3-5政治家の心得

文字数 1,249文字

政治家の心得

 「お疲れさん、まあ、先ほどのことは胸に刻んで忘れなさい。政治の世界にはこういったことが多々ある。あなたは生きているということは、次に進めるということだ。では、選挙の前に、政治家としての心得を言い渡す。これも胸に刻んで忘れなさい。」
 エイプマンが入室前とは違い、親近感を込めてマネーマンに話しかける。どうやら同じ体験をしたということで、仲間として認められたようである。こういった通過儀礼があるというのは、いささか古臭く感じたが、マネーマンは政治に関しては何も持っていないので、謙虚に学ぶ姿勢を前面に出した。それを見てわかりやすくエイプマンは機嫌が良くなった。この単純なヒエラルキーをバカバカしく感じたりもするが、知ったふりして、もったいぶる連中よりマシだと思った。この方が、結果まで時間がかからない。マネーマンの様子を見て、準備が済んだとエイプマンが柔和な笑顔で政治家の心得講座を始めた。
 その1・決して断定してはならない
 何かを聞かれて答える必要がある場合、決して断定的な答えを出してはならない。答えは「前向きに検討する。」「すみやかに善処する。」など結果、期間をあやふやにすると同時に、否定はしない。結果、何もしないということをとても遠回しに言う。これは非常に需要だ。決めるのも、やるのも官僚と役人。責任を取るのも我々ではない。
 その2・決して約束はしない
 国会答弁では、絶対に約束してはならない。また、選挙中に要望を聞いても、絶対に「やります!」などと約束してはダメだ。約束できるのは精神的なもだけ「頑張る」とか「負けない」とか結果が伴わない口約束はしても良い。ただ、この心得になれてしまうと、無免許運転したり、国民健康保険払わなかったり、税金払わなかったりと、約束事を反故する癖がついてしまう。国民としての最低限の義務は守らないとダメだ。しかし、うっかり約束したら、自分の首を絞めてしまうことになる。
 その3・決して自分で考えない
 これも重要。法案とかはあくまでも官僚が考えることで、我々がするのは、その法案を取り上げて、わざとらしく案を蹴って回す蹴鞠をすることだ。あとは世論という反応を見て、官僚がうまくやる。決して、自分で考えてこうしたいとかああしたいなどと思ってはダメだぞ。そういうことがしたいなら、いい大学出て、国家公務員試験を合格して、霞が関で働けばいい。
 その4・決して人を助けない
 人を助けるのは警察とか弁護士とか医者とか消防隊とか自衛隊などがする。人助けとは、ちゃんと教育を受けた博愛主義の人たちが自己犠牲ですることだ。我々政治家は、まず、自分を大事にしないといけない。人を助けようなんて考えてはダメだ。また、人を助けるということは、個人に注目するということだ。政治家は個人に注目してはならない。個人の幸福は全体の幸福には絶対につながらない。まず、自分が幸せであることが何倍も需要なことなんだ。自分が足りて仕合わせな状況でないと、まともな判断ができないからな。
 
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