3-9政治家の心得

文字数 1,298文字

 今回の参議院選挙、四人の議席に十四名が立候補を表明した。選挙の目玉はやはり自国党から出馬する柄澤友蔵であった。何しろ、自国党より流石総理が出馬することが決まっている。総理が出るのに自国党が候補を立てると言うことは、票が割れるし、なにより、党内が割れていることが如実にわかり、政策ではなく、政局というどうでもいいことに注目を集める結果となっていた。地下階幹事長と流石総理は派閥が違うが、仲が悪かったわけではない。しかし、権力を握る地下階エイプマンに対して、流石総理がおもしろく思ってないのは、周知の事実だ。エイプマン幹事長は八十を超えており、流石総理が「高齢化が問題になっているのは、どこも同じ。」などと先日のパーティーで口走ったことから一気に険悪な雰囲気になったと週刊誌は報じている。それに、特別枠はマネーマンとなり、総理が比例復活ということもない。総理なんだから票を集めて当然と党から突け離された格好と見ることもできる。自国党は4議席のうち、2議席を取りにきている。不景気なので与党離れの動きがあるし、疲弊した地方、小選挙区は危ういところが多い。中選挙区、首都圏で好調な様子があれば、必ず小選挙区に波及する。不景気で行き詰まっている世相では、投票率が上がれば、与党が不利になる状況にはなるが、議員たちは評価というものが一晩でひっくり返る事を世間より深く理解している。評価を集めるプロは、餌場のタイミングは心得ているのだ。
 マネーマンは政策に興味はなかったが、こういった子供じみた政局にも興味が薄かった。マネーマンは初めから経営者で従業員になったことがないので、組織の争いがピンとこなかった。あっちを立てれば、こっちが立たずといった狭い範囲での評価の競い合い。今まで考えたこともなかったが、今は、評価がすべてを左右する場所にいる。間違った側にいると、評価を一緒に落としてしまう。もし、あの百二十四歳のパワーマンが裏で糸を引いているのなら、ここはエイプマンについたほうがいい。それが自分を守ることになるが、とはいえ、評価という嵐は吹き抜けた後に、結果を変えてしまうこともある。だとしたら、流石総理をスッパリと距離を置くべきではない。
 マネーマンの考えとして、評価が多い方に近づいておけば、勝手に評価が増えてくる。お金と一緒だ。集まるところに集まるようになっている。という基本的な事を破らなければ、自分は評価をさらに集めることができるだろうし、評価が欲しいものが、評価を持つ自分に近づいてくる。政治家で長くやるには、一人になってはダメだ。とてつもない能力をを持つものは一人になっても大丈夫だが、政治家には能力がない。となると、孤立すると、相手にされないと、評価を一気に失う。
 評価がないと能力がない人間は干上がる。
 非常にくだらないが、ゲームとしては面白いし、うまくいけば何もしないでもヒーローのような待遇を受けることができる。世の注目を浴びることができる。
 マネーマンは集まる視線を思い出す。ああ、早く、聴衆が待つ街頭に立ちたい。あのエキサイトメントが忘れられない。世界から祝福されたような注目!
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