2-5 マネーマン1/ドロー嬢2

文字数 1,215文字

 前向きで思い通りに人生を進んできた柄澤にとって、人からの悪意は、妬みは、批判は耐えることができないものだった。胃がせり上がるようにムカムカし、頭が締め付けるように痛かった。柄澤は打たれ弱かった。商売では無敵の精神力を持っていたが、批判に対しては小学生並みの忍耐力しかなかった。目を真っ赤にし、大きなソファーで小さく体を抱える。秘書が問いかけても黙りこくっている。
「俺は、そんなに悪いことしたか?運転ド下手じゃないし。好きな車買って目立とうとして何が悪い!しかし、もうだめだ!嫌われた!いじめられる!」
錯乱した柄澤の様子に秘書は、千人を超す従業員を路頭に迷わすわけにはいかない。と思い、柄澤に提案する。
「間違ったことを言う人はいます。生まれつきのものです。ただ、その悪い影響が伝染してはいけません。経費を使って社長の批判を消します。気にしないでください。批判が消えれば、評価は上がる一方です。」
 柄澤は秘書の言葉に、悩みが溶けて消えたような笑顔になった。秘書は柄澤には特別な才能があるが、子供のように無邪気で繊細な部分もあり、扱いが難しいことも理解していた。

ドロー嬢2

 イルカの動画は諦めた。もっと描くべき内容が見つかった。ドロー嬢の憧れる女優、阿修羅坂はるか、通称「はーちゃん」のダンスを書かなくてはならない。はーちゃんは読者モデルでデビューした。その後、タレント活動をしたが、その一部にナレーションの仕事があった。少し低めだが、柔らかさのある声で、ドロー嬢にとって理想の声だった。自分がアニメーションで大きな仕事をするときは、どうしてもはーちゃんに声を吹き込んで欲しかった。だが、それは叶わぬこととなる。はーちゃんは実業家の柄澤友蔵と交際していると報道があり、交際宣言もしていた。それに関しては、はーちゃんもデビューして年月もたち、人気も下降気味だったので、芸能寿命を伸ばすために話題になるなら仕方ないと思っていたが、柄澤は最近、その巨額な資産を餌に、有名どころの女優、タレントと噂になることが多かった。それは、明らかに注目を集めるための手段だと、誰の目にも映っていた。なにしろ旅行に行った、食事に行ったなど、プライベートは全てツイッターで写真付きで発信していた。金持ち自慢、彼女自慢で、ツイッターのフォロアーも増えていって、ドロー嬢は、宣伝効果はあるが、それにはーちゃんを使われるのが、彼女が消耗する様子が嫌だった。ネットでの評判がはーちゃん批判が多く、柄澤批判は少なかった。というのも、メディアの伝え方が、人気下降のはーちゃんが金に目が眩んで柄澤に取り入っている。柄澤はそれに騙されているというニュアンスで記事が作られていて、それに引っ張られる形ではーちゃん批判が多かった。どう考えても柄澤が金の力でタレントを抱いているだけなのだが、メディアは広告主になる事業家の味方である。また、気になるのがネットでの柄澤に対する評価で
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