)けて立つ丸太の中でも、九〇センチの間隔で最も高く(そび)き並ぶ二本へ向けて快足を飛ばす。

 それを助走にして崎陽は、二本の丸太の間を左右の脚力だけを使って交互に踏みしだき、五メートルを超える丸太の上端まで、自身を丸太の間でバウンドさせるみたく蹴上(けあ)がって行く。

 両のクツ底を、丸太二本の上端の角にしっかりと固定し、体が支えきれることが確認できると、そこで崎陽は軽く一息吐いてラウンダルの発射準備に入りだす。

「チョット崎陽っ、何てことをしちゃうわけ!」

「びっくらこいたか~。サルにはできない動きだから、サルって言うなよな絶対っ。でも、まだまだこれからだって」

 両脚を開いて踏ん張ったまま上半身を右へ二〇度近くヒネった崎陽は、透かさずラウンダルの撃ち下しを開始した。

 その高さからでも、椎座の姿は茂みに隠れたままだが、葉越しに太めの枝や幹が見え透き、そこに当ててペイントを跳ね散らす攻撃が可能になる。
 しかも、ピスタが伏していて、攻め出るタイミングを窺っている方へは椎座を動き出させないための配慮として、右に大きくえぐり曲がって着弾する軌道でラウンダルを飛ばし続ける。

 右往左往しだしたD‐ヴァイザーの矢印表示から、椎座が回避動作をしていることが判断できるものの、崎陽が連射する最速リズムはしっかりと把握されていて、着弾までの間に、ペイントの飛沫も届かない位置への移動を済ませてしまう的確さも見せつけられる。

 そこで崎陽は、まだ向かい風である状況にこれ幸いとつい乗って、再び戻り落ちて来る撃ち方に変更し、ラウンダルを上空へ放ち立てだした。

「いいカンジだわ崎陽、着弾誤差は縮まっていないけれど、飛んでいく軌道がまるでブーメランみたいで怪物クンも動揺しているっ。あの大きな体では、低い姿勢を保ったまま回避運動を続けるにも限界がありそうよ」

「そっか、ならこのラウンダルも潮時だな」

 まだ残弾があるものの、崎陽はそこでマガジンをリリース、それが地面に落ちる前に交換を済ませて撃ちなおしに出た。
 今度はノッチを一箇所欠いたラウンダル、描くカーヴ幅が狭くなり、着弾誤差も一気に縮まっていく。

 そんなトリッキーも甚だしい弾道に射倒されては堪らないとの胸気(むねき)から、椎座もとうとう茂みから跳び出して来た。

 一まずは崎陽が機先を制したことになるものの、椎座は丸太が立ち囲う先、半月形の広場までは一歩として踏み込まない。

 弓なりに並んだ丸太の中、約七メートル離れた一本の陰でピスタが窺狙っていることは、やはり椎座に的然と知られてしまっていた。
 ピスタのライトニングセイバーから、光線や光刃で攻撃されない角度内に椎座は立ち位置を占めただけでなく、左手ではサブ・アームのレイ‐ハンドガンもピスタへ向けかまえている。

 崎陽の方も、この場で初めて椎座の全姿をまのあたりにして、少なからず驚動せずにはいられない。
 椎座の巨躯は、プロテクターまで格外な物が防護していた。それは恰も、モビルスーツと言うよりは、船外活動ユニットを着用した宇宙飛行士のコスプレ……。

 ルール的に装着義務がある両肩、両肘、腰の両側、両膝から両脛にかけての八箇所には、桁違いな椎座の筋力から算出された大げさなくらい広く厚いプロテクターで覆われている。
 その上、ペイントのタンクと弾丸として射出するためのエアーコンプレッサー機構がつまったバックパックまで背負っていて、背面は両脚の後ろ側しか狙い所がない。

 そのため背中自体も全面が狙えないばかりか、胸前でクロスさせて固定するベルトのせいで、ディテクタースーツのヒット判定が出る面積は、一般的なプレイヤーよりも、だいぶ狭いのではないかと崎陽には思えてならなかった。

 とはいえ呆気に取られるわけにもいかず、崎陽はやむなくも見たままに従い、椎座の最も無防備な腹部を狙ってラウンダルを放つ──。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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