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文字数 1,274文字

 「もちろん、流せませんよ。乾杯までが放映で、こっから先は流しません。これは、自分が思っていたことの実践になるから、ネタバラシする訳にはいかないんで。」
 「了解、旭川さんみたいなファンは百人ぐらい、いるよ。それはこっちも理解していて、人数の割合で言えば1割もないけど、売り上げは3割超えるね。そのファンがいるからロードに出れる。旭川さんは大事なお客さんだよ。ありがとう。」
 旭川はやすひろの言葉に恐縮した様子だが、何か現実を見せられたような寂しさを感じたようだった。だが、ダイスにとって自分は必要だと言うことがわかって、それは嬉しかった。親孝行が認められたような成長を強く感じた。だから言葉が出なかった。
 「でも、旭川さんみたいな人がTシャツを買い続けるのって、どう思います?」
 「それ、正直片目つぶってる。そんなに着ないだろうな、要らないだろうなと思いながら、でも、直接お金をもらう訳にはいかないし。それに熱烈ファンって、俺らと年齢変わらんからね。いつの間にか、聞いてる連中が、俺たちの収入超えてるからね。憧れられているのは理解しているし、俺たちにも意地がある。本当は、こうやってファンに奢ってもらうなんて、ないからね。いつもはメンバーと安酒飲みに出てるけど、今日はいい酒久しぶり飲んでるのが事実だよ。」
 やすひろはジョーに視線を向け、自虐的に笑う。池上は黙って聞いている。旭川だけが、聞きたいけど聞いてはならない情報を得ているようで浮足立っている。
 「池上、これ聞いて、なんの得がある?やすひろさんも、言いづらいこと言わなくていいですよ。」
 「いや、逆に俺は、ファンに聞いて欲しいってのはあったんだよ。なんかさ、長年支えてもらって、悪いな、ってのはあって、でも、それ言うと、旭川くんみたいになっちゃうだろうから、言えないんだよ。俺、結局、結婚できなかったけど、たぶん、稼ぎの少ないお父さんって、こんな気持ちなんだろうな、って最近思うんだ。」
 「いや、お父さんって年齢じゃねーよ!俺たち、じいちゃんって年齢だから。」
 ジョーが砕けた様子で笑ってツッコミを入れる。やすひろもツボに入ったのか、大笑いしてむせた。旭川はダイスの確信に唯一触れたファンになったことを誇りに思った。池上は酔っていたが、昼寝から目覚めたように聡明だった。今なら話せる。
 「本音聞かせてもらい、ありがとうございます。私、いま、評価経済社会ってのを勉強してまして、何かそれを活かせないかなって思っていたんですが、それを活かす方法をこの場で見つけました。詳細、方法はまた、まとめますが、私が提案したいのは、評価をそのまま、お金にする方法です。ユーチューブとかは、もうそれになっているんですが、いいね!の数が収入に繋がってます。私は先週二百万円振込がありました。ワールド郎のおかげです。ワールド郎の評価数がそのまま広告費になってます。何かを販売した訳でなく、評価があるだけでお金が勝手に集まってきたんです。」
 「今回のライブぐらいの上がりが一週間であるのか、ユーチューブすげーな。」
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