2-18 マネーマン5

文字数 1,408文字

マネーマン5

 「一応、カタがついたのかもしれないけど、これは勝ちじゃ無いよね。まあ、一旦落ち着いたから、旭川さん、あなたには入社してもらう。交渉内容のリポート読んだけど、これは、上手い方法です。合格です。これは我々では出来ないし、思いつかない方法です。有難うございます。」
 マネーマンはソファーから立ち上がって、旭川に頭を下げた。旭川は得意げな感じで余裕の表情を見せた。秘書はそれを見て頼もしいと思ったと同時に、油断ならぬ上司が発生したことが気になった。おそらく、三日もすれば大きな態度で出てくるだろう。dadaパレスには中途入社が多く入ってきて、多く出ていく。そういった会社なので、雰囲気で大体わかる。部長職までして、賃金がどうとかで転職してくる輩が多いが、大概は、元会社で行き詰まって、出てくるパターンがほとんどだ。行き詰まるパターンは、1:同じことをやってきて、それ以上にならない状況になれば、他の手段を考えるべきだが、安穏と権力の椅子に座っていた人間ではそれは出来ない。で、新しいことを考えるモグラを叩くのが仕事となり、事業そのものの寿命を縮めてしまう。2:権力を握ると、それに終始して、自分の存在を過大評価する。無茶を言いだし、自覚のないパワハラが始まり、部下がついてこれなくなる。人が辞める会社にしてしまう。3:責任を負うことが負担になり、ストレスに対して給与が少ないと文句を言い、新しいところを探して逃げる。こんな感じで厄介な老害確定になると、賢い経営者が追い出しにかかる。さしずめ、旭川は2のパターンだろうと秘書は理解した。おそらくマネーマンも理解している。マネーマンは自分勝手で自意識過剰のわがままな人間だが、そういった組織の運営に関しては能力があるのだ。
 「まあ、我々も、旭川さんのおかげで無駄な出費が抑えられるから満足です。ただ、本当にこれで動きが止まったとも思えません。本当は腕を折って二度と絵を描けないぐらいにして欲しかったのですが、まあ、遺恨が残ると違う問題が発生するので、今はこの方法がベターでしたね。ベストがなんなのかは継続して考えてください。あなたは部長だから、その辺はお任せします。部長となったからには、年の予算は二千億です。あなた以外にも販売の部長は三人います。企画の部長は二名、その他の部長が八名。あなたは十四番目の部長です。ランクも部長では一番下からのスタートになります。我々は成果主義で動いてます。三ヶ月ごとの審査があり、問題があれば次の三ヶ月で様子を見て、ダメならさってもらいます。権限は与えますが、それなりに厳しい立場であることはご理解下さい。」
 dadaでの部長職はプレイヤーではなく管理職に徹しており、三ヶ月で皆、次の継続を獲得するために自分の持つノウハウをすべて注ぎ込む。だいたい半年で、ノウハウを吐き出し切って、dadaは利益を生み、使用済みとなった部長は去る。これはマネーマンの考え方である。自分のところにない考えを買い入れ、吸収が済んだら、次のノウハウを買い入れる。つまり、dadaにとって部長とは消耗品なのである。三ヶ月は死に物狂いで働き、出し切ると、安心して本性を表す。継続して新しい仕組みを考えられる人間は残るが、そうでない場合は、悪い癖をだしてしまう。だから秘書はパターンを見分けたし、旭川が家族を裏切ってまで部長になったことを多少気の毒に思った。
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