019 ピスタチオのクドさは病みつきに…… side A
文字数 2,005文字
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廃工場の敷地を一人お先とぬけ出した崎陽が、こちらへと足を向けた理由、それはバスに乗ろうというわけではない。
この時季から暑威が衰えるまでの間、この地区の名物となるシェイヴドアイスを販売する店が目当てで、バス通りへ急いだ崎陽であった。
がしかし想像を絶した大行列に、一年越しの愉しみはノドの渇きごと挫 かれるハメになる。
値段が安いこともあって、練習帰りと思しき地元野球チームの小学生たちがキャッキャと騒ぎ並ぶ数はざっと五〇人。
そのあとに続いて並ぶ気力など微微とも湧いてこない崎陽は、さらに先にあるスーパーマーケットまで走り、一・五リットルボトルのサイダーをガブ飲みすることでノドの渇きだけはどうにか癒やす。
そこはDE系のアウトレットマーケットであるため、通りには人とクルマの進入口が面するだけで、広大な駐車スペースの外縁を廻って辿り着かなければならない一五〇メートル近くも奥まっている巨大倉庫型店舗。
一息吐いたあと、崎陽はドッと物憂さに襲われた。
バス通りへ戻ろうと、崎陽は今度、来た時とは反対側の外縁に沿った歩行者用通路をダラつきながらテクりだす。
こちらはこちらで、土曜の昼下がりだからか逆に駐車スペースはガラ空き。
麗らかな陽射しを、心地悪い照り返しに変えている辺り一面のアスファルトへ、恨みがましい眼差しを送りつつ、本意ない汗と愚痴も出てしまう崎陽だった。
「クッソ~、いつまたこっちまで来るかわからないってのに。近所のガキンチョどもは土日祝日くらい遠慮しろってんだよなぁ」
「そんなに食べたかったの? シェイヴドアイスって、かき氷でしょ」
「違うんだなぁそれが。長いカンナ屑みたく削いである氷なんだよガチで。それも炭酸水の氷だから口に入れるとシャワシャワして、スグに溶け崩れないようにシロップじゃなくさ、好みのジャムやパウダーを掛けるんだ」
「フ~ン。そうなの……」
「そ。
「キャ~それ見たかったぁ。ホント、古今東西ガキンチョは群れると遠慮がないんだからっ」
「ホント、ゲンキンだな和加も」
「まったくぅ、言っている傍から不遠慮に、こっちをガン見しているガキンチョがいるし。きっと崎陽がレジを済ませた途端に、大きなペットボトルをラッパ飲みしだして一気に飲み乾したから、まだ訝しがっているんじゃない?」
和加の託 ち言 で向けた崎陽の目には、スーパーマーケットのエントランス脇、着ているアイロングレー色の制服からして見憶えのない同年代男子が先に留まる。
その陰に半分隠れるようにして、確かに幼児サイズの人影も覗けていた。
そして幼児の人影が顔を上げて制服男子を促し、崎陽の方へとふり向かせる。
たまゆら互いを見交わしたあと、その制服男子は胸ポケットへ手を伸ばす──とり出した瞬間に、折り畳まれていた左右のサイドピースが開き、制服男子はそのままレンズまでが灰色がかった奇抜にもほどがあるアイウェアを装着した。
それも、
「……和加、あれってまさか……」
「えぇ間違いない、今確認できたわ。あれは、あのオルターエゴゥのアイウェア、ここへ来るまで電源をオフしていたと言うことよ。やっぱり未発表品のようね、データがなくてどこの開発品かわからない。ゴメンね、だからスペックも推断できないわ」
「それより、あれはガキンチョじゃないだろ、ロボットじゃねっ?」
崎陽がビシリと差した指を避けるように、制服男子の陰へぎくしゃくと引っ込もうとしているそれは、アルミニウムペイントの光沢がある軽量かつ高強度を感取させる、バリバリにフューチャリスティックなボディー。
頭部と胸の前面は、それぞれ形状が違うディスプレイでできていて、球形ディスプレイの頭部には驚き顔が表示され、胸部の平面ディスプレイでも≪RED ALERT!≫と赤文字を明滅させていた。
意思ある動きは窺えるものの、人工物なのは明らか。
「ロボット? ……当然あれも未発表なんだわ。ドローン一機の電源をオンして崎陽、そのまま飛ばさなくていいから、さり気なく急いで」
「了解だけど、先に眼鏡のカメラのレンズを拭いとくか? 汚れてんじゃね?」
「急ぐの! さり気なくだからっ……」
ただちに崎陽は、肩に掛けているエコバッグにすっぽりと回収したドローンの一機に手を伸ばす。
そのドローンは収納やもち運び易さが考慮された設計ゆえ、正方形のトレーに四つの穴が開いていて、そこに一基ずつローターが嵌っているカンジの形状をしている。
さり気なくできているかなど、気にしないことこそがさり気なさ、そう認識する崎陽の挙措はやはり軽挙にすぎず、制服男子の突進開始を招いてしまう。
それも、その猛然さにそぐわない無言‐無表情でスンスンと!
廃工場の敷地を一人お先とぬけ出した崎陽が、こちらへと足を向けた理由、それはバスに乗ろうというわけではない。
この時季から暑威が衰えるまでの間、この地区の名物となるシェイヴドアイスを販売する店が目当てで、バス通りへ急いだ崎陽であった。
がしかし想像を絶した大行列に、一年越しの愉しみはノドの渇きごと
値段が安いこともあって、練習帰りと思しき地元野球チームの小学生たちがキャッキャと騒ぎ並ぶ数はざっと五〇人。
そのあとに続いて並ぶ気力など微微とも湧いてこない崎陽は、さらに先にあるスーパーマーケットまで走り、一・五リットルボトルのサイダーをガブ飲みすることでノドの渇きだけはどうにか癒やす。
そこはDE系のアウトレットマーケットであるため、通りには人とクルマの進入口が面するだけで、広大な駐車スペースの外縁を廻って辿り着かなければならない一五〇メートル近くも奥まっている巨大倉庫型店舗。
一息吐いたあと、崎陽はドッと物憂さに襲われた。
バス通りへ戻ろうと、崎陽は今度、来た時とは反対側の外縁に沿った歩行者用通路をダラつきながらテクりだす。
こちらはこちらで、土曜の昼下がりだからか逆に駐車スペースはガラ空き。
麗らかな陽射しを、心地悪い照り返しに変えている辺り一面のアスファルトへ、恨みがましい眼差しを送りつつ、本意ない汗と愚痴も出てしまう崎陽だった。
「クッソ~、いつまたこっちまで来るかわからないってのに。近所のガキンチョどもは土日祝日くらい遠慮しろってんだよなぁ」
「そんなに食べたかったの? シェイヴドアイスって、かき氷でしょ」
「違うんだなぁそれが。長いカンナ屑みたく削いである氷なんだよガチで。それも炭酸水の氷だから口に入れるとシャワシャワして、スグに溶け崩れないようにシロップじゃなくさ、好みのジャムやパウダーを掛けるんだ」
「フ~ン。そうなの……」
「そ。
すみれ
ってヤツがメニューにあってな、和加の髪の毛みたいな青紫のグラデーションでさ、チョット見せてやりたかっただけ」「キャ~それ見たかったぁ。ホント、古今東西ガキンチョは群れると遠慮がないんだからっ」
「ホント、ゲンキンだな和加も」
「まったくぅ、言っている傍から不遠慮に、こっちをガン見しているガキンチョがいるし。きっと崎陽がレジを済ませた途端に、大きなペットボトルをラッパ飲みしだして一気に飲み乾したから、まだ訝しがっているんじゃない?」
和加の
その陰に半分隠れるようにして、確かに幼児サイズの人影も覗けていた。
そして幼児の人影が顔を上げて制服男子を促し、崎陽の方へとふり向かせる。
たまゆら互いを見交わしたあと、その制服男子は胸ポケットへ手を伸ばす──とり出した瞬間に、折り畳まれていた左右のサイドピースが開き、制服男子はそのままレンズまでが灰色がかった奇抜にもほどがあるアイウェアを装着した。
それも、
ドヤ
! と崎陽へ見せつけているような恥がましさ。「……和加、あれってまさか……」
「えぇ間違いない、今確認できたわ。あれは、あのオルターエゴゥのアイウェア、ここへ来るまで電源をオフしていたと言うことよ。やっぱり未発表品のようね、データがなくてどこの開発品かわからない。ゴメンね、だからスペックも推断できないわ」
「それより、あれはガキンチョじゃないだろ、ロボットじゃねっ?」
崎陽がビシリと差した指を避けるように、制服男子の陰へぎくしゃくと引っ込もうとしているそれは、アルミニウムペイントの光沢がある軽量かつ高強度を感取させる、バリバリにフューチャリスティックなボディー。
頭部と胸の前面は、それぞれ形状が違うディスプレイでできていて、球形ディスプレイの頭部には驚き顔が表示され、胸部の平面ディスプレイでも≪RED ALERT!≫と赤文字を明滅させていた。
意思ある動きは窺えるものの、人工物なのは明らか。
「ロボット? ……当然あれも未発表なんだわ。ドローン一機の電源をオンして崎陽、そのまま飛ばさなくていいから、さり気なく急いで」
「了解だけど、先に眼鏡のカメラのレンズを拭いとくか? 汚れてんじゃね?」
「急ぐの! さり気なくだからっ……」
ただちに崎陽は、肩に掛けているエコバッグにすっぽりと回収したドローンの一機に手を伸ばす。
そのドローンは収納やもち運び易さが考慮された設計ゆえ、正方形のトレーに四つの穴が開いていて、そこに一基ずつローターが嵌っているカンジの形状をしている。
さり気なくできているかなど、気にしないことこそがさり気なさ、そう認識する崎陽の挙措はやはり軽挙にすぎず、制服男子の突進開始を招いてしまう。
それも、その猛然さにそぐわない無言‐無表情でスンスンと!