3-7政治家の心得

文字数 1,470文字

 

 マネーマンは2018年の秋口から極秘のうちに自国党の幹部とコンタクトを取り、顔見知りとなっていった。出馬する地区は神奈川に調整された。マネーマンは半年間、「調整」という言葉をよく聞いたし、自分も使うようになっていた。人事の調整役というのは、会社組織では、はっきり言って時間の無駄にしかならないが、政治家は一番それに時間を費やしているように見えた。機嫌を損ねないように、うまく根回しをする。条件の提示と譲歩の要求。求める成果がはっきりしていれば、そんなことに時間を費やす必要は全くない。事業では結果が全てで、結果に伴って人事も裁量も決定される。しかし、政治の世界では、結果がはっきりしていないので、まず、調整から始める。まるで、結論を巧妙に隠し、責任の所在をあやふやにすることに神経をすり減らしているように見えたが、政治とは、政治家が商品の番組であると理解してからは、出演者の機嫌を損ねると、番組がしらけてしまうから、調整は必要だとマネーマンは理解して、それに準じていった。
 マネーマンは、2019年の春が近づき、いつのまにか半年間で変化していた。政治家の家業に足を踏み入れることによって、それが、案外人間らしいのではと肯定的になっていたのだ。政治家業とは自分の存在だけを考えて、どうやってよく見られるか、どうやって賞賛を浴びるか、いかに人に好かれるかだけに時間を費やすことである。実業家である頃、確かに商品を売って、一儲けしようという野心もあったが、お金がある程度ある状態になってからは、人から羨望の眼差しを浴びることだけが関心の中心になっていた。だが、自分を前に出すより、事業が先にあったので、それを盛り立てることで、自分への世間の関心を高めようとしていた。つまり、自分が生み出した事業がないと、自分を目立たせることができない。主役が事業となっていた事に、何か、もどかしさがあったことが、ハッキリしてきた。自分自身が評価され、目立たなければ自分の人生に意味がない。
 存在が価値になる、価値があるから存在できる。価値があるから金が回ってくる。食っていける。「私がいるから世界は素晴らしい。」という身勝手な考えを世間に浸透させる。決して自分で何かをしてはならない。つまり働いてはダメだ。働くフリは望ましい。しかし、基本的に世のため人のためになったりしてはいけない。自分のためだけに生きる。その自分のためであっても、自らが手を汚してはダメだ。誰かにさせるのだ。自分は座っておけば、存在しておけば何不自由なく生きていく事ができる状態に持っていくことが目標だ。何もせず、何も考えず、人の好意に甘えて、楽して生きるのだ。
 最終的には何もしないで、腹が減ったら、誰かにお願いして食べ物をもらう。
 考えが行き着いた時、それが、何を意味するかボンヤリと理解できそうになったが、それは捨ててしまい、とにかく、自分には価値があり、何もしないでも賞賛される存在にならなくてはならない。存在だけで賞賛される。こんなに難しい課題はない。何もしないでも、関心を集めて、見てもらい、生活ができる。しかし、それでは・・・いや、それこそだ!
 マネーマンは時に悩みつつ、大勢の政治家とあっていくうちに、自分の悩みが、何もしないことに対しての罪悪感のようなものが、政治家になるのならば、まるで不要ということに無意識に思うようになっていた。なにしろ、政治家は選挙のことしか考えてない。票を得るのに、自分の評判、見られ方と、対抗馬の評判しか考えてない。しかも、それが細かいのだ。
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