041 ていく・ざ・ふぃ~るど…… side A

文字数 1,751文字

 本部ヤードの高場(たかば)から、慣れた口調で要言されていくチーフ‐レフェリーたちによる注意事項に耳は立てつつも、崎陽の両目は、広広とまではしていないが所狭しくもないその背景に奪われてしまっていた。

 それは、静粛が求められるこの間を活用しての観戦席が続続と埋まりゆく光景が、殊のほか壮観であるがゆえ。

 帝政義学大附属サヴァゲ部員たちが先頭に立って案内する観客たち、その一五人前後に小分けされた行列こそが各応援勢力を代表した入場行進であり、ここへ脚光を浴びに来た主役でさえあると錯覚させるほどだった。
 
 黙然と通路を移動し、秩然かつ連接に着席していくその観客たちのふるまいは、隙間を一気に埋めれば、ラインでごっそり消せるゲームにも通ずる小気味好さを覚えずにはいられない。

 感心とともに恐れ入りつつ見上げている崎陽だが、サヴァゲ部自体の並大抵ではない統率力がひしひし気圧(けお)しかかってきて、その婉曲的もはなはだしいプレッシャーがけは、和加の口をも(つぐ)ませ継いでくれている。

 それでも、崎陽があんぐりとマヌケヅラを晒さずにいられるのは、目障りも一入なセラフィムがこの実況をネット配信しているお蔭だった。

 全方位マイクで臨場感を捉えつつ、指向性の強いマイクでもネタになる本音や失言を窺狙っている又梁昼月。

 配信のディレクションだけでなく、SNSの随時更新作業にも余念がない別当芽亜璃。

 今ちょうど、DVCのアングルをユニット桜嶺へ向けなおし、ズームアップもかけだした門勅主らうら。

 それに合わせてカンジたままを、忍び声でもトンチンカンかつ素っ頓狂にきゃいのきゃいの言いたい放題してくれている昆スタンツェ──。

 その配信ブースと観戦客の間にも、やはりサヴァゲ部員たちがガードのために壁立ちをしている。
 そのため、セラフィム四名は何の危気もなく普段どおりに、それぞれキャラを立てきった自分をふりまけるとあって、崎陽には逆にいかにもこれ見よがしで、鼻向けもならない。

 そんな崎陽の中では、やり所のない気分と大一番を控えての自制心とが、(おぞ)ましく鬩ぎ合いを始めてしまう……。

 ここ、練習戦の舞台となるフィールドCは、二三区の中心エリアにありながら広大さを誇る帝政義学大キャンパスの外菀西通りの沿道という立地。
 周囲への陽当たりが考慮された地上五階建てながら、ずんぐりとだだ大きい総合コミュニティセンターの屋上に設えられていた。

 全三面で構成されるプラクティカルフィールド内で最も面積と観戦席数があり、変化に富んだ場面設定がディフォルトで展開されているものの、この一戦のための特別なセッティングまで幾つか施してある高難度シチュエーション。

 東亰ドーム換算で約半分に相当する規模で、迷路を描くブッシュあり、ネジれ歪んだ急勾配あり、廃墟を模した低層建築物ありと、まさしく実戦さながらのリアルゲームで存分に覇を争える出来映えだった。

 リアルゲームは概言すれば殲滅戦。相手ユニットを全滅させるか、相手ユニットを戦闘続行不能へと陥らせて、メンバーのいずれかが降伏の意を示した時点で決着。
 適宜に決められる制限時間内で決着しなかった場合には、離脱者数の少ないユニットが勝利となる。

 また、降伏するしかない戦状とは、ユニットのメンバー各個よりも先に、アーセナルと呼ばれる武器および弾倉等の集積テントが、攻め落とされてしまうことが常例と言える。

 各ユニットの戦略的に保衛し易い位置どりが許されるアーセナルには、各プレイヤーが所持しきれないレイ‐ガン類の交換用バッテリーや補充用のペイント弾倉。予備のメイン・アームとサブ・アーム。
 壊れたり、失ってしまった際には、付けなおしが義務づけられているプロテクター各種。
 そうした補給アイテム一切を仕舞い納めなければならない。

 そのアーセナルを失陥してしまえば、バッテリーぎれに、弾ぎれ、銃器の故障や破損、プロテクターの付けなおし不能といった理由により、致命弾を受けずともフィールドからの離脱を余儀なくされてしまう。

 よって椎座の古今未倒は、制限時間一杯まで戦い続けた結果、生き残っていたメンバーの数の差でユニットとしてしか敗北を喫していない。実質的には、これまで一発も致命傷判定を受けてはいないという意味になる。
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登場人物紹介

当作は ”ワケあり” ということから、情報ナシにてお愉しみいただければと……

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