2-25 ドロー嬢7

文字数 1,373文字

 ドロー嬢は真っ暗な部屋で一人きりになり、膝を抱えて沈み込む。世界的な表現者のヤンが絶縁コメントを出したため、海外の登録者が逃げていった。百万人チャンネル登録まで、あと五万人のところまで来ていたが、あと二十万人に遠のいた。ただ、これはどうでもよかった。憧れたヤンからの否定がキツかった。ああいった表現者になろうと思っていたが、せっかく見てもらうところまで届いたのに、思い切り蹴り飛ばされてしまった。単純に好きな人から嫌われたというのがショックだった。しかも、どう考えても裏で糸を引いていたのはマネーマンで、父親がその手下という、誰も信じることができない図式が出来上がっていた。
 なにか私が悪いことをしたのでしょうか?
 好きな絵を描いて、それを良くしようとたった一人で向き合って、理想を現実に近づけようと頑張っていたのに、それを勝手に足を引っ張られて、邪魔されて、大事なものさえ奪われる。私は評価なんて要らないと言えば嘘になるが、妬まれて、恨まれるほどの大きな評価、権威は要らなかった。ただ、単純に、私の描くアニメを良いと言う評価をしてくれる人がいて、悪口や邪魔なんてなくて、何年かかけてファンが増えて、憧れるヤンに認められて交流ができるところまで出来れば十分だと思っていたが、勝手に憎んで、競争を持ちかけるマネーマンが現れて、話を大きくし、その分、見返りがあったことは確かだが、評価が増えれば増えるほど、悪い思念のようなものが周りに増えてきた。それはどこからか監視されているような息苦しさを持ってきたし、何をやっても評価が気になると言うストレスを私の生活に持ち込んだ。もう嫌だ。なんとなく、自殺したはーちゃんのことを思い出した。ああ、はーちゃんは、マネーマンと付き合って、妬まれて、誹謗中傷され、もう、生きているのが嫌になったんだ。表に出て評価をもらうと言うことは、常に悪意の目に見られているマイナスを思い切り抱えることになるんだ。秀でたものは、そうでない人に、持ってない人に妬まれる。これは仕方がないことなんだ。
 もう死のうかなあ
 今すぐ死ねば、悩むことがなくなる。この先の悩みも無くなる。煩わしいことが消える。そう考えると、体が固まったように何も出来なくなった。もし、少しでも回復して、体が動くようになったら、すぐに飛び降りて死ねる場所に動くだろう。そのぐらいドロー嬢は追い詰められていた。ただ、この追い詰められた状況を絵に描いたらどうなるだろうかと考えた。固まって丸まった動けない体は、どこから動くのだろうか?何かを掴むため、やはり指だろうか?いや、案外、首じゃないか、顎を上げて見上げるところから再生が始まるんじゃないか?見上げても、真っ暗な部屋があり、明かりをつけたところで、生存の現状を突きつけられるだけで、それこそ死に急ぐことにならないか?見回して、絶望しない方法は何か?何を見たら、考えたら、首を上げる次の行動に移ることができるだろうか?
 目を瞑ればいい。リセットするんだ。
 リセットした後に、同じ世界が目の前位広がっていたら、そりゃ、絶望するだろうが、腹は座るのではないか?一旦落ち着きを取り戻したら、わたしだったらどうする?絵を描くに決まっている。今までもそうだし、これからもそうだ。絵を書けるうちは、死ぬなんて、勿体ない。
 
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