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文字数 1,266文字

  物質を作る訳でなく、仕組みを作るだけなので、池上は一人ですっかり隙のない仕組みを作り上げた。それは「スターアイランドシステム」というもので、ファンという出資者と、出資者に支えられるパフォーマーという関係によりお互いが評価し、影響をしあう集団という関係だ。スターは島の領主で、ファンは住民である。住人は領主に税金を払い、領主は権威を持って島を治める。ファンがパトロンとなってスターを養うという形ではない。あくまでもスターは集団の主人である。しかし、その主人のライブなどの興行は、あくまでもファン主体で行う。ファンが曲を決め、場所を決め、主人にお伺いを立てて、選曲していく。スターとファンがライブという空間を作り上げていく。このあたりは主従関係ではなく、対等でもない。
 報酬はパフォーマーに対する評価として、対価が払われた。対価や貢献が多ければ最前列など好きな場所に陣取れる。この優先順はファンが階級を元に決めていく。ファンの階級は、金銭的な貢献度と、これまでの貢献度、あと、筆記試験で行われる。その総合点で得点が表記される。百点満点というのはない。ただ、多く加点されるだけだ。旭川はその制度で二十三番目の順位となった。金額は相当だったが、上には上がいた。旭川は自分がこの仕組みに携わったからと順位の繰り上げを申請したが、金額と貢献度の表を見せられ、黙るしかなかった。今回の貢献がなければ四十七番目だったのだ。ただ、旭川は筆記試験は満点である。内容は最初のライブの曲や、チケットの相場、Tシャツの柄の変化、中止されたライブとその理由などコアなファンしか覚えてないようなことを大事に覚えていた場合に評価される。また、点数は張り出され、みんなの前でダイスのメンバーから表彰されるという名誉をもらえる。
 ダイスのファンでない人から見たら、それは悪趣味な王国ごっこにしか見えないが、しかし、あまりにもファンが楽しそうにしているので、その遊びに加わりたくなるファン以外は多かった。ダイス王国の様子は池上が動画を編集し、広告用はユーチューブで流し、ノーカット版は王国のサーバーにログイン資格がないと見れない。流行しつつあるオンラインサロンと同じだが、オンラインサロンと違って、ライブの一体感が味わえるので、お金だけ取られて画面越しの説法を聞くという情けない思いを、意識高いふりをして、平気な顔で隠すような惨めな思いは全くなかった。ファンにとっては、職場や家より寛げる大事な場所となっていったし、その考えに賛同して、参加するものも多かった。
 ダイスのスターアイランドは豊かな島となり、半年足らずでダイスもマンションを買い、ファンに施され、これまでの苦労が報われたように穏やかな時間を過ごせるようになった。ダイスは池上に感謝した。池上はそれを嬉しく受け取ったが、三月に見たギラついた還暦過ぎたロックンローラーがいなくなったことが寂しくもあった。ダイスは、いまや、遅れてきたスターであり、家庭的な雰囲気さえある。もう、革ジャンが似合わなくなっている。
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